●12日目 04 昼『罰という名の貢献』
生徒会室の中はものすごい緊迫した空気だった。部屋の中心には昨日就寝時間にも関わらず外に出て騒動を起こした不良男子生徒。その正面には生徒会長の沙希。
そしてその周りを理瀬が責任者を務めていた清掃担当の生徒たちが取り囲んで不良生徒を睨みつけていた。もし沙希が許可をすれば一斉に殴りかかるだろう。
侵入者事件の夜が開けた後、沙希は体育館で全校集会を開き、経緯を説明した。情報統制などは全くせず、変質者が三名学校内に侵入し、うち一人が校舎内に侵入したこと、その原因は規則を破って夜間に外に出ていた不良生徒がいたこと、この侵入により清掃担当の責任者である森住理瀬が殺されたこと、今回の犠牲の責任は全て生徒会長にあることを伝えた。
で、その後不良生徒の処遇を決めようとしていた時に、怒り心頭の清掃担当たちが押しかけてきた状態だ。噂はとっくに流れていたものの、中には集会で初めて知った生徒もいたらしい。完全に全員キレている。
「追放しましょう!」
清掃担当の女子の一人が叫んだ。それが引き金になった。
「こいつのせいで森住さんが死んだんでしょう!?」
「こいつが余計なことをしなければこんなことにはならなかったんだ!
「なんで規則を破ったのよ!」
「こいつのせいで!」
「なんでこんなやつのせいで森住さんが!」
「いっそこの場で殺しまえばいい!」
清掃担当の生徒たちが堰を切ったように罵声を浴びせ始めた。不良生徒は怯えたように頭を抱えて床にふさぎ込んでしまう。本気で殺されかねない勢いだから無理もない。
あありせっちは好かれていたんだな。沙希は思わず笑みが浮かびそうになるが、無理やり押さえつける。
黙ったままだった沙希だったが、しびれを切らした女子が矛先を変え、
「こいつをどうするんですか!?」
そう睨みつけてきた。だが、沙希は動じず、
「どうもしない。今回の件は全校集会でも言ったとおり全てあたしの判断ミス。だからこいつがその責任を追うことはないわ」
「……なんですかそれっ」
女子がビキビキと額に神経を浮かべた。それを皮切りに今度は沙希への攻撃が始まった。
「生徒会長はそれでもいいんですか!?」
「なんでそんなに落ちいていられるんですか!」
「ひどすぎる……森住さんが死んでも何も感じないなんてっ!」
「この悪魔!」
「……流石に聞き捨てなりませんね」
珍しく光沢が厳しい顔をしたまま、激高している清掃担当たちの前に立ちふさがった。
「怒る気持ちはわかります。ですが、森住理瀬さんは生徒会長のご友人です。それも中学校に入って以来一番親しかった間柄なんです。にも関わらずその言い方は――」
「光沢。その話は必要ない」
沙希の冷たく尖った言葉に、光沢はしばらく口を止めたのちに、また沙希の背後に戻り、
「……失礼しました。出過ぎた真似をしてしまったようです」
「気にしてないから」
光沢の姿をちら見するが、その顔からいつもの営業スマイルはすっかりなくなっている。
一方の梶原はじっと沙希の背後で黙ったまま立っていた。いつもならキレそうなところだが事前におとなしくするように言っておいたのが効いているようだ。多少無理をしている感じはあるが。
清掃担当たちは一瞬たじろいだが、また沙希を睨みつけた。そんな連中に対してため息を付いて、
「さっきも言ったけど、今回の死者についてはすべてあたしの責任。だからその件についてあんたを何ら追求するつもりはない」
不良生徒の顔がぱっと明るくなる。が、間髪入れずに、
「ただし。あたしの夜間は教室にいるという指示に従わなかった。これは重大な問題だから、きっちり罰は受けてもらう」
そう告げるとまた不良生徒の顔がひきつった。一方の清掃担当は意味がわからないというように怪訝な表情を浮かべる。
ここで生徒会室のドアがノックされ八幡が顔を覗かせた。
「緊迫しているようだけど……こっちの準備はもうできたよ。そっちは?」
「こっちも問題ない。梶原」
沙希が立ち上がるのと同時に梶原がすっかり恐怖に怯えている不良生徒の腕を掴み立ち上がらせた。
「あんたらもついてきていいいわよ。隠すものでもないし」
何が始まるんだと清掃担当たちがざわついた。
八幡とともに沙希たちがやってきたのは校庭の隅だった。すぐ目の前には防砂防球ネットがあり、その向こうにあるフェンスの外側では変質者たちがうろついている。中にはフェンスを掴み無言でこちらを見ているのもいた。
ネットの前にはライン引きで白い長方形が描かれていた。それは校庭のネットに沿うように一定間隔で並んでいる。予め八幡たち治安担当と調整して描いてもらっていたものだ。
沙希は近くにおいてあったスコップを手に取ると、梶原に連れられていた不良生徒に突き出す。
「あんたに課す罰はこれよ。穴掘り」
「あ、穴掘り?」
なにがなんだかわからないと困惑する不良生徒と、野次馬になっていた清掃担当。沙希は続けて、
「今回の変質者侵入でやろうと思えばこのネットを破ることができることが判明したわ。少人数だったから対処できたけど周囲の変質者たちが一斉にやったらこの学校は間違いなく陥落する。なので次に備えて学校を囲うように堀を作ることにした」
「それ何か意味があるんですか?」
清掃担当の一人が恐る恐る手を上げて訪ねてきた。沙希は八幡に視線を送り説明を促した。
「あるよ。生徒会長からすでに話はあったけど僕たち治安担当は変質者をあまり殺してはいけないことになっているからね。万一大量に侵入されたら対処しきれなくなる。でもこの堀が完成すれば、敷地内でも進入路を限定出来るようになるし、入ってきたら棒でも体当たりでもいいから落としてしまえばいい。あとはそこにガソリンを流し込んで火をつければまとめて始末できる」
恐ろしいことをさらりという八幡に清掃担当たちはやや引き気味だ。沙希は構わずに続き、
「この作業は正直ハードよ。罰にするにはもってこいだわ。あんたにはこの一つの長方形分を完全に掘ってもらう。ついでに掘り出した土で内側に土壁を作るのも一緒にね。ただ食料配給は1日3回、ランクAと同じ待遇にして上げるわ。でないと身体が持たないだろうし。掘り終えたら罰は終了よ」
「…………」
不良生徒はスコップを受け取る。さらに沙希は肩を叩き、
「今なんの生産性もない罰を与える余裕はこの学校にないわ。だからあんたには罰という名の学校への貢献をしてもらう。この堀が完成すれば今後の脅威……生徒の命が救われるかもしれない。もし罪を感じているのならやり遂げてみせろ
「……わかりました」
そう答えると、すぐに校庭を掘り始めた。
近くの清掃担当たちも今は怒りの表情はなくなり、黙って穴掘りを見つめていた。
沙希はこの場を治安担当に任せて生徒会へと戻り始める。最後に一言の残して。
「安心しろ。安全なところに連れて行ってやる。この学校内で生きている生徒は全員だ。例外はない」
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