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「んじゃ、4時までは俺が見てるからお前は寝てろよ」
福田はバーゲン前日に夜中から並ぶかのような重装備で現れ、郵便受けの隣にキャンプなどで利用する簡易椅子を置く。
「あぁ……でもその荷物はなんだよ」
亀の甲羅のように膨れ上がったリュックには何が入っているのだろうか。素朴な疑問だが、気になってしまう。
「はぁ? 長期戦だぞ? まとまった時間がなくて普段みれないDVDや漫画、ポテチにノンアルコールビール!」
──夜更かしで興奮する子供か……。
福田は『電源は借りるから』と言葉を付け足し、リュックから巻き尺タイプの延長コードを取り出した。
ビールではなく、ノンアルコールビールであった事は唯一の救いだな……。
「好きにしろ……じゃあ、4時に来るから」
楽しそうな福田を横目に俺はリビングへと踵(きびす)を返した。
「おじさん何しにきたの?」
そんな福田の姿に目を丸くする早希。
「急にキャンプしたくなったんだと」
適当に見繕ったどうでもいい言い訳をして、早希の頭を撫でると気にしないで寝るように言いつける。
不思議そうな顔をしたまま、早希は自室へと入っていった。
さて……福田が言うように24時間の長期戦だ。休めるうちに休んでおかないとな。
階段を登り、寝室のベッドに倒れ込むと睡魔はすぐに俺の体を連れ去った。
4時を知らせる目覚まし時計に起こされる。寝覚めは悪いほうではないが、流石に4時というまだ暗い時間に起きるのは、体に重力を感じてしまう。
「どうだ?」
あれだけ楽しそうだった少年の姿はなく、そこにいたのは既に飽きつくしてしまった屍のような表情をしたオヤジであった。
「なんもない」
まぁそうだろう。
それから何度か交代しながら時刻は16時を迎えた頃。
念のため郵便受けを確認してみる。するとそこには例の封筒が入っていたのだ。
硬直する体はそれを凝視することしか機能しない。
「どうした? おっかない顔して……」
固まっている俺を気にして福田が傍までやってくる。そして同じように郵便受けをのぞき込んだ。
「嘘だろ……? いつの間に?」
「お前、目離したりしたか?」
「いや……担当中はトイレすら行ってない。本当だぞ!」
──どういうことだ?
郵便受けの前にはずっと福田がいた。俺が寝る前には確かに何も入っていなかったのに、目の前には例の封筒が一つ存在している。
そんな非現実な現実。俺と福田を黙らせるには十分な破壊力をもっていた。
──やはり、有紀が天国から送ってきているのではないだろうか。
不可思議な現象にそう納得せざるを得ない。
「本当に……有紀なのか」
俺の瞳からは、自然に涙があふれ出ていた。
そして開いた手紙の冒頭は違った意味で頭の中を真っ白にさせた。
『この手紙で最後になります』
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