串刺し男(その2)

「テツオくん……テツオくん!」

 僕を呼ぶ女の子の声が聞こえた。

 同時に、肩を揺すられる。

「そろそろに到着するってさ。もう起きなよ」

 目覚めたばかりのボーッとした頭のまま隣のシートを見ると、セーターにジーンズ姿の少女が僕の肩に手を当てていた。

 どうやら、いつの間にかクルマの後部座席で眠ってしまっていたらしい。

「ああ……カナミさん……」

 僕は、よだれの垂れそうになった口元を手の甲でぬぐいながら、同級生の呼びかけに答えた。

 国道を走る中古のフォルクスワーゲン・ゴルフの後部座席。僕が運転席の後ろで、カナミさんが助手席の後ろだ。

 運転席の山村先輩がカナミさんの言葉を修正した。

「いや、まだT町に入った所だ。ここから国道をれて山道へ入る。旧W村までは……今はT町W地区だが……もうしばらく掛かる。そうだな……あと四十分ほど、か」

「おいおい……まだ、そんなに掛かるのか?」助手席の重本先輩が運転席の方に顔を向けて、驚いたような声でたずねた。

 運転席の山村先輩が短く「ああ……」と答え、助手席の重本先輩が「やれやれ」と額に手を当てた。

「連続猟奇殺人犯も、楽じゃない、ってか?」

「そりゃ、そうさ」

「なんか、暇だな……ナビ、テレビ・モードにしても良いか?」

「どうぞ」

 運転席の山村先輩の許可を得て、助手席の重本先輩がナビのモード切替ボタンを押した。

 何度かチャンネルを切り替えたあと、ワイドショーに落ち着く。

「……続いての話題です。○○大学の男子大学生二人が、サークルの後輩だった女子大生をサークル活動と称して連れ出し、人里離れた山の中で性的暴行を加えたとして、逮捕されました」

 事件のあらましを説明するテレビ局の男性アナウンサー背景に、東京の有名大学の正門が合成されていた。

「まったく……」

 助手席の重本先輩が溜め息まじりに言った。

「世の中には、悪い大学生も居たもんだ……」

「ああ。まったくだ」運転席の山村先輩が相づちを打つ。

「サークルの後輩を車で連れ出して山の中で……そんな事をするなんて」

「ああ。まったくだ。男子大学生の風上にも置けない卑劣な連中だな」

「俺たちは、違うよな?」

「ああ。もちろんだ。同じ男子大学生でも、そんな連中とは、違う」

「俺たちは、ただ、連続猟奇殺人犯の『串刺し男』を探しに行くだけだよな?」

「ああ。もちろんだ。俺たちは、後輩の女の子をクルマで山の中へ連れて行き、暴行するような男じゃない……ただ、連続猟奇殺人犯の『串刺し男』を探しに山の中の廃村へ向かっているだけだ」

「そうだよな。俺たちは『串刺し男』を探しに行くだけだ。女の子を暴行するなんて、そんな酷い事をしに行くわけじゃない……同じ大学生でも、そんな卑劣な連中と俺たちは違うさ」

 そう言った瞬間、重本先輩の口角がニヤリと吊り上がるのがルームミラー越しに見えた。

 次の瞬間、カナミさんが僕の方へグッと体を近づけ、僕のジャケットの袖をギュッと握りしめた。

 いきなり同い年の女の子に体を寄せられ、僕は思わずドキリッとして、カナミさんの顔を見つめた。

 カナミさんは、なぜかおびえた表情でルームミラーを見つめていた。

(怯えている? な、なんでだろう?)

 僕は思った。

(そ……そうか……きっと連続猟奇殺人犯『串刺し男』を怖がっているんだ……これから誰もいない廃村へ殺人鬼を探しに行くから……)

 いつもはサバサバした言動のカナミさんの、意外な一面を見た気がした。

(カナミさんって、意外に怖がりなんだな……大丈夫だって……どうせ殺人鬼なんて居やしないよ……ただの『肝試きもだめし』みたいなものさ……殺人鬼なんて見つかりっこないよ)

「まったく、許せませんね!」

 ナビの液晶画面の中でテレビでよく見るコメンテーターが言った。

「後輩の女の子をクルマで連れ出して、誰も居ない山の中で……卑劣極まりない!」

 助手席の重本先輩が再びニヤリと笑った。

 同時に、僕のジャケットの袖を握っていたカナミさんの手に、なぜかギュッと力が入った。

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