柱の傷
雄一達がトトランタに来てから1年が経った春の暖かいが窓から差し込む午前中、アリア達を捜すレイアの姿があった。
「あれぇ? みんなどこだ?」
グランドを見渡し、アリア達の姿が確認できないと次は裏庭にある畑に足を伸ばすがそこにもいない。
頭を掻きながら建物に近づくと、「がぅがぅ」とミュウの声を拾ったレイアは喜色を浮かべると台所の勝手口から入っていく。
台所に入るとそこにはいつものようにいる台所の主である大男の姿がなく、代わりにツインテールの少女、ティファーニアが洗い物をする手を止めて突然入ってきたレイアを驚いた顔で見つめていた。
「ビックリした。もう、台所を通り道にしちゃダメって言ってるでしょ?」
「ごめん、ごめん。それより、テファ姉、アリア達知らない?」
ティファーニアに怒られるが悪びれもせずに謝るレイアに嘆息する。
しょうがないな、という表情を浮かべるティファーニアは食堂の方を指差す。
「食堂の方に行ったわよ。声もそっちからしてるし」
「ありがと!」
そう言うと台所を素通りするレイアに苦笑いを浮かべてティファーニアは見送った。
▼
食堂に向かうと食堂の真ん中にある柱の周りには、アリア、ミュウ、スゥに最近やってきたダンテという女のレイアから見ても自分より女の子に見えるエルフの少年が集まっていた。
「分かった、分かった。順番な?」
敢えて、レイアが視野外にした大男、雄一がアリア達にせがまれて嬉し困った顔をしながら笑う。
雄一がいるから一瞬どうしようかと思ったレイアであるが、アリア達が何やら楽しそうだったので意を決して声をかける。
「何やってんだ?」
そこで雄一が除いたアリア達がレイアの存在に気付き、少し驚いた顔をする。雄一はレイアの接近に気付いていたようで笑みを浮かべて見つめてくる。
すぐにいつもの無表情に戻ったアリアがドヤするように胸を張ると言ってくる。
「成長記録」
「はぁ?」
毎度の事ではあるがアリアの言葉足らずの説明に首を傾げるレイアはみんなの傍に歩きながら、「双子のアタシでもアリアの言いたい事が分からない事が多い」と嘆く。
その様子にニヘラと幼女特有の笑みを浮かべるスゥが補足してくる。
「ユウパパがスゥ達の身長を柱に刻んでくれるのぉ」
「ああ、なるほど。なんで急にそんな話に?」
やっと得心したレイアは掌を叩いて頷きながら質問を重ねる。
すると、おずおず、と手を上げるエルフの少年のダンテが発言する。
「僕とテツさんがエルフの風習で木に身長を刻む、と話をしてたのをアリア達が聞いてユウイチさんにお願いしてたんです」
「ああ、俺も小さい頃、家の柱に身長を刻んだのを思い出してな」
ダンテの言葉に頷く雄一はその当時を思い出すように食堂の柱に触れて遠い目をする。
勿論、アリア、レイアにはそんな風習もそんな事ができるような状態でもなかったのでした事がない。
スゥも城でそんな事をする機会などなかった。
レイアの返事も聞く間も惜しいとばかりに1番とばかりにミュウが柱に背をくっ付けて吼える。
「がぅ! ユーイ、ミュウ1番、早くする」
「はいはい」
苦笑するが嬉しそうにミュウの頭の上に添わせるようにナイフを水平に動かして傷を付ける。
それを皮切りにアリアが続き、最後にダンテが済むと雄一が振り返る。
「次はレイアだぞ?」
笑みを浮かべる雄一がレイアを手招きする。
一瞬、逃げようかと考えるが、アリア達がしてるのに仲間外れになるのは嫌だという気持ちが勝ち、ブスッと仏頂面を晒しながら柱の方にやってくる。
ドサクサに紛れて雄一の脛を蹴っ飛ばすと目を瞑って柱に背を向ける。
