タイの学生が見た我が町ー所沢

@amarinhotel

第1話 タイの学生の来訪

 「わーあ、見えた。見えた。富士山だ・・!」

 所沢市役所の最上階の展望室から富士山がどうにか見れた。生徒たちは大きなガラス窓に顏をくっ付けて右端の西の方向を一生懸命見ている。丹沢の山並みの向こうに憧れの富士山がくっきりと稜線を描いているのが見えたので、皆感嘆の声を上げている。

「スーアイ、マーク、チンチン」(本当にとっても美しい)

 昨年の1年間、タイの田舎町の高校で日本語を教えるボランティアをしてきた私は、今年の3月に自宅の所沢に戻って半年が過ぎたところです。10月の学期休みを利用して、教え子の生徒6名とタイの先生が『4泊5日の東京ツアー』で初めて日本に来てくれたのです。東京で行きたい所ー原宿、渋谷、銀座、お台場、浅草などーを案内して、日帰りで日光までも一緒に行ってきました。

「明日は日本で最後のフリーの一日だけど、どこへ連れてってもらいたい?」と聞いたところ、全員で顔を合して相談した後に、「先生の住んでいる町に行ってみたい」との想定外の返事でした。理由を聞いたら、「日本人の普通の生活や普段の姿に触れたいので・・・」とのこと。

(所沢って、どこを案内すれば良いのかな・・?)とちょっと悩むが・・・。

西武線池袋で電車に乗り、所沢駅で乗り換えて航空公園駅へ。50分の電車の旅は生徒にとっては見るもの、聞くもの、全て興味津々の面白い時間だったようです。窓の外の景色ー家々や商店の街並みーは勿論、車内の様子ー短いスカートの女子学生、シルバーシートに座るお年寄り、タイと同じようにスマホを見ている人達ーも日本の生の生活や行動が目に出来たことだけで楽しい様子でした。

所沢市役所8階の展望フロア―から富士山が思った以上に間近に見られて大喜びでした。目を左手に向けると一昨日、昨日と行って来た新宿の高層ビル群やサンシャインビルとスカイツリーが遠くですが、はっきりと見えます。

隣りにある所沢記念公園に歩いて行ってみると親子連れの家族が大勢ピクニックに来ていました。手作りの飛行機を飛ばしたり、シャボン玉を吹いたりして楽しそうに遊んでいました。公園はきれいに清掃されてごみ一つ落ちていませんでした。持ってきたお弁当やペットボトルなどのごみを日本人は家に持って帰ると聞いて、生徒たちは驚きました。

日本庭園のある茶室『彩翔亭(さいしょうてい)』で抹茶と和菓子セット430円を注文。流れ落ちる滝と大きな緋鯉の泳ぐ池を眺めながらいただく抹茶は最高でした。抹茶という言葉はタイでも皆知っていますが、チョコレートやアイスクリームに入った抹茶で本物の抹茶を飲むのはタイの生徒も初めてで、苦いけど美味しいと飲み干していました。着物を着た女性の仕草や表情、喋り方が日本らしいと嬉しがっていました。

そこから所沢の旧市街地にある秋田家や野老澤町造商店の見学に歩いて向かいました。途中の道に在った割烹”美好”の看板と店先に置いてあったメニューが目に入りました。料亭ラーメンセット1,300円(厚焼き玉子・ごまだれ豆腐。漬物・ご飯付き)―「先生、ランチは日本のラーメンにしましょう」と生徒が皆声を揃えて言うので・・、私もここは初めてでしたが、同意しました。

結果、大正解でした。割烹でラーメンとは?不思議な組み合わせでしたが、鶏と野菜で作ったさっぱり系のスープに胡麻酢味の旨みたっぷりのラーメンでした。

ランチを食べたばかりなのに、その先にある古い店『荒幡肉店』でコロッケ95円を1つづつ買って、皆頬張りながら、所沢の旧市街地をそぞろ歩きしました。

幕末に建てられた秋田家住宅の銅板を張った防火壁に感心しながら、歩いてゆくと隣の高層ビルに2階にサワディーというタイ料理があるのを生徒が見つけて、「トックジャイ、ホーング・アーハンタイ・ゴ・ミー」(おどろいた、タイ料理店がある)と驚きの声を上げて、入口のメニューを見ていました。

野老澤町造商店では昔と今の所沢の街並みの絵と写真を比較しながら興味を持って見ていました。タイでも昔の郷愁ある街並みは段々と失われているので、ここ所沢でも同じなんですね、とタイの先生は感想を言っていました。

最後に所澤神明社にお参りをしました。生徒たちは皆『おみくじ』を買いました。書いてある内容を順に日本語に訳してあげました。成就をお願いして、枝に括りつけました。

帰りは賑やかなプロぺ通りに並ぶ各店舗を覗き見しながら、タイへのお土産―洋服や雑貨、お菓子など―を買いながら、所沢駅に向かいました。

西武ワルツの地下で生徒が食べたい夕食のおかず―天ぷら、お寿司、刺身、焼鳥、りんご、たいやき―を買って、池袋のホテルへ帰りました。

日本人の普通の生活、普段の姿を目のあたりに出来た今日一日は、本当の日本の姿を見れて、日本人のおもてなしの心、気遣いと心遣いに触れられて、満足げに帰ってゆきました。

「また、所沢に遊びに来たい。サワディーカ(さようなら)」と言って・・。





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