ただいま
色葉みのる
ただいま
帰宅したら、家がなくなっていた。やけに長細い土地と、瓦礫だけがそこにあった。住んでいた時はあまり気にしていなかったが、なるほど、こんな形の土地だったか、と的外れなことを考えている自分がいた。土地の四辺には、立ち入り禁止を意味するトラ模様のロープが張られていたが、お構いなくロープを跨いで土地に入る。ここは自分の家があった場所なのだから、このぐらい許されてもいいはずだ。自分の握り拳より大きいコンクリートの破片が、一面に転がっている。自分の部屋を彷彿とさせる破片が無かった。クローゼットの木片や、カーペットの繊維も無い。ひたすらコンクリートばかりがゴロゴロとある。
こんなにも突然、家が無くなることがあっていいものか!という心の叫びと共に、足元に転がるコンクリートの破片を踏んづけた。これは壁だったのか、それとも床だったのかはわからないが、自分の家だったことは確かだ。こんなことをして何になるんだろう、と虚しくなった。
終電で帰ってきたため、電車やバスはもうない。車通りもないし、近くの店も閉まっている。なんだか、少し離れている間に、随分と寂れた場所になったような気がした。そして、妙に寒かった。
ふと、ここは本当に自分が知っている場所なのだろうか、と不安になった。自分の家が無くなったのではなく、初めから無かったのでは?という奇妙な疑問が頭をよぎる。居ても立っても居られなくなったので、自分の家があった場所から離れることにした。せかせかと歩きながら、スマートフォンを弄る。バッテリーが少ない。こんな時に限って、充電器のバッテリーも切れている。いつの間にか、自分の息が上がっていた。深夜であったが、とにかく今は、誰かと連絡を取りたかった。コール音が、やけに大きく聞こえた。
「とりあえず、コンビニで待ってて」
電話を切って、指定されたコンビニを目指す。自分の靴音しか聞こえなかった。普段なら頼りないと感じていた街灯の明かりが、今は有難かった。角を曲がる。目に沁みる様な白い光を纏ったコンビニが、いつもと同じ顔で待っていた。扉が開く。暖かな風と共に、店内を流れる音楽が、どっと押し寄せてきた。店員の控えめな「いらっしゃいませー」という声。コーヒーの香り。直感で「帰ってきた」と思った。何故そんな事を感じたのかはわからない。でも、確かに、そう感じたのだった。
※この作品はブロマガ(http://ch.nicovideo.jp/scribble/blomaga/ar848730)pixiv(http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6587677)小説家になろう(http://ncode.syosetu.com/n4030df/)でも公開しています。
ただいま 色葉みのる @MinoruIroha
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