愛し、育む事で知る事 ②

 朝食の後片付けを済ませると畑の前で雄一の麦わら帽子を被ったレイアが仁王立ちしてた。


 やってくる雄一に気付くと目付きをきつくするレイアが怒鳴る。


「何をチンタラしてた。この子達はアタシ達がちゃんとしてやらないと駄目なんだぞ!」


 畑を指差して、必死さを滲ませているレイアに雄一は苦笑を浮かべる。


「間違ってはないが、そこまで過保護にする事でもないんだぞ?」

「甘い、甘過ぎる。アンタがそんなんだと、この子達は枯れて実を作る事もできなくなるかも……できなかったらどうするっ!」


 激しい身ぶりに雄一に訴えるレイアを見て、嬉しくは思うが、構い過ぎだな、というのが感想である。


 レイアと一緒に畑に作付してから今日で1週間である。


 最初はイヤイヤという雰囲気をばら撒きながらやっていたレイアであったが、日に日に変化していく植物に幼いながらも母性本能が刺激されたらしい。


 それからというもの、暇があれば畑にやってくるようになった。


 葉っぱの後ろに毛虫が付いてれば取り除き、雑草が生えてれば徹底的に毟る。


 それも終わってする事が無くなれば、日陰で座って見守り、害獣がこないか見張り撃退するつもりのようである。今のところ、クロが飛んできたぐらいだが、棒で追い払われて雄一の下に泣きながら避難してきた。


 そんなレイアの様子を見て、雄一は失笑してしまうが、雄一は気付いていない。

 ホーラから見た、レイア達を構う雄一も似たようなモノと思われているが、いつか気付く日がくるのだろうか?


「分かった、分かった。俺が悪かった」


 雄一が降参するように両手を上げて謝ると、とりあえず矛を収める気になってくれたようで怒りを静めてくれたようである。


「ふんっ、分かればいい。で、今日はどうするんだ? 昨日、トマトに何かするって言ってたけど?」

「今日は、支柱を立ててトマトの茎が真っ直ぐに育つように補助してやるんだ」


 昨日の内に用意しておいた竹に良く似た植物を割いて棒状にした180cm程のモノを数十本が置かれている軒下を指差してみせる。


 やるべき事を理解したレイアが走り寄って支柱を全部一気に持とうとするが、4歳児であるレイアでは持ち上げられる訳もなく、引き寄せられるように支柱の束に顔から突っ込んでしまう。


 その様子に微笑ましさも感じつつ、雄一はレイアを起こす。


「気持ちは分かるが、レイアが1回で運べるのはこれぐらいかな?」


 そう言う雄一がレイアに支柱を2本渡すが、不満そうに眉を寄せて文句を言おうとする。だが、実際に持ってみると若干のふらつきを隠す事もできずに憮然な表情をして雄一から視線を切ると畑に向かった歩き出した。


 苦笑を浮かべる雄一も残る支柱を持ち上げるとレイアを追うように畑へと向かった。



 支柱を苗ごとに刺していき、隣の支柱と連結させるように結んでいると「アタシがやる」と意気込むレイアいたので任せる。勿論、手が届く訳がないので雄一が持ち上げて結ぶという手間が増えるだけだったが、真剣なレイアの顔を眺めて娘の成長に大満足であった。


 支柱を刺し終えると今度はトマトの茎を誘引する。


 茎と支柱を紐で結ぶのだが、縛ってしまってはいけない。


 今後の成長を考えて緩めにしとかないと圧迫するためである。


「見てろよ、こうやって8の字を書くようにして結ぶんだ」


 そう説明する雄一の言葉を聞き終えると紐を引っ手繰るようにして受け取る。


「アタシが絶対、ちゃんと大きくしてやるからな?」


 鼻息を荒くして結んでいくレイアを必死に笑うのを堪えて見ていた雄一は気付く。

 玄関のほうから覗くように見るアリア、ミュウ、スゥの姿を見つける。


 興味ありげに見る3人に雄一は手を招くように振ってみせる。


 すると、キッカケ待ちだったようで嬉しげに駆け寄る3人を笑顔で出迎える。


「ユウさん、何をしてるの?」


 レイアのしている事を見つめながら、アリアが問いかけてくる。


「野菜を育ててるんだ」

「私もやってみたいのぉ!」


 スゥは何をやっているかは分かっていたようである。城に居る時に庭師が花を植えているのを見ていたのでフワッと理解してたようである。

 すると、追従するようにアリアとミュウもやりたいと言い出す。


 真剣にやり過ぎていて、アリア達の接近に今頃気づいたレイアは紐を結ぶのを一旦止めるとこちらにやってくる。


「おいおい、野菜を育てるのは大変なんだぞ? 最後までしっかりやる気はあるのか?」


 鼻の下を指の背で擦るレイアが3人に先輩風を吹かせる。


 それに意気込むように頷いてくる3人の姿に鷹揚に頷くレイア。


 胸を張るレイアを見ていた雄一は、最初はイヤイヤやっていたのにと必死に笑うのを堪える。


「よし、アリアは水撒き、ミュウはニンジン畑の草引き、スゥはアタシと一緒にトマトの茎を紐で結ぶ」


 テキパキと指示を出していくレイアに頷いて動き出すアリアとスゥを余所にミュウが唇を尖らせて嫌そうに言う。


「ニンジン、いらない」


 そう言うミュウにレイアはムキになって口を弾く。


「ミュウはニンジンが嫌いって簡単に言うけど、ニンジンがどうやって育って、綺麗なオレンジ色になってミュウの下に来るか、知ってるのかよ!」


 ドヤ顔するレイアがミュウに手を差し出して、「それを知る為にも頑張れよ!」と言う。


 それに、ガゥゥ……と少々不満そうではあるがニンジン畑に向かうのを満足そうに見つめるレイアの後ろでは、雄一が膝を着いていた。そう、腹筋と戦いが劣勢に追い詰められた為である。


 雄一がレイアに言ったセリフをパクるように言うレイアの掌返しぷりが雄一のツボを刺激したのである。


 急にレイアが声を上げる。


「アリア、トマトには水やりは今日はしなくていい! トマトは水をやり過ぎると実ができなくなる」


 アリアの下へと駆け寄るレイアがジャガイモなど畑にアリアを連れていき、出てきてる茎の根元を狙い、優しく水をやるのを実践してみせる。


 雄一はそれを横目に土を掻き毟る。


 レイアが当然のような顔をして教えている事が全て雄一に教えられたモノを元から知っていたように振る舞う姿に腹筋が敗北寸前であった。


 負ける訳にはいかないので、必死に堪えてみせて、復帰する。


 背景はともかく、レイアが必死に頑張る姿は良い事だと見つめる。

 これが良いキッカケになれば、と雄一は願う。


 何故なら、学校の子供達の数人が離れた所から4人の姿を見つめているのが目に入った為である。


 さて、どうしたものだろうかと楽しげに土に塗れる4人を腕を組みながら眺めた。

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