第2話 私の指先が全てを決めるのですぅ

 ペペロンチーノから、身分証明書を手に入れた2人は、再び、ダンガが見える位置まで戻ってきた。


 最初は意気揚々と歩いていたシホーヌであったが、往復した事で疲れてきたらしく、木を背もたれにして両足を突き出すようにする。

 今は、シホーヌとホルンしかいない為、ワンピースの裾から中を見られる心配をする必要性がないからだろうが、余りに無防備な格好にホルンは眉を寄せる。


「私は、もう頑張ったのですぅ。だから、続きは明日、頑張る! なので、後は、ホルンにお任せなのですぅ~」


 そういうと、シホーヌは、「おやすみなのですぅ」と寝ようとするのを驚きもせずにシホーヌの耳を引っ張るようにして、寝るのを阻止するホルン。


「アンタねっ! 毎回、毎回、その手で私に押しつけられると思ってるでしょ? いい加減にしなさいねっ!」

「イタタッ、痛いのですぅ。しょうがないのです、こんなに頑張って疲れたのですぅ……」


 耳を引っ張られながら、ウルウルと空色の瞳に涙を溜めて見つめる。


 それを、呆れた顔で受け止めて、太陽の位置を見て、嘆息するホルン。


「頑張ったって、まだ、お昼にもなってないのよ? アンタは、あの双子の母親やるって神々会議で押し切ったのに、そんな有様でどうするのよ」


 そうは言ってるがホルンも多分駄目だろうなぁ、とは思っていた。正直、シホーヌが双子の面倒を自分から買って出た時は、目を丸くしたものである。


 その異例中の異例が起きた事で、何百年ぶりの神々会議が開催される運びになった残念女神とみんなに認識されるシホーヌであった。


 ブツブツ言う、シホーヌは、「仕方がないのです、飲みモノを飲んだら出発するのですぅ」と言うと、胸元から文庫本を開いたぐらいの大きさの液晶のついた薄いモノを取り出す。

 そこに指を突っつくようにするのを眉を寄せて見つめるホルンは、問いかける。


「アンタ、何をしてるの? それってまさか……」


 待って、待って、と言わんばかりに頭を抱えたホルンの目の前では、シホーヌの手元にオレンジジュースが現れて、それを美味しそうに飲む姿があった。


 慌てたホルンは、シホーヌが持つモノを奪い、それを確認すると盛大な溜息を吐く。


 シホーヌは、ジュースを飲みながら、可愛さをアピールするように首を傾げてホルンを見つめるが、ホルンに冷たい目で見返されて、汗が頬を伝う。


「確か、アンタのカミレットは、女神長に没収されたよね? 無駄に色々使うからって?」

「あれ、そうだったのですぅ? よく覚えてないのです!」


 あくまでシラを切り通そうとするシホーヌのコメカミに拳、中指だけ少し突き出した形にすると、うめぼし、を発動する。


「このカミレットは、アンタの相棒になる者に渡す為、預けられたモノをアンタの認証済ませてたら、その子に渡せないじゃない。これは、アンタが与えるチートじゃない、女神長がその子に与えたチートなのよ?」


 軽石のような脳ミソを持ち合わせる残念な友達に染み込ませるように、手の回転にスナップを効かせる。


「さっきと比較にならないぐらい、痛いのですぅ!! 私が悪かったので、許して欲しいのですぅ!」

「本当なのでしょうね? ちゃんと、相棒の子の為だけに使う?」


 腕のスナップを止めると、凛々しい顔をしたシホーヌが、「神に誓って、守るのですぅ!」と言ってくるのを見て、目元を腕で覆ってホルンは少し涙する。


 この子は、自分が何であるか本気で忘れているのだろうか、と……


 心の整理がついたホルンは、カミレットを操作していく。


 それを見ていたシホーヌは突然、慌て出す。


「ホルン? 何をしてるのですぅ……ああっ――――!! 保護神設定は駄目なのです。何を買うとか、プライバシーに関わるし、いちいち、ホルンの許可がないと買えなくなるのですぅ!!」


 ピョンピョンと跳ねながら、「返して欲しいのですぅ、止めて欲しいのですぅ」と涙目で叫ぶシホーヌを無視して、届かない位置で操作するホルンは、設定を済ませる。そして、1024桁の無駄に長すぎるパスワードを登録する事で、シホーヌの解除する心を折る。


 設定の完了させたカミレットを返されたシホーヌは、カミレットを抱き締めて、エーン、エーン、と人目を気にせず、大泣きする。とは、言っても、周りには誰もいないが。


「これで、アンタが無駄に使うのは阻止できるでしょうけど、相棒の子に渡せる状態には戻せなかったから、アンタはちゃんとその子の為に使うのよ?」

「ホルン、アホー、アホタレ~。身体測定で、体重計に乗る時に、ソッと乗っても体重は変わらないのですぅ!」


 ホルンは、笑顔のまま、シホーヌの頬の伸びる限界まで引っ張る。


 シホーヌは、言語として認識できない言葉しか発せず、滂沱の涙を流す。


「ごめんなさいね? 何を言ってるか、分からないわ?」


 うふふっ、と笑うホルンの目だけは笑っておらず、シホーヌは、とてもホルンの柔らかい部分に爪を立てた事を激しく後悔をする。


 そして、冷静になったホルンが手を離してくれた後、シホーヌはホルンにビクつきつつ、頬を撫でながら、街へと歩き出したホルンの後を追って、ダンガへと歩き出した。

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