ダンテ、漢プロジェクト

「テツさん! 僕は強く格好いい男になりたいです!」

「ん? いきなりどうしたんだい、ダンテ?」


 早朝の訓練が済んで、井戸の水で2人で汗を流してると意を決した風のダンテがテツにフンッ! と踏ん張る様子を見せるダンテにテツは首を傾げる。


「ザガンでできた男友達のヒースという子がいるんですけど……」

「ああ、いたね? 確か、ソードダンスのとこのお子さんだったかな?」


 ダンテの言葉を聞いたテツが思い出すように言うセリフにダンテは頷く。


「そのぉ、ヒースも僕もなんですけど、女の子ぽい顔してるじゃないですか?」

「そうだね、ダンテ程じゃないけど、ヒースって子も女の子ぽい顔をしてたね」


 テツにはっきりとヒースより女顔と言われて引き攣るダンテは膝を着きそうになるのを踏み止まる。


「そ、それでなんですけど、2人で約束したんです。『今度、再会する日までにどちらが男らしくなってるか』と……」

「――ッ! 男同士の約束か……いいね、それ! 僕の男友達と言うとダン達ぐらいしかいないけど、もう手合わせもしてくれないからな……」


 テツはダンテを羨ましげに見つめる。


 ちなみにダン達は既にテツと勝負できるとは思っておらず、3人で挑むのも御免被るというのが本音らしい。


 思い耽るテツにダンテは詰め寄る。


「男らしいというと僕が知る限り、ユウイチさんが一番だと思って質問したんですが『すまん、考えた事ないから分からん。自分らしいのが一番じゃないか?』と役に立たないパターンのユウイチさんだったんです……」

「あはは、ユウイチさんなら言いそうだよね」


 容易に雄一が困った顔をしながら頭を掻いている姿がテツの脳裏に浮かび上がる。


 ダンテは笑い事じゃない、とばかりに足下を踏み鳴らす。


「本人は無自覚である事が分かった以上、ユウイチさんの第一人者と名高いテツさんに頼るのが一番だと思ったのです。テツさんならユウイチさんのカッコイイ理由なども知ってるだろうし、テツさんやレイア達を鍛えるメニューから見えている事があるはずだと思いまして……」

「第一人者? はっはは、それほどのことも……あるかな?」


 徐々に仰け反って、90度まで胸を逸らすテツの鼻はピノキオのように伸び出す。


 ダンテは基礎訓練と実践訓練以外はユウイチの教えは基本受けてない。


 水魔法に関してはレンが主軸で時折、アクアに教わっているので、自分が学んでない何かに男として格好良くなる秘密があるのでは? と考えていた。


「でないと、レイアがどんどん中性的になっていってる説明が付かない!」


 とても失礼な事を考えているダンテの言葉を聞き逃したテツが顔を向けてくるがダンテは「何でもない」と首を横に振ってみせる。


 細かい事はどうでもいいとばかりに目をキラキラさせるテツがダンテの肩を抱いて空を指差す。


「ダンテ、あの星を目指して頑張ろう! 微力ながら力を貸すよ!!」

「もう、星が見える時間じゃ……いえ、よろしくお願いします、テツさん!」


 急遽出来上がった師弟関係に感動した2人が抱き合っていると勝手口が開き、出てきた雄一が呆れた視線を向けて声をかけてくる。


「そろそろ、朝飯だぞ?……それとパンツぐらい履け。いらん誤解を受けるぞ?」


 すっぽんぽんのエルフ♂2匹は雄一の声が届かないぐらいに感極まってるらしく号泣しながら強い信頼関係を築き続ける。


 それを見て、諦めの溜息を吐くと雄一は勝手口に戻って中に入ると「テツとダンテは遅れるらしいから先に食べるぞ~」と建物から聞こえてくるが2人は時間が止まったかのように抱き締め合った。







