第2話 転機


そこは黒い空間。

何も視認することはできない。もとより、何も無いのだが。

そこに1人の青年の姿がある。一条隼人だ。

隼人は今、何が起こったのか覚えてはいるが理解が追いついていない。

あの集団はなんだったのか。あの人間のようなものは何者なのか。葵がどうなったのか。そして、ここが一体どこなのか。

「やぁ、ようやく起きたね」

暗闇から声がする、というよりは頭の中に直接響いている感じに近い。

「おい、ここはどこだ、あいつらはなんなんだ、葵はどうなった!」

「まぁまぁ、そう慌てるなって。」

隼人は声を強めて問い立てたが、その声は軽くあしらった。

「ここは、君の精神の世界だよ。あいつらは魔族。君たちの住む世界をあいつらの新しい世界にするんだとさ。それと、葵ちゃんだっけ?うん。死んじゃったよ?」

その声は軽く、何か問題でも?と言うように答えた。

「なん…だと…」

ただでさえズタズタな心が音をたてて崩れるのがわかった。

「まぁ…あの状況だもんな…それも…そうか…」

項垂れる少年を見ながら、その声は先程までの軽い口調と打って変わって、トーンを落とし話しかけた。

「もし、君にあの状況を打破するチャンスを授ける。と言ったら、どうするかい??」

「…え…?」

「君にあの異系の物を殺すチカラを授けるといったらどうするか、と聞いたんだ」

「…んなもん…決まってんだろ…よこせよ…そのチャンスよこしやがれ…」

「うんうん。そう言ってくれると思ったよ。でも、タダで叶えてあげるほど僕もお人好しじゃないからね」

「なにをしろってんだ?なんでもしてやるよ、なぁ」

「まぁまぁ、そう急かすなって。君にはある者を殺してもらいたい」

「どういうことだ?」

「まぁ、簡単に言うと僕の住まう世界がちょっと危ないんだ。君たちの世界で言う魔王が強大なチカラを手に入れたらしくてね。僕を殺ろうと躍起になってるらしいんだ」

「そこで、ソイツを止めてくれと?」

「話が早くて助かるよ。だから、ね、君にチカラを授ける。その代わりにソイツを殺ってくれないか?」

「でもだ、もし俺が引き受けたとしよう。どうやって俺はさっきのところまで戻ってくるんだ?それと、ソイツを倒すことが何故あの状況を打破することに繋がるんだ?」

「そう言えば、まだ名乗ってなかったね。僕は時を統べる神【クロノ】だ。だから、僕のチカラを使えば君を送り届けることは造作もないのさ。あと、2つ目の質問の答えだけど、君、気づかないの?」

「…もしかして…」

「うん。ソイツこそが君たちをあの状況に追い込んだ親玉なのさ」

「そういうことか…親玉もろともボコしてお前も救われて、俺も救われる。win-winってことだな?」

「そのうぃんうぃんって言うのはよくわからないが、そうだよ。お互いの利害が一致しているんだ。どうだい?乗るかい?」

「あの状況を打破できんなら、どんなチャンスだって使えるもんは使ってやるよ。いいぜ、乗るよ」

「そうか。賢明な判断に感謝するよ。と言ってもこれは7度目の説得なんだけどね」

「7度目?」

「うん。僕のチカラを使ってこの説得を既に6度しているんだ。その6回で君は頑なに乗ってくれなくてね。まさか僕に【リバース】のチカラを使わせるとは、なかなかやるねぇ」

「んな事言われてもな。俺はその6回を経験してないからわかんねぇよ」

「それも、そうか。じゃ、君の決意が揺らがないうちに君に僕の世界のことを教えてあげよう」


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その後、彼からあった説明は以下のようなものだった。

その世界は約500年前の災厄により魔物や魔族が住まう世界になった。地球で言うところの北半球が人族の領土、南半球が魔族の領土である。そして、ほぼ南極に位置するところに魔王のデストピアがある。最終目的地はそこなのだろう。

