第3話 私の友達はツンデレなのですぅ

 お昼前に出発した2人であったが、普通なら丁度、お昼時に街、ダンガに着けたのに、既におやつ時の時間になっていた。


 ホルンは、ダンガの門が見えてきて、ホッと安堵の溜息を吐く。


「お昼を食べ損ねたのですぅ……もう、おやつ時なので、おやつを食べて夜までもたせるのが良いのですっ! ホルン、私は揚げパンあたりがいいと思うのですが、どう思うですぅ?」


 耳元で嬉しげなシホーヌの声に、イラッとする気持ちを必死に抑えるホルン。


 ホルンが反応を示さない事に首を傾げるシホーヌが問いかけ直す。


「揚げパンは嫌なのですぅ? お肉とかにするぅ? ああ、なるほど、もっとヘルシーなのがいいのですぅ? じゃあ、じゃあ……」

「いい加減にしなさいっ! アンタが愚図って、歩かない、って騒ぐから、仕方がないからおぶって歩いたから、こんな時間になってるのよ?」


 そう、シホーヌはホルンの背におんぶされて、呑気な事を言っていたのである。



 シホーヌは、あの後、歩き出して1時間もしない内に、「もう、歩けないのですぅ~」と泣き事を言いだしたのを見たホルンが溜息を吐いて、ほっといて歩き出そうとする。

 すると、シホーヌは、地面に寝っ転がり、玩具売り場で、たまに見かける子供のように手と足をばたつかせて、「おんぶしてくれないと、嫌なのですぅ~」と暴れ出す。


 そんな元気があるなら、歩けるでしょう、にと頭を抱える。


「アンタねぇ? 女神がそんな体力がない訳ないでしょ? 我儘言わないの!」

「しょうがないのですぅ! 今日はいつもなら10時間寝てるところを9時間しか寝てないうえに、昨日のお昼は、神々会議もあってお昼寝もできてないのですぅ!」


 それだけ寝てれば充分でしょ、と頭を抱えるホルンは、このお馬鹿な友達に伝える。


「お昼寝してないって言うけど、アンタ、会議中の半分は舟を漕いでたでしょ?」

「そんな、事実は知らないのですぅ?」


 すっとぼける駄目な友達をどうしたら良いのかと悩む。


 すぐに溜息を吐くと、シホーヌに背を向けてしゃがみ込む。


「乗りなさいよ」

「わーい、ホルン、大好きなのですぅ~」


 諦め顔のホルンと満面の笑みを浮かべるシホーヌという両極端の表情をする。


「やっぱり、ホルンは優しいのですぅ!」

「いや、あのまま拒否続けても、結局、こうなる気がしたから一番疲れない選択肢を選んだだけだから……」


 ホルンは、色々諦めた顔をして、シホーヌにそう言うが、シホーヌは、「ホルンは、ツンデレさんなのですぅ」と嬉しそうに言ってくる。


 そんな言葉も、ホルンは、はい、はい、と聞き流しながら、ダンガへと歩き出したのであった。



 そんな事があった事すら忘れた顔をしたシホーヌを睨むが、何も考えてなさそうな顔でニパーと笑い返してくる。


 シホーヌの様子に額に血管が浮かび上がるホルンは、シホーヌを支えていた両手を離す。

 重力に引かれたシホーヌは、ほへぇ、と言う声が漏れそうな顔をしたまま、お尻から地面に落ちてしまう。


「痛いのですぅ、お尻が2つに割れるように痛すぎるのですっ。ホルン、酷いの……」


 シホーヌは、最後まで言う事はできなかった。そう、本能がヤバいと訴えていた為である。


「いい? あんまり馬鹿ばかり言ってると、夕飯もアンタだけは抜きにするわよ?」


 シホーヌは両手で自分の口を隠して、ウンウン、と涙目でホルンに必死に頷く。


 再び、ほったらかしにして歩こうとし出すホルンに、シホーヌは、弱々しく呼び掛けるが、チラりと見られるだけで、歩みを止められなくて、頬を膨らませる。

 シホーヌは、「最終手段なのですぅ」と胸を張る。


「ホルン、私をほっていくと街に入れないのですぅ。許可書を持ってるのは私なのです……ううっ!!」


 ホルンにドヤ顔をしながら、胸元を弄っていたシホーヌの額に汗が噴き出してくる。


「おかしいのですぅ、ここに仕舞ったはずなのに……ホルン!許可書を落とした……ああああっ!!」


 シホーヌが見つめる先に許可書を振って見せてくるホルンの姿があった。


「大丈夫よ? 私は入れるから? でも、そこでダダを捏ねてたらアンタは街の外でオヤスミになりそうね?」

「お外で一人で寝るのは、嫌なのですぅ!」


 慌てて立ち上がったシホーヌは元気一杯に走ってやってくる。

 それを見つめていたホルンは、「やっぱり元気じゃない」と溜息を吐く。


 追い付いてきたシホーヌがホルンの腕に抱きついて見上げてくる。


「それはそうと、街の中に入ったら、おやつが食べたいのですぅ」

「駄目よ。夕飯まで我慢しなさい。先に宿を押さえないといけないの」


 掴んでるホルンの腕をぐいぐいと引っ張るシホーヌは、「ホルンのいけず」と唇を尖らせる。


「駄目なモノは駄目だからねっ!」


 といいつつ、2人は門で年配の門兵に許可書を見せる。


 門兵は、ピクッと眉を動かすが、深くお辞儀をしてくるだけで、門を通してくれる。


 街に入ると市場に売られているモノに目を輝かすシホーヌが、また騒ぎ出し、ガンと聞かないという姿勢を貫こうとするホルンとのくだらない戦いが始まった。



 夕方、食事を済ませたホルン達は、宿屋の一室に入る。


 夕食前に根負けしてリンゴを買ってやったのに、夕飯もしっかり食べたシホーヌは、「おやすみなのですぅ~」とナイトキャップをかぶるとベットにダイブする。


 本当なら、食事をしながら聞いたダンガの土地事情を話し合いたかったホルンであったが、この状態になったシホーヌを起こしても時間の無駄だと経験で理解してたので諦める。


「しょうがない、もう少し、情報を自分で集めておきますか」


 そう言うと、苦労女神、ホルンは、寝てるシホーヌを宿に置き、ドアをこっそり力で鍵をかける。

 そして、ホルンは、宿屋の主人に、少し出てくると伝えると、辺りの地形を把握しながら、土地を管理する商人を訪ね歩いて、情報収集を時間が許す限り続けた。

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