愛し、育む事で知る事 ⑤
大雨も凌いで、ついに収穫の時を目前に迎えた。
収穫日を明日と決めた雄一は畑作業に参加した子供達を集めて、発表する。
「明日は他の子達も呼んで、収穫した物を食べるパーティ、いや、祭だ、収穫祭をやるぞ!」
雄一の言葉を聞いた子供達は、「祭だぁ!!」と騒ぎ始める。
それを微笑ましく見つめた雄一は、うんうん、頷いて見守る。
「ユウイチ父さん、みんなに言ってきていい?」
「おう! いいぞ、しっかり宣伝して来い!」
そういうと歓声を上げて走りゆく子供達の内のレイア達4人とキッジを呼び止める。
「ああ、お前達にはそれ以外にも仕事がある」
そういう雄一を首を傾げて見つめる5人に笑って見せて「着いてこい」と歩き始める。
雄一は畑が見える位置で身を隠せる位置にやってくると5人に隠れるように伝える。
レイアがさっさと説明しろ、とばかりに睨んでくるのを笑いながら雄一は告げる。
「今、みんなが野菜ができたと嬉しそうに皆に報せに行っただろ? もう食べれると知った馬鹿がきっとやってくる」
畑を見つめていた雄一が楽しそうに目を細める。
「ほら、早速、馬鹿がやってきた」
雄一にそう言われた子供達は慌てて、物影から目だけ覗かせた。
子供達の視線の先には3人の姿があった。
「プークスクス! 誰もいないのですぅ。出来たて一番乗りは私なのですぅ」
金髪の頭頂部には自己主張の激しいアホ毛を揺らす少女が口許を必死に抑えながら笑うのを我慢してるつもりの馬鹿が一人目。
「声が大きいですよ? どこに耳あり目ありか分からないんですよ?」
嬉し過ぎて、色々オーバーリアクションになり、限度を超えたらしく踊り出す青い髪のニットワンピース姿の2人目。
「私は忍。忍び耐え凌ぐモノ! でも美味しいモノは別腹なのはしょうがない!」
くの一の格好をどこで知ったか確認したくなるものを着こんだ隠れる場所がないところを忍び足の真似事をする緑髪の少女が馬鹿3人目。
半眼になっている子供達に雄一は告げる。
「ラストミッションだ! あの害獣(・・)を駆除もしくは捕獲せよ!」
「ラジャ!」
5人はズレもなくピッタリとハモらせると敬礼をすると飛び出す。
飛び出してくる子供達に気付いた3馬鹿は騒ぎ出す。
「は、計られたのですぅ!!」
「私は悪くありません。シホーヌに唆されただけです!!」
「忍の世界で生きると決めた時から、いつかこうなると覚悟の上!」
子供達と追いかけっこが開始され、それを雄一は苦笑しながら見守った。
次の日、収穫が始まるとさすがに人数が人数だった為、あっさりと終わる。
調理班の雄一達は各自分担して作業にあたっていた。
ハンナが大学芋の調理を1人で担当し、ティファーニアがピザ生地を伸ばして、トランが生地の上にトマトをベースにしたピザを作る。
その出来た生地をテツが汗を流しながら窯で焼いている。
ガレットとダン、ラルクが皮を剥く必要のある野菜を3人で剥いていた。すこぶるダンが楽しそうにしてるのが印象的であった。
その剥かれた物の中にある、ニンジン、リンゴ、レモンを木樽に放り込み、蜂蜜を入れて隠し味にオリーブオイルを少々入れると蓋をする。
雄一は水魔法を使って、野菜や果物にある水分を利用してウォータカッターを作りだし樽の中で回転させる。
水魔法でするミキサーであった。
「ユウイチ父さん! 串が刺さるようになったよ!」
「おう、今、行く!」
外では子供達に面倒見させていた、ジャガイモとサツマイモの塩茹でである。
雄一も確認して、もういいだろうと判断するとザルに空ける。
「熱いからまだ触るなよ?」
「がぅ! アツ、アツ!!」
どうやら話を聞かないタイプが早速痛い目に合ったようだ。
2人並んでくるアリアとスゥが雄一の下にやってくる。