また、北半球には人族の他に獣人族と呼ばれる亜人がいる。過去には今では滅ぼされたと言われている龍人族もいたらしい。

人族の文明レベルは地球で言う中世レベルで科学はあまり発展していない。その代わりに理力と呼ばれる魔法が栄えており、それが生活を支えている。ただ、その理力も発展途上のようだ。また、人族では貴族至上主義の考えが強いので関わらないのが無難だ、と教えられた。

そして、最後に教えられたのは【レベル】についての概念だった。レベルはその者自身の強さを表すもので全生物に与えられている。もちろん人間にもだ。地球の人間にもレベルは与えられているが、それを確認する方法がないのでその概念がないそうだ。

このレベルは何かを経験することで上昇していく。そして、レベルが上がると【ステータス】が上昇する。ステータスは主に

vit・体力

mp・マナ保有量

str・攻撃力

def・防御力

int・知力

spd・敏捷性

dex・器用さ

luck・幸運

の8つに分けられている。

また、その経験したことに応じてレベルが上昇した時、ステータスの上がり方違うのだそうだ。例えば、短距離走の選手はspdのステータスが高く、長距離走の選手だとvitのステータスが高いという具合だ。

しかし、ステータスの上昇幅は個人差があるそうだ。同じことをしたからと言って同じ強さになれるわけではないのだ。


「と、まぁこんな感じかな?」

「なんとなく、わかったかな。まぁ、気楽にやらせてもらうよ」

「それがいいだろうね。お、そろそろこの空間の限界も近づいてきたようだ」

「この空間はお前のチカラだったのか」

「うん、そうだよ。これが神様のチカラさ」

「声の割になかなか偉いんだな」

「今バカにした??っと、まぁ冗談はさておき…早速だけど、いいかな?」

「あぁ、いつでも問題ないよ。そういえば、俺はどういう風な転移をするんだ?」

「手短に済ませてもらうね」


その説明は

場所は《ダーナの街》近くの洞窟。

ダーナの街からは大体30分くらいのところだそうだ。そこがこれからの拠点になるだろう。

年齢は10歳。7年後にチカラを得ると言う魔王との決戦に向けてチカラを付けて欲しいとのことだ。

持ち物は1週間は生活に困らない量のお金と回復薬数個、装備一式だ。

武器は自分と最も相性のいいものを用意してくれる。

最後に、冒険者ギルドに世話になれ。

と、伝えられた。


「大体は理解できた。それで、俺の初期ステータスはどうなんだ?」

「そうだな、自分で見てみるといい。〈アナライズ〉と、唱えてみなよ」

「あぁ…〈アナライズ〉…」

目の前に数字の書かれた物が現れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一条隼人

LV.1

種族・人族

vit…80

mp…80

str…100

def…70

int…100

spd…150

dex…60

luck…50


固有技能

[言語理解] [クロノの加護] [時雨流古武術]

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「コメントしずらいステータスだな。これはどんなもんなんだ?」

「そうだね。10歳のステータスとしては異常だね。大体中堅の冒険者と同じくらいかな。でも、そこらの中堅とは比べ物にならない成長速度だろうし、なにより固有技能を持っているのは大きなアドバンテージだね。ちなみに、何もしてない一般人ならオール10くらいが普通かな?高くても20とかかな?」

「ってことは、大分強いのかな?それと…[言語理解]と[時雨流古武術]は何となくわかるが…[クロノの加護]…お前のことだよな?」

「うん、僭越ながらチカラを授けさせてもらったよ。時に干渉する能力だよ。僕ほどのチカラじゃないけどね。きっと君にとって大きなチカラになるはずだよ?あと、1つ勘違いしてるけどね、その古武術、なかなかな物だよ?」

「そうなのか…まぁ、来るもの拒まず、だな。ありがたく使わせてもらうさ」

黒い空間が歪んでいく。

「どうやら、時間が来てしまったようだね」

「あぁ、世話になったな」

「君は僕を救ってくれる勇者だもん。そんな無碍な扱いはできないよ」

「それもそうか。じゃ、また会うとき、だな」

「うん、じゃ、頼んだよ。あ、そうそう、葵ちゃんもきっと君と同じように転移してると思うよ?他にも5人いるんじゃないかな?」

「え、ちょ、待てって、どういうことだよ!」

その言葉がクロノ…いや彼女に届くことはなかった。

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