●27日目 02 昼『まだ来ない助け』

 うまい具合に消火作業に来たヘリに自分たちの存在を知らせることに成功し、数時間後には別のヘリが確認に訪れた。そのときに校庭にパラシュートで投下された小さな物資には衛星を使って通話するタイプの携帯電話が説明書・注意書きとともに入っていた。


 沙希は生徒会室に戻りその電話の説明書を読みつつ、


「まだ地上には降りられないからこれで連絡を取れってことか?」

「ですが、着信も発信も制限されていますね。あくまでも向こうの特定の場所としか連絡できないようにされています」

「面白い話ではないね。こんな状況なのに向こうの意図にしたがされるなんて」

「無理もないわよ。国会は相変わらず大もめだし、マスコミは隙あらば叩く姿勢ばっかりだし、向こうも余計な情報が流されないように気をつけているんでしょ」


 梶原と光沢と八幡がそんなことを言っているが、グダグダしゃべっていても仕方ないので沙希は注意書きに書かれた電話番号にかけてみることにした。


 ――それから一時間あまり電話の政府の人間とのやりとりが続き、希望などを全て伝えて通話を終了した。


「あー、疲れた」

「お疲れ様です」


 そう光沢が気を利かせてお茶をもってきた。しゃべりすぎて喉が渇いていたので、まずそれを一気飲みして喉の滑りを良くする。


 連絡を取り合った結果、明日以降毎日校庭に食料を投下してもらえることになった。必要な物資もこちらから言えば送ってくれるらしい。略奪者によって根こそぎ食料を持って行かれて困窮しつつあった状況では朗報だ。それに略奪者によって人数を減らされた治安担当チームが食料などを確保するために外に出る必要が無くなったのはかなり大きな負担軽減になる。


「そういえば八幡は?」

「さっき呼び出しを受けて出て行ったが、それっきり戻って来てねぇな」


 梶原の答えに、後で伝えればいいかと別の件のまとめに入る。


 救出についてはまだ具体的な時期は示されなかった。やはり変質者たちの取り扱いに関して法律上の問題で揉めているらしい。もうしばらくかかるとのことだ。そのせいか遥か先の避難所への移動をしつこく促された。向こう側もできるだけ避難所に集約させて難民の管理と把握を徹底したいのだろう。彼らにとって沙希たちの存在は想定の範囲外でありイレギュラーなのかもしれない。


 しかし、学校内には200人ぐらいの生徒がいて、さらには外には変質者の群れ、おまけに正体不明の略奪者の存在もある。避難所の状況は相当悪いという話も合わせれば、移動するメリットが全く見当たらなかったので断ることにした。ここに物資を送ってもらえばなんとかなると強引に押し切った形だ。


 火災の原因を聞かれたときに略奪者によって襲われたこと、そして彼らが極めて残虐な行為をしたことも伝えておいた。念のため避難所から来た連中の可能性も伝えてある。とても同じ人間には見えないが可能性がゼロではない以上は言っておいたほうがいい。また頭のいい変質者がいる可能性も伝えたが、向こうは淡々と聞いて対策本部に伝えるとだけ言っていた。


 その状況に光沢はいつものように胡散臭い笑みを浮かべ、


「つまり現状の問題であった食糧難と火災の問題は解決しましたが、結局あまり変化はないってことですね」

「当分はこの生活が続くって事よ」


 そう沙希は解決したんだかしていないんだかわからない状況に机に突っ伏してしまった。


 だがそれを真っ向から否定したのは戻ってきた八幡である。


「今まで通りってことはないよ。むしろかなり悪化しているね」

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