片目を開いて見ると脛を蹴られたはずの雄一は少しも痛そうにしてない事に理不尽と知りつつも苛立ちを覚えて鼻を鳴らす。
「よし、終わったぞ」
その言葉と共に飛び出すように雄一から離れるレイア。
むしろ、その行動の方が堪えているらしい雄一は情けない顔で泣きそうになっていた。
そんな雄一から一定の距離を意識しながら柱に戻るレイアが各自の身長を確認する。
ミュウ>アリア>スゥ>レイア>ダンテ
「な、なんだと!」
ワナワナと震えるレイアはブービーである事に震える。
レイアにしてみれば双子であるアリアと同じという認識だったのだ。
屈んで柱の傷を優しげに見つめ、その視線に負けない触れかたで触る雄一の胸倉を掴むレイア。
「計るの失敗しただろ!」
「えっ? ちゃんとしたつもりだが?」
レイアにいきなりキレられて一瞬戸惑う雄一だが、事情を察して思わず笑みが零れる。
そんなレイアの肩を叩くスゥが困った顔をして言ってくる。
「スゥも見てたの。ミュウやアリアと同じようにレイアにもしてたの」
「これが現実」
ムフン、鼻息を荒くさせたアリアが胸を張ってレイアにトドメを刺してくる。
落ち込むレイアに苦笑いを浮かべる雄一がレイアの肩に触れる。
「そう落ち込むな。レイアの年頃では多少の誤差も出るし、今が第一成長期だ。これから伸びるし、その後には第二成長期が待ってる。これだらだぞ!」
「慰めんな!」
涙目のレイアは雄一に裏拳を入れるが「痛い」とは言わせるが本当に痛そうに見えない雄一は苦笑を浮かべる。
そんな雄一を振り返り、指を突き付けるレイア。
「アンタがデカイと思っていい気になってるだろ! アタシはきっとアンタぐらいになったらアタシの方が大きい!」
「レイア、それは無理。ユウさんは男性の中でも大きい方」
冷静な突っ込みをするアリアにレイアは地団太を踏みながら「関係ねぇ!」と叫ぶ。
そんなレイアの言葉が、
「お父さんより大きくなるもんっ!」
と変換されている親馬鹿雄一は涙を目尻に浮かべて嬉しそうにウンウンと頷く。
アリアと雄一の態度から馬鹿にされてると判断したレイアはミュウに目を向ける。
「ミュウ、アイツの身長を柱に刻め!」
「がぅ、ガッテン!!」
そう言うとスルスルと雄一に登るミュウは雄一に柱の傍に行けと指差す。
素直に柱に背を向けるように立つ雄一の顔に抱きつくようにしたミュウが雄一からナイフを受け取ると柱に傷を付ける。
「イタ、イタタ、ミュウ、刃が頭に時々当たってるぞ!」
「がぅ、少しの辛抱、ユーイ頑張れ」
シクシクと泣く雄一はその終わりの時を辛抱強く待つと満足したらしいミュウが雄一にナイフを返すと雄一から飛び降りる。
雄一がどいた後、雄一の身長の印と自分のを見比べるレイアは頬に一滴の汗が流れる。
勢いで言ったものの、現時点で無理だと理解し始めたようだ。
ニコニコ見つめる雄一に歯を剥き出すレイアは指を突き付ける。
「絶対、吠え面かかせてやるからなっ!」
そう言うとノシノシと足を鳴らして食堂を出ていくのを溜息を吐いたアリア達が追うように出ていく。
それを見送っていた雄一であったが、1人取り残された子がいるのを発見する。
打ちのめされた人のように三角座りダンテであった。
「どうした、ダンテ?」
「ぼ、僕、男なのに1番小さい……」
涙ながら言うダンテの言葉を受けた雄一は静かに頷き、肩を抱いてやる。
「小さい時は女の子の方が成長が早い。男の勝負の時は第二成長期だ。今は耐える時、頑張れダンテ」
「はい……」
エグエグと女の子のように泣くダンテの肩をポンポンと叩く雄一であった。
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