4.2 弱さを表にさらけ出し
オカルト研究同好会の部室で、
そんなわけで、私はコンビニで買っておいたカップ麺をすすっている。ポットの常備してある文芸部の部室に寄ってお湯を淹れ、こぼさないように注意しながら、オカルト研究同好会の部室まで歩いてきた。その間、ちょうど三分くらいだったため、ふたを開けてかやくと粉末スープを投入し、さっそくいただくことにする。
部室に入って来るなり、カップ麺をすすり始めた私を見て、弓槻くんも鞄からサンドイッチを出し、ビニールを剥いだ。具材にはハムやレタス、卵が使われていて、カップ麺よりも遥かにヘルシーだ。女子として負けているように思えるけど、気にしないことにする。
食事をしながら、新たな記憶のことを話して聞かせる。
「月守風呼とシロちゃんの出会い、か」
「うん」
「今回も顔は思い出せないんだろ? その男子生徒がシロちゃんであることは間違いないのか?」
「それは間違いない」
私ははっきりと肯定する。
「なぜそう言える?」
「シロちゃんの顔が見えない状態の記憶がよみがえるわけじゃないの。記憶の中では顔もしっかり見えているから、あれはシロちゃんだったていう認識はあるの。でも、いざシロちゃんの顔を思い出そうとすると、全然浮かんでこなくて。んーと……とにかく不思議な感覚で、私もなんて言ったらいいのかわからないんだけど」
「なるほどな。ちなみに、顔が思い出せないのはシロちゃんだけか?」
「うん。あ、いや。昨日の修学旅行の席決めの記憶で見たはずの、担任の先生の顔も思い出せなかった。それ以外の人たちは思い出せる」
昨日話そうと思って忘れていた。
「そうか。特定の人間の顔を思い出せないことには、何か理由があるのだろうか……」
後半は独り言のように呟いた弓槻くんは、軽く握ったこぶしをあごの辺りに当てて考えるしぐさ。
「それと、これもうまく説明できないんだけど、記憶がよみがえるときには、月守風呼の感情というか……気持ち、ともちょっと違うのかな。とにかく、彼女がそのとき感じていることも一緒に情報として入って来るの。それで、シロちゃんを見た瞬間に……その、好きになったこともわかって……」
好きになったのは月守風呼であって私ではないのに、恋愛相談を持ち掛けているみたいで恥ずかしくなってしまった。いや、月守風呼が本当に私の前世なら、私自身が好きになったようなものなのかもしれない。
「ふむ」弓槻くんは顔色一つ変えずに頷く。「それよりも、シロちゃんが家庭科の授業をサボった理由はなんだ」
私が勇気を出して話したことを“それ”呼ばわりされて少し落ち込む。
「さあ。でもシロちゃんの口ぶりからすると、何か理由があったような感じではあった」
ちょうどその理由をシロちゃんが話そうとしていたとき、記憶が途切れてしまっているのだ。
「今の状態だと、可能性は無数に存在してしまう。当てずっぽうの推測は危険だ。正しい結果を得ることの妨げになりうる。だが、何かヒントになるかもしれない。今感じた疑問を念頭に置いて、これからの調査を進めていこう」
疑問点は明確にするが、深く考えすぎない。慎重でありながら、行動と思考を適切なバランスで両立させる。少ないヒントも見逃すまいとする彼のその鋭い眼差しが、ものすごく頼りになるものだということを、私はもう知っている。
「うん」と、力強く応える。
弓槻くんは私にとって、羅針盤のような存在だ。彼なしでは、シロちゃんの生まれ変わりの正体は判明しないだろう。
「少し確認したいことがある。待っててくれ」
昼食を終えた弓槻くんが立ち上がり、部室の奥へ歩いていく。数秒で戻って来た彼の肩が、少し落ちていたように見えた。
「もしかして、チョコ、今日も来てないの?」
戻って来た弓槻くんに問いかける。話している最中、弓槻くんがしきりに後ろを向いて、部室の奥の方を気にしているのを感じていた。
「そうなんだ。猫は死ぬ前に姿を消すそうじゃないか」
「そんな、縁起でもないこと言わないで! きっと、元の飼い主に見つかって、連れ戻されたんだよ。ほら、チョコって名前があるくらいだしさ」
そんな憶測が気休めにしかならないことくらい、私もわかっている。
「だといいんだがな……」
宙をさまよった視線が、彼の
「さて、二人目は
タブレットを操作しながら言った彼は、不安な気持ちを無理やり抑え込んでいるようにも見えた。
燈麻実律、一年生のときに同じクラスだった背の高いイケメンの男子。部活は……。
「バレー部は今日は体育館で活動だそうだ。行くぞ」
そうだ、バレー部。集会のときに二年生で唯一のレギュラーとして表彰されてたような気がする。突き指をした月守風呼の記憶を思い出し、反射的に右手の中指を左手で握る。
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