 我に返った2人が朝食を済ませて、早朝訓練に使っている場所にやってきた。


 テツと向き合うダンテは深々と頭を下げる。


「よろしくお願いします!」

「うん、出来る限り協力するよ!」


 そういうテツは顎に手を添え、考えながら話し始める。


「僕が良く言われるのは、ひたすら走って、柔軟をしろ! だね。早速走るよ」

「はいっ!」


 テツがいきなり走り出すのでダンテはそれを追いかける。


 鍛え方が明らかに違うテツを追うがどんどん距離が開き、それに気付いたテツが反復飛びをしながら前をに進み出すと距離が開かなくなる。


 それを見つめるダンテが呆れから溜息が洩れる。


「テツさんの体力は無尽蔵なのかな?」


 明らかにおかしいテツに苦笑しながらダンテは必死に走り続けた。




 山を往復3回するとテツは足を止め、息絶え絶えといった風のダンテを見つめる。


「少し軽めにし過ぎたかもしれないけど、初日だからいいよね?」


 テツの恐ろしい言葉に顔を青褪めるダンテは必死に聞き流す。


 そんなダンテの様子などお構いなしに馬鹿な子がしそうな笑みをするテツのテツスマイルが浮かぶ。


「次も少なめににして柔軟を1時間」

「長いですからね、テツさん!?」


 我慢の限界に到達したようで叫ぶダンテ。


 テツは「まあまあ」と笑いながらダンテを床に座らせる。


「まずは前屈からで、顔を地面に着けて5分維持ね?」

「ちょ、僕はそこまで柔らかくないし、5分ってなんです……ぎゃあぁぁ!!」


 ダンテの苦情を無視したテツが後ろから思いっきり押して、ダンテの額は地面に激突する。


 ダンテは押されて曲げた痛みなのか、額をぶつけた痛みなのか分からないが悲鳴を上げる。


 だが、白目剥いて口から白い何かが抜けようとしてる様子から見て、魂からの叫びだった事だけは疑いようはないようであった。







 その日の夕食の後、ダンテは食堂の椅子に座り、自分の掌を閉じたり開いたりすると腕捲りをして力コブを作ろうとする。


 自分の二の腕を見つめて満足そうに頷くダンテであったが常人から見ればコブどころか腕の太さすら変わったようには見えない。


 あの柔軟体操の後、テツに連れられて、滝行を行い、そのまま流れの速い川で泳がされ、最後は焚き火に放り込まれたドングリを抜き取るという良く分からない訓練までさせられた。


「これを積み重ねていけば、いつか!!」


 嬉しげな様子のダンテに近寄ってきたスゥが話しかけてくる。


「ダンテ、髪が無茶苦茶になってるの。梳かしてあげる」

「あ、ありがとう、スゥ」


 懐から取り出した櫛で髪を梳いてくれるスゥに感謝を伝えるダンテ。


 一通り済んだスゥがテキパキとした動きでダンテの髪を編み込み始める。


「ダンテの髪はストレートで加工がしやすい……羨ましいの……」


 自分の赤いフワフワのクセのある髪を一瞬触り、悲しそうにするがすぐに気を取り直す。


「でもダンテで練習できるし、何より遊べるからいいの!」

「何か言った?」


 聞き逃したダンテが後ろにいるスゥに呼び掛けるが「何でもないの」と言われてしまう。


 気になったダンテが聞き返そうとした時、正面からアリアにも声をかけられる。


「ダンテ、肌が荒れてる」

「うん、今日は外で騒いだからね?」


 そう言ってくるダンテにアリアは「そのまま、放置は良くない」と言うとダンテの目の前でカバンから取り出した瓶の口にコットンを押しあてて染み込ませる。


「試供品に、と貰った美容液を塗っておくの。荒れると痒くなったりして大変」

「痒いのは嫌だな……ありがとうね、アリア」


 コットンでダンテの顔を拭いてやるアリアが顔を顰める。


「化粧もしてみたいけど、ユウさんに化粧は評判良くない……」


 がっかりするようにするアリアであったが、雄一が化粧を嫌うのは料理に邪魔だからであった。


 1つ頷くアリアはダンテの眼前で呟く。


「ダンテの肌はキメが細かいからダンテにして満足するの」

「ちょっと待って、何か恐ろしい事しようとしてない?」


 アリアの両手首を掴むダンテはどんな企みをしてるのか知る為に問いかけているがアリアは素知らぬ顔をして抑えるダンテなど無視するように顔に美容液を塗り続ける。



 その様子を離れた所でレイアが首を傾げる。


「アリア達はいつもヤツか……そういや、今日、ダンテのヤツ、昼間いなかったけどどこにいたんだ?」

「テツと一緒」


 突然現れた骨を咥えているミュウが声をかけてくる。


 びっくりしているレイアにミュウが今日、ダンテがしてた一部始終を暇だったので着いて回ったミュウが語り始める。


 それを聞いたレイアがボソッと告げる。


「まるで、前の日に大学芋を食べ過ぎたホーラ姉と同じ事してんじゃん」


 レイアが肩を竦めた瞬間に合わせるように背後から頭を鷲掴みにされる。


 掴む主を見つめるレイアは顔色を真っ青にさせる。


「ち、違うんだ。アタシは要らない事考えたりしてない……信じて!」


 食堂の外に連れ出されたレイアの悲鳴が響いてくるのを黙って見つめるミュウの後ろから声が響く。


「そうだ、明日、私達の買い物に付き合う」

「えっ? いいよ」

「良かった。ダンテって私達と身長変わらないから助かるの」


 再び、ダンテを見つめるミュウは黙って両手を合わせると目を瞑る。


「がぅ!」


 これにどれだけの想いが込められているかは不明であったが、ダンテの漢としての道乗りには数多くの障害があるようだ。

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