第6話 初戦闘。
隼人の感覚は今までにないほど研ぎ澄まされていた。異世界にきて初めての戦いということもあるのだが、それよりも、ようやく1歩進めた気がしたからだ。
昨日のことのように思い出せるあの地獄を絶対に打破する。その強い意志を胸に。止まることは出来ない。道を阻む者がいるならねじ伏せるまでだ。そして、今がその時だ。
ザックは隼人の出方を伺っていた。
対する隼人は居合の構えから最速の一撃を躊躇なく相手の胴めがけて打ち込む。
ザックは少し驚いていだが、すぐに我に返ると、片手剣を盾にした。しかし、衝撃は凄まじく、手が痺れているようだった。
「なんなんだよ!そのデタラメな一撃は!」
「時雨流刀剣術・閃撃…知らないだろうね」
「このガキァ…!!」
驚いていたのはザックだけじゃない。
周りの冒険者達も目で追うのがやっとの動きをする10歳の少年に目を奪われている。
女の子も信じられないという表情をしている。
「どうせ今のだけだろ?もう打つ手なしだよな?アァ?ならこっちの番だ…!」
ザックは痺れた手を気にしないというように、隼人に切りかかる。
上から下へ、そのまま上に切り返した。
一気に隼人との距離を詰め横薙ぎの一撃を放つ。
それを隼人は刀を盾にすることもなく、身体を逸らすことだけして避けていた。
というのも、この戦闘が始まってから隼人は固有技能[クロノの加護]が発動していたのだ。その能力とは自分の認識速度、及び反応速度、処理速度を早めるもの。つまり、今の隼人に世界はゆっくり動いているように見える。それだけでは、避けるのは難しいかもしれないが、幼い頃の古武術がここでも活きてくる。
基本的に刀は迎撃には向かない。刀身が薄く、折れやすいからだ。そこで時雨流古武術は避けることを念頭に置いた刀剣術を指南していたのだ。
[クロノの加護]と時雨流古武術の技術をもつ隼人からすれば、その攻撃を避けるのは造作もないことだったのだ。
全ての攻撃を避けられたザックは驚きと怒りを露わにする。
「てめぇちょこまかと…!調子に乗るんじゃねぇよ!遊びはここまでだ、悪く思うなよぉ!!!」
ザックは一段と力を込める。突きからの薙ぎ払い、そこから切り返す。蹴りや空いている左手の拳も織り交ぜている。
それでも、全てを隼人は避けていく。
ザックの攻撃が止むと
「終わりか?大したことないね。じゃ、いくよ?」
隼人は足に力を込め大地を蹴った。普通の人が視認するのがやっとの速度で動き、一閃を放つ。なんとか剣を盾にして凌ぐザックだが、すぐに次の一撃がくる。袈裟斬り、切り上げ、突き。洗練された動きでザックを確実に追い込んでいる。
そして、その時はすぐに訪れた。
「こんなの嘘に決まってる…イカサマか何かだろ…?!」
「否定出来ないのが悔しいけど、強いのが俺で、弱いのがお前ってだけの話だよ」
その言葉と同時に隼人はこの戦闘最速の一撃を放つ。一撃に見えるそれだが、右左右と薙ぎ払う三連撃、時雨流刀剣術・燕返しだ。
一撃目を剣を盾にして凌ぐザックだが、そこまでだった。
二撃目で胸に浅い一撃を入れられ、三撃目で首を切り落とす、というところで寸止めしていたのだ。
「俺の勝ち、ですよね?」
審判は心ここにあらずという感じだったが、隼人に声をかけられ慌てて
「…勝者…少年!よって、少年にギルドに入る許可を与えます…!」
周りから様々な声が聞こえてくる。
賭けに勝ったとか、信じられないとか、あのガキ何者なんだとか。
すべてを無視する隼人は女の子の前にいって
「ね?大丈夫だったでしょ??」
「………え、あ、うん……。」
女の子は唖然としていた。
その少年、龍と交わりて いぷしろん。 @epsilon0000
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