「ユウさん、実習室にあったバターを奪って……貰ってきた」
「その近くにチーズもあったのぉ、ユウパパ」
掲げてみせる2人に苦笑いを零し、雄一は後ろを指差す。
「丁度、茹で上がったところだ。持って行ってやってくれ」
頷く2人が持って行くと、
「俺の最高傑作のバターがぁ!!!」
「趣味全開の採算考えてない自分用のチーズをどうやって見つけたぁ!!」
悲痛な叫びが聞こえた気がしたが雄一は何事もない顔して台所に戻る為に歩き始める。
歩く先にはみんなを見つめるレイアの姿があった。
「どうだ? 自分が精魂込めて作った野菜をみんなが美味しそうに食べてる姿は?」
「うん……悪くない」
雄一達の視界には、芋を取り合うようにして笑い合う子供達や、テツがピザが焼けたと声を張り上げる姿、そして、大学芋ばかり食べてて喉を詰まらせたホーラに呆れた顔をしてポプリがニンジンジュースを手渡す姿が映る。
みんな楽しそうに食べている。
広場の方ではアリアとスゥが涙目の少年、少女に追いかけられているが2人共楽しそうだから気にしない。
「ほら、ミッシェルだ」
雄一はレイアの掌にトマトを置いてやる。
それをジッと見つめたレイアが一口齧る。
「どうだ?」
「トマトはやっぱりトマト」
顔を顰めながらも、もう一口齧る。
涙目になるレイアが呟く。
「嫌いな味なのに食べるのを止めたくない、なんでだろう?」
「それはレイアが愛情を込めてミッシェルに語りかけて、ミッシェルがレイアに応えてくれたんじゃないか?」
そうか、と呟いて、また一口齧った。
「きっと、普段、食べているトマトもみんなに食べて欲しいと思って誰かが作ってるんだと思うな」
「あんな大変なんだもんな。収穫できたら嬉しいし、食べて欲しいと思うよな……」
「そうだぜ、レイア!」
突然、割り込むように話に入ってきた者を見つめるとキッジが涙目で齧りかけとトマトを持って固い笑みを浮かべている。
「お前もトマト嫌いなんじゃねぇーかよっ!」
「馬鹿野郎、今日から大丈夫になるんだ!」
言い合いから、どっちが先に食べ終わるかという勝負に発展して2人とも後1口のところでダブルノックダウンしてしまう。
このキッジ、今回の件をキッカケに農業の道を選ぶ事になる。
そして、医療用薬草栽培の第一人者として名を残す。
未来はともかく、醜態を晒す2人を見ていると軒下から雄一を呼ぶ声がする。3馬鹿であった。
「ユウイチ、ユウイチ、私はもう100万回、反省したのですぅ! もう許してくれてもいいと思うのですぅ!」
「昨日からご飯抜きで死んでしまいます……チラッ……きっと優しい主様なら恩赦をくださるはず……チラッ……ぐだざい!!!!」
「忍は忍ぶと書く。だから私はいつまでも耐え忍ぶ!」
シホーヌはうっとうしいほどアホ毛をピコピコさせ、アクアは水魔法使ってないか? と聞きたくなるほど号泣している。
中でもルーニュは涎で地面に文字を書いている。
『いい加減、食させろ! これ以上、おあずけ、するならDTを喰らう!!』
身の危険を感じた雄一は、溜息を吐く。
「はぁ、収穫祭に参加して、よし!」
雄一がそう言うと現金にも表情を明るくする3人は立ち上がる。
「まずは甘いニンジンジュースなのですぅ!!!」
「まだ、バターとチーズは残ってますか!!」
「我は血に飢えておる。待てぇ、その焼き立てのピザは忍の我のだぁ!!」
相変わらずの3馬鹿に嘆息しか出ない雄一は台所から、ニンジンジュースが切れそうと騒ぐ声を聞いて、追加を作る為に台所へと向かう。
こうして、北川家、第1回収穫祭は成功で幕を閉じた。
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