串刺し男(その1)

 暗闇の中に、机が一つと、椅子が一つあった。机の上には拳銃が置いてあった。

 僕は椅子に座って、その拳銃を取り上げた。

「コルト・シングルアクション・アーミー……」

 なぜか僕はその拳銃の名前を知っていた。

 銃なんか全く興味無いのに……

 銃口に鼻を近づけ、においを嗅ぐ。

 かすかに、コゲたような刺激臭があった。

 撃鉄ハンマー半起こしハーフ・コックにして弾倉シリンダーを可動状態にしたあと、ローディング・ゲートを開け、イジェクター・ロッドを押して薬莢カートリッジを取り出す。

 思った通り、薬莢は使用済みだった。

 シリンダーを回し、イジェクター・ロッドを押して次の薬莢を取り出す。

 やはり、使用済みだった。

 シリンダーを回し、イジェクター・ロッドを押して薬莢を取り出す。シリンダーを回し、イジェクター・ロッドを押して薬莢を取り出す……

 それを六回繰り返し、六連発シックス・シューターの弾倉は空になった。

 

(なんで知っているんだ?)

 その時、暗闇の向こうから声が聞こえた。

「コルト・シングルアクション・アーミー……別名ピースメイカー」

 暗闇の中から、男が現れた。

 茶色のロングコートを着た、二十五歳くらいの男だった。

「『軍隊アーミー』と名付けた武器に、わざわざ『平和を作る者ピースメイカー』という別名あだなを付ける……」

 ロングコートの男は、椅子に座る僕の、机をはさんだ反対側に立った。

「悪い冗談にしか聞こえんが……なるほど、あの国にとって『平和と繁栄』は『武器と軍隊』によって作られるべきものなのだな……」

 言いながら、男はコートのポケットに右手を入れ、45口径の弾丸をひとつかみ取り出し、机の上にジャラリと無造作にいた。

「銃に弾丸を込めろ」

 僕は机の上の弾丸を一つつまみ上げ、使用済みの薬莢を抜いたローディング・ゲートの穴に込めた。

 弾倉シリンダーを回し次の弾丸を込める。シリンダーを回し弾丸を込める、シリンダーを回し弾丸を込める……

 六連発のシリンダーが埋まり、僕はローディング・ゲートを閉じて、撃鉄ハンマーと引き金に指をかけ、ゆっくりと撃鉄ハンマーをセーフティ位置にセットした。

「暴発しないように気を付けろ……その銃と弾丸をお前にやる。世界がお前を殺そうとしたら、それを使ってお前が世界を殺せ」

 ロングコートの男はクルリと後ろを向き、机から離れて闇の向こうに戻ろうとした。

「あ、あの、待ってください」

 あわてて、僕は男を呼び止めた。「あ、あなたは誰ですか? な、なぜ、こんな物を僕に……」

 男が立ち止まり、首だけを横に向けて答えた。

「俺の名はモリオ……守る男と書いて『守男モリオ』だ……『この世界を破壊する者』だ」

 そして、クックッと短く笑った。

「それこそ、矛盾した名前だな」

 突然、ガラガラと車輪の回る音がして、暗闇の中から頭の二つある大きな黒い馬が現れた。

 馬は、大きな黒い二両連結の馬車をいていた。

 馬車の扉が開き、落ち着いた色の和服を着た美しい女が現れた。

 男は二こと三こと女に何かをささやき、女は一瞬僕を見て小さくうなづいた。

 二人が馬車の中に消え、扉が閉まり、大きな双頭の黒馬にかれた二両連結の馬車がゆっくりと動き出し、やがて暗闇の向こうに消えた。

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