3.4 壊すことなく受け入れて
しかし、一つだけ気がかりなことがあったため、質問する。
「待って。それなら一年生は? AB型の一年生の男子だったら、シロちゃんの生まれ変わりである条件に当てはまるんじゃ……」
生年月日が一九九九年の十一月十九日よりも後だったら、一年生は全員がその条件に当てはまってしまうのではないか。
「昨日言っただろう。シロちゃんの発言も全て信じて進める、と。たしかに、生まれ変わるのが遅れて、一つ下の学年の生徒として嶺明高校に入学しているかもしれない。しかし、あらゆる可能性を考慮すれば、何らかの理由で運命が捻じ曲がって、この高校に入学できなかった可能性まで考えなければいけなくなる。考え出したら極端な話、シロちゃんが人間に生まれ変わっているかどうかすら、確信が持てなくなってしまう。だからまずは、二〇一五年の四月に入学した、つまり俺たちと同じ学年の生徒の中から、シロちゃんの生まれ変わりを探す。一学年下の生徒や学校外の人間について考えるのは、この学年にシロちゃんの生まれ変わりがいないことが判明してからだ」
私の質問があらかじめ予測されたものであるかのように、彼の口からはすらすらと反論が出てくる。
「そっか。そうだよね。……ごめんなさい」
あせりすぎて細かいことに気が回らなくなっていた。ちょっとした自己嫌悪に陥る。
「いや、それでいい。何事にも疑問を持たなくては、解決できるものもできなくなる。今みたいに、全ての可能性を見落とすまいと追及する姿勢は必要だ。君のあせる気持ちもわかる……とまでは言えないが、多少神経質になるのは仕方のないことだ。まずはできることから進めていこう。それが一番の近道になるはずだ」
できるだけ穏やかに喋っているつもりなんだろうけど、口調のせいで固苦しくなってしまっている。しかし、それが私を慰めようとしてのことだというのはわかる。優しさと冷静さを併せ持つ弓槻くんの台詞に、私は励まされた。
「ありがとう」
「さて、シロちゃんの生まれ変わり候補が、この四人だ」
弓槻くんはバッグから取り出したタブレットを操作し、私に見えやすいように向きを変えて差し出す。どうやら、メモアプリをメモ帳の代わりに使っているらしい。
私はそれを、前のめりになって覗き込む。そこには四人の名前が、ふりがな付きで記されていた。
・“シロちゃん”の生まれ変わり候補
①
②
③
④
私は一人ひとり、名前を確認していく。AB型で、生年月日が一九九九年の十一月十九日以降の男子生徒という共通点がある四人。顔見知り程度の人、名前を聞いたことのある人、よく知っている人、全く知らない人と、バラバラだった。
「でも、血液型と生年月日なんてどうやって調べたの?」
さっきからずっと気になっていたことについて尋ねてみた。
「オカルト研究同好会の顧問が教えてくれたんだ」
驚いた。この同好会に顧問なんていたのか。
「顧問って、誰?」
「榮槇先生だ。顧問といっても、名前だけ貸してもらっているようなものだけどな」
ああ、榮槇先生か。今日返ってきた数学のテストがいい点数だったことを思い出して、ニヤけそうになった。どうにか私の表情筋が勝利する。
「へぇ。でも、よく教えてもらえたね。一応個人情報でしょ?」
「相性占いの正当性について研究したいから、この学年の生徒の血液型と生年月日のデータが欲しい、というようなことを言ったらすんなり教えてくれた」
「相性占いって、そんな……」
呆れを通り越して、笑いさえ生じてくる。でも弓槻くんなら、それくらいの嘘はすらすら口から出てきそうだ。
「まあ、俺も信用されているからな。今回のテストも数学は満点だった。といっても、住所や電話番号だったら榮槇先生も教えなかっただろう」
ちょ、ちょっと待って。今何て言ったの?
「満……点?」
間違えた問題がなかったのなら、数学のテスト返却のときの彼の態度もうなずける。解説なんて必要ないのだから。ちょっといい点数をとって満足している自分が、なんだか情けなくなった。
驚いている私をよそに、弓槻くんは話題を変える。
「そう言えば、チョコをどこかで見かけなかったか?」
「いや、見かけてないけど……。チョコがどうかしたの?」
「いつもは昼になるとこの部室に現れるんだが……。さっき、君が来る前に確認したときはまだいなくて、少し心配になっただけだ。まあ、そのうちひょっこり現れるだろう」
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