その少年、龍と交わりて

いぷしろん。

第1話 プロローグ

空には数多の竜、

地上にはオークやゴブリン、

その後にもまだまだいた。

そして、一番後ろには紫色の肌をした人間のようなものがいた。


突如として現れた奴らは、野太い声が挙げられると同時に理不尽を振りまいていった。

成すすべもなくやられていく者達。

そして、自分の番が回ってきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


高校2年生の一条隼人は渋谷にいた。

時刻は12時少し前、

ハチ公前で待ち合わせをしていた。

小学校まで福岡に居た彼の幼馴染みが遊びに来ていると言うので会うことになったのだ。

隼人は適当にスマホでゲームをしながらその幼馴染みが来るのを待っていた。


「おーーい!隼人くーーん!!」

遠くから自分の名前を呼ぶ声がする。

幼馴染みがやってきた。

黒髪でボーイッシュな髪型、程よく引き締まった身体、ミニスカートを履いていて、惜しげもなくその美脚を見せつけていた。

そう、幼馴染みは女子だったのだ。

彼女の名前は時雨葵。

時雨流古武術の師範代を親に持つ少女だ。

現在彼女は時雨流免許皆伝の実力者である。

ちなみに、隼人も引っ越すまでは時雨流を習っていた。現在はテニスをしている。

彼女の時雨流で鍛えられたその身体はモデルにも負けないくらいスマートで、可愛いと言うよりはかっこいい系の顔立ち、辺りの目を釘付けにしていた。ただし、ふくよかな膨らみはなく、小ぶりの山が2つあるだけだった。

「ごめんね!隼人君、待った…かな??」

「ううん、そんなことないよ。でも、よく俺がいるって分かったな。」

「うん!だって、隼人君全然変わってないんだもん!遠目からでもわかるよ!」

「そかそか。でも、葵は何ていうか、だいぶ、ってか、相当変わったな。」

「そりゃーね、5年も会ってなかったら変わるよー」

当時の彼女は腰あたりまで髪を伸ばしており、演舞する時も長い髪が舞ってとても綺麗だった。

「髪長いと動きづらいからね、中学上がったと同時にバッサリいっちゃったんだ。(けじめをつける為でもあるんだけどね…)」

「そっか、長い葵も好きだけど、今の短い葵も悪くないね」

「…っ、またまたー煽ててもなにもでないぞー?」

「ちぇー、つまんねーの。まぁ、立ち話もなんだし、どっか行くか?」

「うん!いこーいこー!私、渋谷は初めて来たから隼人君に案内してもらおうかな?」

「おっし、任せなさい。渋谷は俺の庭みたいなもんだからな!」

そう言って、2人は歩き出した。

久しぶりの再開とは思えないほど意気投合していた。時折、葵の顔が赤らんでいたのは内緒だ。

時間は昼時だったので、近くのファミレスで軽くご飯を食べ、その後は仲良くショッピングをしたりした。

時刻は四時を回り、一通りショッピングを済ませた隼人達は近くのファストフード店でお互いの近況を報告しあっていた。

「葵の方は最近どんな感じだ?」

「ん、学校も楽しいし、古武術も免許皆伝を貰えたかし、充実してるかな?」

「そういえば、そうだったな。今年の年賀状に【祝!免許皆伝!】って書いてあった時は驚いたよ。」

「ようやく、パパに認めてもらえてね。時雨流のなかでも随一の早さらしいよ?」

「そりゃ、そうだよ。どこの世界のJKが古武術極めて、挙句の果てに免許皆伝貰うことなるんだよ。さっきだってナンパされたとき軽くあいつら捻ってたし…」

「あんくらいなんてことないよー。犬とじゃれるのと変わらないよ!」

そう、2人でアーケード街を歩いていたとき、前方からtheヤンキーとう言うようなガラの悪そうな男の2人組がナンパしてきたのだ。ただ、彼らも相手が悪かった。それがただの可愛いJKだったら、ナンパ出来てたかもしれないが、相手は古武術極めた系JKだったのだ。最初は声をかけていただけだったのだが、無視し続けていたら、腕を掴まれたのだ。それが彼らの運の尽きだった。腕を掴まれた葵は即座に振り解くと、肘鉄をみぞおちに決め、腹を抑えた男の顔面にサマーソルトを鮮やかに決めたのだ。そのとき、桃色の何かが見えたがそれはあえて彼女には伝えなかった。

「あの2人も災難だったな…。ただ、もう葵と手合わせできないって考えるとちょっと寂しいな」

「そんなそんな!今からまた、始めなよ!当時はわたしより強かったんだしさ!」

「んなこと言われてもなぁ…こっちには時雨流の道場なんかないし…それに、俺はほら、アレあるし」

そう言って腕を振りだした。テニスのサーブのフォームだ。

「そうだよね!隼人君は今テニスしてるもんね!しかも、全国大会までいっちゃうし!私よりよっぽどすごいって!」

「いや、そんなことないよ。たまたまドローがよかっただけだって」

かく言う隼人も中学の部活でたまたま始めたテニスだったが、始めるや否や直ぐに頭角を現し、今は都内有数のスポーツ名門校かつ進学校に通う高校生になっていた。どこの主人公だよ!と思うかもしれないが、この物語の主人公である。

