愛し、育む事で知る事 ③

 早朝訓練を途中で抜けてきた雄一。テツ達にはすべきメニューを伝え、ダン達には吐くまでか朝食の時間になるまで走り続けろ、と鬼のような指示をして帰って来ていた。


 テツ達の訓練を放置してまで帰ってきた雄一が何をやっていたかというと鍬を使って、杭と木板で作ったプレートに拙い文字で『レイアガーデン』(レイア命名)と書かれている隣に同じ数だけの畑を耕していた。


 軒先には昨日の内に買っておいた苗なども用意されており、抜けはなさそうだと満足そうに雄一は頷く。


 これからの予定を考えていると眠そうに目を擦り欠伸をするミュウの背中をスゥが押しながらレイア達がやってくる。


 新しい畑が出来てるのに気付いたレイアが雄一を見上げる。


「また何か植えるのか? ヨシ、アタシに任せろっ!」


 息込んで新しい畑に行こうとするレイアの両肩を抑えて止める。


 なんで止めるとばかりに雄一を睨むレイアの目線の高さに屈みながら説明する。


「これはレイア達の畑じゃないんだ。あっ、きた、あいつらの畑だ」


 憮然な表情をして雄一を一睨みした後、雄一が指差す方向を見ると、ゲッと唸る。


 そこにいたのは学校の子供達の畑をしてみたいと希望した6人であった。その子達を見てレイアが唸ったのはその中にレイアと喧嘩をして負かせた相手の男の子がいたからである。


 既に、とある男の子の告白により、あの男の子がレイアと喧嘩をして微妙な関係になっている事は雄一の耳に届いており、レイアが嫌そうにしている理由もはっきりと分かっていた。


「あいつらも畑をやってみたいらしくてな、それで畑を増設してみました」


 ドヤ顔をする雄一にイラッときたらしいレイアは迷いもなく脛を蹴っ飛ばす。


 脛の痛みで屈む雄一の首に脇に挟むように手を廻して締め上げてくる。だが、体格差があってレイアは少し体が浮くが気にした風も見せずに顔を真っ赤にして頑張る。


「なんで、アタシがアイツ等と仲良く一緒に畑仕事をしないといけないんだよっ!」

「別に仲良く一緒にしなくてもいいんだぞ? 例えば、どっちが立派な野菜を作るかで勝負でもいいと思うしな」


 必死にフンヌ、フンヌと首を絞めるレイアが可愛くてニヤけが誤魔化し切れてない雄一がそう言うと更に締め上げてくる。


「なんでアタシがアイツ等と勝負してやらねぇーと駄目なんだよ!」

「ああ、なるほど、レイアはアイツ等に自分の育てた野菜が負けると思ってたのか。それだったら隣で作られて見比べられたら嫌だよな?」


 そう言われた時のレイアの目を後に雄一は語る。今まで色々睨まれたり、蔑んだ目で見られてきたが、あの時のレイアの目と比べたら菩薩の瞳であったと。


 虎の尾を踏んだ事を知った雄一が震えていると静かに腕を外して降りるレイア。


「アタシのミッシェル(トマト)やピーター(ニンジン)、男爵 (ジャガイモ)、サイゴウ(サツマイモ)が負ける? 有り得ねぇ、家の子を貶した事を後悔させてやる」


 闘気を纏ったレイアがアリア達の下に戻るのを冷や汗を掻きながら見送る。


 想像以上の劇薬だったようで、雄一は苦笑いを浮かべる。


 雄一の下にやってきた6人の子供達が雄一を見上げる。


「さあ、こっちはこっちで始めるか?」


 そう言う雄一の言葉に元気に頷く子供達を連れて、一緒に作付から始めた。





 それから数日が過ぎた。


 今日も畑は麦わら帽子を被る子供達が集まっていた。あの後、すぐに雄一は人数分の麦わら帽子を購入して配ったのである。

 だが、レイアは雄一に借りた麦わら帽子を返却せずに新しいのを返却してきた。どうやら、被り慣れたようで新しいのは嫌ということらしい。


 時折、レイアと対面の畑の男の子と目が会うと火花が散るようなガンと飛ばし合いが始まる。


 予想された事ではあったが、特に2人が熱が入り大変な事になっていた。


 最初の出来事は記憶が確かであるなら、男の子、キッジがレイアよりに朝の畑に着いた事から始まった。

 それからどちらが最初に畑にいるかというくだらない勝負が切って落とされた。

 その熾烈な戦いの余波か、2人は昼の授業は居眠り常習犯化し、狙えもしないシホーヌのチョーク投げの的にされていたが、一発も当たらず周りに被害を拡大させていた。

 夜の就寝もどちらが先に寝るかと勝負しているかのように早い時間に寝るという苦笑を誘う事態に追われていた。


 他の面子、アリア達は仲良く意見交換などをしながら、ほのぼのと畑仕事をしていて、この両極端な姿は傍目で見ていると笑えてくる。


 当然というべきか、この2人は空き時間はほぼ、畑に来ている。来て何をしてるかといえば、定期検査とばかりに1時間ごとに虫が付いてないかの確認と害獣を追い払うという警備に着いている。


 今のところ、数羽の小鳥とクロが数回飛来しただけであるが、その度にクロは追われて雄一の下に鳴きながら逃げ込んできた。


 クロは学習能力がないのか、遊んでるつもりなのかどっちなのだろうと悩まされる。



 そんな愉快は日々を過ごしていた、とある日、事件は発生した。


 空を見つめる雄一は眉を寄せる。


「これは一雨あるかな?」


 それを聞き付けたレイアが雄一に確認を取る。


「なら、今日は水やりはしないほうがいいか?」


 同じように雄一の返事待ちをするようにキッジもこちらを見つめる。


 空を眺めたままの雄一の表情は芳しくはなかった。


「水やりを止めるぐらいで済めばいいが……」


 そう言う雄一の言葉にレイアとキッジは不安そうな顔を見せる。


「なぁ、ユウイチ父さん、どうしたらいい!」

「うん、これは強い雨が降りそうだ。ニンジン、ジャガイモ、サツマイモは大丈夫だろうが、トマトが危ないな」

「ミッシェルがっ! どうするだよっ!」


 雄一は片足づつ掴まれて2人に揺すられ続ける。


 必死すぎる2人に苦笑しながら指示を与える。


「まずは乾いた飼葉を取ってこい」


 返事する間も惜しいのか2人は競うように近所の馬小屋がある場所の持ち主に交渉するために家を飛び出す。


「ユウさん、私達は?」

「そうだな、想像以上に強い雨になるかもしれないから、簡易の屋根を作ろうと思うから廃材から杭に使えそうなモノを集めに行ってくれるか? 俺は屋根代わりに使えそうな要らない布を捜してくる」


 そう言うとアリアとスゥが陣頭指揮を取って、仲良く廃材を取りに向かう8人を見つめて、あちらは良好な関係だな、と苦笑する。


 でも、と雄一は思う。


 あの2人も後一歩のところまできていると笑みを浮かべると雄一は家の中へと布を取りに入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る