第2話『神様、彼女はちょっぴり『幸運』』

 「1年Hクラスの神有優君だよね?」

 「えっ?────何故、僕の名前を?」

 ここで僕が驚くのは、無理もない当然の事だ。彼女は学校でも超が付くほど有名人だが、僕は自分で言うのもなんだが超凡人である。ルックスも並、体力も並、勉学に至っては下の下と言ってもいい。そんな僕を、彼女は初対面なのにも関わらずフルネームで呼んだのだ。

 「知ってるよ。だって、同級生でしょ。」

 同級生とは言っても、聖命高校は県でも有数のマンモス校だ。1学年、約400人はいる。その中で僕の名前を正確に覚え言えてしまう方が難しい。となると・・・・・・

 「まさか、同級生全員の名前を覚えてたりするのか?」

 「当たり前でしょ?3年間、同じ高校に通うのよ。」

 何食わぬ顔で、言われてしまった。僕は、彼女はそういう天才やつなのだと再確認する。

 僕が、そんな天才を目の前にして眉を八の字にして戸惑っていると

 「────今日はありがとうね、応急処置から病院までついて来て貰っちゃって・・・・・・」

 「ああ、別に構わないよ。目の前であんな事になってほっとけ、という方が無理な話だ。」

 そう。僕のような凡人が彼女と知り合ったのは、例の猫に噛まれたところに通りすがったからだ・・・・・・そして、今に至る。

 「ふっふ。まあ、そうかもね!」

 彼女は笑い話のように話すが、こっちは出血量を見ていたので笑い話ではないんだけれど。

 「僕が奢るから、アイスでも食べないか?」

 って何を僕は言っているんだ。唐突に出た言葉に、僕は自分でもビックリしている。彼女も少しだけ驚いた様子だった。

 「奢りなら喜んで!」

 彼女は、学生のお財布に優しい75円の「カリゴリ君ソーダ味」を選んだ。僕も同じものを買った。

 「そんなんで、良かったのか?」

 「うん!美味しいよ。」

 スティック状のアイス棒を舌で転がして遊んでいる。たった75円のアイスでも彼女が食べると1枚の絵になる。

 彼女のアイスを咥える横顔と棒を持っている痛々しい手を見て、僕は

 、ふっと気になる事を聞いてみたくなった。

 「なあ、神無?」

 「ふぁっい!」

 彼女に唐突に話しかけてしまったようだ。棒からアイスは外れアスファルトへ墜落していった。

 ────彼女はツイテいない。『不幸』だ・・・・・・

 「あっ、ごめん。」

 僕はとっさに謝った。

 少しだけ涙ぐんで、落としたアイスを見ている彼女。

 「大丈夫ですよ。落としたのは自分の不注意ですから・・・・・・」

 「あっ、神無さん!」

 「なんです!?」

 「ぼ・・・っう!棒!」

 僕の言ってる意味が神無さんには上手く伝わっていなかったが、彼女は傾げているが、ゆっくり自分の持っているアイスの棒をみた。

 「あっ、当たってる!当たってるよ!!」

 満面の笑みである。嬉しそうに、小走りで彼女は買った店に戻る。

 ────撤回、彼女はドジっ子だ。ちょっぴり『幸運』もある。

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