ダンテの初恋は雪山より険しく

 ペーシア王国で冒険者をしているアリア達は一面、銀世界の中にいた。


 天気自体は晴天であったのが救いだが、ペーシア王国の北部に万年雪が残る山があるのに周りの山には冬じゃない限りありはしない。


 地元の人達には雪の精霊が住んでいると囁かれているが確認された事も学術的にも前例はない。


 そんな万年雪が残る山をモフモフな毛皮で作られた服でスッポリと体を覆うエルフの少年、ダンテは半眼でブツブツと文句を言いながら山を登っていた。


「どうして、レイアは後先考えずに勝手に決めるかな?」

「しょ、しょうがねぇーだろ!? お母さんの病気を治す為に必要だから、と小さな子達が冒険者ギルドで嘆願してたんだから!」


 依頼の選別や判断はダンテを通してから決めるというパーティの決まりを無視して勢いで受けてしまったレイアは多少なり引け目を感じているようだ。


 子供達は自分達のお小遣いを持ち寄って冒険者ギルドにやってきたが、所詮は子供のお小遣い、冒険者ギルドで設定されている雑用依頼の底値に届くかどうかの金額で雪山を登るような労力がいる仕事の報酬としては少ないというレベルではなかった。


 この山の頂きにしか自生しない雪草という草を煎じたモノじゃないと治らないそうである。


 その病気自体、100年に1人かかるかどうかの珍しいものらしく、医者達の薬にもストックがなかったそうである。


 一応、アリアの回復魔法も試したが痛みを和らぐ程度の効果しかなく、アリアとスゥは残って介護と子供達の面倒を見ている。


 ダンテは子供達に間違っても2人に料理をさせないように、と子供達に強く言い含めたのは言うまでもない。


「せめて、日にちは余裕をみてよ? 気持ちは分かるけど、あの状態の子供達にすぐに出る、て言っちゃったから準備に時間かけられなかったじゃないか?」


 確かに子供達のお母さんの事を思えば、早い事に越した事はないが、今日、明日の命という訳ではなかったので準備に時間をかけたかった。


 冬山装備を買い漁るようにして集めざる得なかったダンテは割高のモノを買うハメになり、予算オーバーしたので「今月はお肉なしの食事になるよ……」とぼやくと肩を叩かれる。


 振り返ると同じようにモフモフの毛皮の服を着ても寒そうにする砂漠育ちのヒースが困った顔をしながらダンテの横の方を指差しながら言ってくる。


「ダンテ、ミュウが『に、ニク……』と言った後、固まってるんだけど?」

「えっ!?」


 慌てて横を見ると夏のビーチにいそうな、いつもの格好のミュウが蒼白な顔をして棒立ちしてる。


「ミュウ、そこまで大袈裟な話じゃないからね? ちゃんとお肉は出るからね?」

「カハッ……ダンテ、言う冗談は選ぶ。ミュウ、心臓が止まるかと思った」

「ミュウ、心臓はともかく呼吸は止まってたぜ?」


 まるで蘇生したようにいつものミュウに戻るのを見てダンテは安堵の溜息を吐き、レイアは責任の一端を感じてか額に汗を浮かべる。


 汗を浮かべるレイアであるが腰までしか届かない厚めの布で作られたジャンバーのようなモノを羽織り、ミュウ同様、短パン姿を見つめてダンテとヒースは思う。


 どうして、この2人は寒くないんだろう、と。


 被り振ったダンテが疲れたように言う。


「そんな事言えば、いつもの修道服のポロネも……あれ? ポロネは?」

「思い出した。ニクの事言われる前、言おうと思った」


 そう言うミュウは山の麓の方を指差す。


 差された方向には人サイズの雪玉が転げ落ちるのを見つめるダンテとヒースは嫌な予感に包まれる。


「転げ落ちた」

「ダンテ~た~す~け~て~!!」

「ああっ!! どうしてもこうも!!」


 ダンテは水の精霊を行使してポロネが転がる方向の雪を凍らせてその上に飛び乗ると滑降していった。





 飛び出したダンテを元の位置で待っていたレイア達の下に顔を真っ赤にさせたダンテと「怖かったよ~」と泣くポロネが返ってくる。


「辺りをキョロキョロして足下を疎かにしてるからだよ!」


 プンプンと怒ったようにするダンテにヒースが近寄り、少しイヤラシイ笑みを浮かべて耳打ちする。


「そんな事言って……役得だったんじゃない? ポロネさんを受け止めようとして顔で胸を受けてしまって倒れた所をしばらく抱き着かれてたんだから?」


 ヒースにそう言われて驚き過ぎて鼻が出たダンテが口をワナワナさせていると「僕、目がいいんだ」と笑われる。


 そういう意味ではミュウも見えたのでは、と見つめると不思議そうに見返される。

 おそらく、ミュウの発想にそういう考えがなかった為、普通に見えたようで気にされてなかった。


 少し、羨ましそうにするヒースを見て、普段、紳士ぽいヒースは実はオッパイ星人であった事を思い出す。


 だから、アリアに一目惚れをしたのではないかとダンテは思っている。


 咳払いして仕切り直すダンテはポロネに指差して言う。


「今度は気を付けてね!?」

「は~い」


 若干、拗ね気味のポロネの返事に溜息を吐くとレイアに頷いてみせると改めて山頂を目指して歩き出した。



 天気も良かった事もあり、しばらくノンビリしながら山を登っているとポロネの楽しそうな声が響く。


「ダンテ~、モッフモフですよ!!」

「はぁ?」


 疑問の声を上げて振り返るダンテ達の視界には二足歩行するクマの小脇に抱えあげられるポロネの姿があった。


 それに固まるダンテ達が見つめるポロネは抱えられながら、クマのお腹に頬を擦りつける。


「このクマさんはきっと『お友達になりましょう』と言ってるんですね!」


 嬉しそうにそう言うポロネであるがダンテの隣にいたミュウがボソッと言う。


「ニク、ゲットだぜ! 今日はツイてる! あのクマ、言ってる」

「なっ!?」


 蒼白な顔になるレイア達がミュウを見つめて固まるがいち早く復帰したダンテがクマ目掛けてジャンプする。


「ダンテ流星蹴り!!」


 滑空する勢いを利用しながらクマに挑むダンテに我を取り戻したレイア達もクマとの戦いに身を投じた。




「お友達になれると思ったのに……」


 スンスンと泣くポロネをゲンナリと見つめるレイア達は同情が籠った目をダンテに向ける。


「ダンテ、普段のポロネの世話、本当に大変じゃない?」

「手伝ってくれるの!?」


 そう言ってくるヒースに飛び付くように反応するダンテから3人はソッと目を逸らす。


 そして、声を殺して泣く声が追加された事を明記しておこう。







「お帰り」

「お帰りなさいなの」


 雪草を手に入れたレイア達が依頼者宅にやってくるとアリアとスゥで出迎えられる。


 それに曖昧な返事をするレイア達が雪草をアリアに手渡す。


 受け取ったアリア達が不思議そうに5人を見つめて、ボロボロのダンテとさっきまで泣いてたと思われるポロネを見て首を傾げる。


「何かあった?」

「そのまあ、色々とな……ただ、アタシ達はもっとダンテを労わらないといけないかもしれないと思わされた一日だったよ……」


 アリアとスゥは可愛らしく首を傾げてお互いを見つめ、クエスチョンマークを浮かべた。

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