「じゃあ、とりあえず、これから葵の免許皆伝おめでとう記念でも買いに行くか!」

「え、いいの??」

「もちろん!まぁ、そんな高いものは買えないけどな」

「ううん、隼人に貰えればなんでも嬉しいよ!」

「なら、よかった。じゃ、行こうか」

その後2人は女性向けアクセサリーショップに向かい、たまたまそこでバイトをしていた隼人の友達に2人の関係を根掘り葉掘り聞かれたが、何とかやり過ごした。

「今度会ったら、詳しく教えてよね!」

と、言われたが聞かなかったことにしよう。

「隼人、ありがと!大事にするよ!」

と、葵ははしゃぎながら早速買ったものを付けていた。組紐で作られたブレスレットだ。そこまで高価なものではないが、可愛らしく葵に似合っていた。

「似合ってんじゃん。可愛い可愛い」

隼人はブレスレットが可愛いと伝えたかったのだが、勘違いした葵は赤面して顔を背けてしまった。

時刻は夜7時、8月ということだけあってまだ若干明るいがそろそろ夕飯を食べるか帰るかしないといけない時間だ。

2人は店を出て、これからどうしようかと相談しながら歩いていた。そして、スクランブル交差点の信号辺りに来た時、それが起こってしまう。

地面が揺れた。

地震だろうか。周りの人はみなスマホを取り出し、おもむろに呟いたり、ニュース速報を見ている。

また、揺れた。

今度は轟音と共に。周りの人のほとんどが気づいた。これは地震じゃない。でも、だとしたらなんだろうか。

3度目の揺れが起こった。

それと同時に交差点のど真ん中の空間が歪み始めた。明らかにおかしい。そして、突如としてその歪みは大きく広がりどこか別の風景が映し出された。

それをある人は映画の撮影かと思い、ある人はテレビのドッキリか何かかと思った。

しかし、現実は甘くなかった。

歪みの中のものがこちらに向かっている。それは軍隊のように規則正しく並び、獰猛な目でこちらを見ている。

「隼人…なんなの…これ…」

「わからない…けど…まずい気がする…」

また、1歩、また、1歩と近づいてくる。

「どうするの?逃げる?」

「とりあえず、ここから離れよう」

そして、最初の一体が歪みを完全に超えて踏み込んできた。次々と歪みの中から異系の何かが出てくる。それはファンタジーの世界のオークやゴブリンにそっくりだった。また、彼らの後ろには紫色の肌をした人間のようなものがいた。気づくと空にはドラゴンもいた。スクランブル交差点の真ん中にオーク、ゴブリン、ドラゴンの軍団が現れたのだ。そして、ガァァァァアアアア!!

紫色の人間が叫ぶと、彼らは一斉に走り出し、襲い始めた。

「なんなの、本当に、嫌だ、来ないで」

「くそ!なんなんだよ!聞いてねぇぞ!」

2人は走り出した。アーケードの方へ逃げてきた。しかし、その努力も虚しくすぐに奴らがやってきた。自分の周りの人達が次々に殺されていく。それは決して見ていて気持ちのいいものではない。

一体のゴブリンがこちらに向かってきた。

咄嗟に隼人は葵を守る為に1歩踏み出した。

(どうする?戦うか?どうやって?)

ゴブリンは棍棒を振りかざした。隼人はそれを軽く躱し、ゴブリンに蹴りを一撃いれた。それに気づいた他のゴブリンも集まってきた。

「ねぇ、隼人、もうダメなのかな…こんな訳の分からない物に殺されて終わっちゃうのかな…」

「馬鹿なこと言うなよ!絶対に生き延びる!」

今にも折れそうな葵を支えている隼人だが、先ほどの棍棒の一撃が肩を掠ったようだ。

「とりあえず、逃げないと」

次々に集まってくるゴブリンをいなしながら、あてもなく走っていく。辺りから悲鳴が聞こえても気にすることなく、ただ前へ前へ進んでいく。

だが、現実は理不尽だった。逃げた先に紫色の人間がいたのだから。

「ガガガ、ゲ、ゴガガガ」

何かを言っているようだった。でも、理解はできない。

「隼人…」

今にもダメになりそうな弱い声で呟いた。

「ガーガーガー!!!」

紫色の人間が飛び込んできた。

「くっ!」

何とか、昔の時雨流を思い出しその一撃をいなした。紫色の人間は少し驚いたようだったが、そんなことをお構い無しに、次々と攻撃を仕掛けてくる。

最初は善戦してた隼人だったが、次第に押されていった。葵を庇いながらなので、より負担がかかる。

「きゃっ!」

葵が叫ぶ。どこからか弓が飛んできたようだ。そして、その声に気を取られた隼人はその隙をつかれ、致命傷になりかねない一撃をいれられる。

「ガハっ」

肋の2、3本は逝ったか。と、よく聞くが2、3本逝った痛みで動けるはずもなく

「葵…ごめん…」

そう呟き、紫色の人間に最後の一撃をいれられ、絶命した。

そのすぐあとに葵も殺された。左手にはプレゼントされた組紐を大事に握っていた。

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