●10日目 04 昼『白いメシを食おう3』
「えー、自動車からのガソリンの抜き方を知っている人を募集中」
沙希はメガホンを持ちながら『急募。食料配布+3回増し権利付き』と書かれたミニホワイトボードを持って学校内を歩く。ガソリンがないと発電機を動かせないため、再度治安担当チームにガソリン調達をやらせようと思ったが、物資調達から戻った直後は学校の周りをうろつく変質者が増える傾向があった。八幡曰く、まだ強引に突破できる数らしいが、一日二回の物資調達は過去に前例がない。これ以上変質者が押しかけたら不測の事態が起きる恐れがあるため、ガソリンの調達は明日やることにした。
しかし、目の前に発電機と米があるのになにもしないのはムズムズするので教師が残していた自動車からガソリンを抜き取ろうとしているのだが、方法が思いつかない。
というわけで生徒たちで知っている人を食糧配給権で釣ろうと思ったのだが、
「誰も名乗り出ませんね」
「ガソリンの抜き方を知っている中学生がいるほうが問題あるだろ」
そんな光沢と梶原の会話。沙希は意外そうに、
「札付きの問題児のあんたは知らんの? ガソリンを盗んだことぐらいあると思ったのに。盗んだクルマで走り出す~♪」
「知らん。バイク乗り回しているやつに絡まれたことはあったが、乗ろうとは思わなかった。盗む必要ができたこともねえ」
そうにべもない回答。
と、ここで後者の中を掃除していた理瀬と出くわし、
「なーにやってんだい? ガソリンの抜き方? どーいうこったい」
不思議そうに手にしていたホワイトボードを見る。事情を説明すると、理瀬はぽんと手をたたき、
「そーいえばウチの親がクルマのトランクに手動のポンプみたいなのを置いていたよ。万一移動中にガソリンが切れた場合はそれを使って通りがかりの自動車からもらうんだって」
沙希も同じように手をたたく。灯台下暗しだった。
職員室にあった鍵で片っ端から駐車場の自動車のトランクを開け続けたところ、ついに手動のポンプを発見。プラスチック製で真ん中の部分を握ったり離したりするとガソリンが吸い上げられるものだ。
それを使い数台の自動車からガソリンを抜き取りポリタンクに入れる。それを今度は同じポンプを使って発電機に注入した。
「よし、これでようやく動かせるわね」
いろいろ手間がかかったがこれで電気が手に入る。米やその他電子機器も使えるようになるだろう。
が、そう簡単には行かなかった。スイッチを入れた途端、発電機はブイーンとものすごい音を鳴らし始めた。
「……おいやべえんじゃないか?」
場所は後者の裏庭だったが、そのフェンスの下の道路で何か騒ぎが起きていていることを梶原が察する。
「げっ!」
沙希がフェンス越しに下を覗いてみると変質者達がたむろして唸り声を上げていた。どうやら音を聞きつけて集まってきているらしい。
同時に治安担当の八幡達がぞろぞろやってきて、
「生徒会長、学校周りの変質者達が興奮しているんだけど、これはなんの騒音……ああ、それか」
察しがよくて助かるものの、沙希は恐る恐る、
「無理っぽい?」
「こんな調子だと町中の変質者が集まってくるかもね」
肩をすくめて首を振る。
沙希はため息を付いてスイッチを切った。せっかく白いメシにありつけるかと思ったのにと肩を落としてしまう。
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