第9話 ビ・リ・リなエモーション

「ただいまー」

 悪魔の男との戦闘を終えて、クロノは肉体的にも疲れて帰宅した。

 戦闘は彼の余裕の勝利に終わった。しかし倒したはいいがこの悪魔をどうしよう、とひとり悩んでいた所、何とブレスレットが天界との通信機代わりにもなるという事実を発見し、すぐに知らせて引き取りに来てもらった。あのクソ姉貴……まだ説明してない事があったじゃねーかよ……急かしたのは俺だけど。そして男は天界に連行されていった。やがて極秘裏に、捕らえられた悪魔専用の施設へと収容されるだろう。

 案外ちょろいもんだな、悪魔ってのも。彼は先ほどの戦闘を思い出した。あんな奴、神器を使うまでもなかったな。

 ただ、ひとつ気になる点がある……。

 あの男は確かに、王女様という単語を使った。それに、また・・ガキだとか何とか……。

 あくまでも推測だが、その王女というのは俺と同じくらいの子供なんだろう……じゃあ、どこの王女だ……? まあ詳しい場所はともかくとして、その王女ってのも悪魔である可能性が極めて高いだろうな……。

 悪魔の王女様ねえ……。

「まためんどくさそーな事に……」

 あ~あ、何で姉貴ん時は何にもなかったのに、俺の時になると……ほんとにめんどくせー……。

「あ、お帰り、クロノ」

 リビングでテレビを見ていたシエルが声をかける。

「おう、ただいま。悪かったな、急にどっか行っちまったりして」

「ううん、別に。用事って何だったの?」

「え? 特に大した事じゃねーよ」

「ふ~ん……」

 彼女に自分の正体は一応隠しておく必要がある。クロノとしては別に天使だという事がばれた所で問題はないのだが、その事が人間の社会に少なからず影響を与えるのは確かだからだ。

 しかし、目の前のこの少女に嘘をつく事に対して、彼は決して何も思わないわけではない。

 彼女、シエルというこの人間の少女と初めて会った時、彼は不思議な気持ちになった。どことなく似ている、と思ったのだ。彼の記憶の中にいるある少女に。深い深い思い出があるあの少女に。そんな彼女に嘘をつく事は、彼のその思い出のとあるワンシーンと重なるのだ。クロノにとっては、それはとてもとても重要なシーンなのだ。

 やがて彼の帰宅から三時間が過ぎた頃、小さな事件が起こった。

 シエルが冷蔵庫から取り出したミルクティーを見て、クロノもそれを欲した。彼女がその紙パックを彼に手渡した時だった。

「ひゃっ!」

 と突如彼女がかわいい声を上げた。

「おっ! どうした?」

 クロノは少し驚いて訳を聞く。

「え……今びりって……」

「え?」

 彼はしまったと思った。

「? おい? そのびりって……」

 神の一族は、生まれた時から不思議な力を持っている。発電能力だ。体から自由に電気を放つ事が出来るのである。それは戦時中、敵と戦う時に役に立ったらしい。どうしてそんな能力を持っているのか、それは謎である。

 先ほどの悪魔との戦闘でも、彼はこの発電・放電能力を利用して戦闘を繰り広げた。その際の電気が、まだ少し体の表面に残っていたのかもしれない。そういえば今、紙パックを受け取る時にシエルと手が触れ合った。その時にびりっといっちゃったのかも……。

「な……何でもない!」

 彼女は顔を真っ赤にしてキッチンを飛び出していった。

「……やべー、怒っちゃったかな……顔赤かったしな……」

 でも、不可抗力なんだけどな……と彼はミルクティーをコップに注ぎ始めた。

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