第2話 奇妙なる相談箱
昨日に引き続き、やっと目に見える全ての客が出払った店内で、東はパソコンを開いてポスター制作に勤しむ。
今日から自分がこの店の副店長だ。
店長の地位はちょうど一年前に、東の十歳年上の姉である翠が祖父より受け継ぎ、名ばかりだった父の副店長という地位はたった今、東が受け継いだ。
東の両親はコーヒー豆の仕入・販売業という別の稼業があるので、よほど喫茶店が忙しい時以外は手伝ったりはしてくれない。
今日はその数少ない手伝ってくれた日だったとはいえ、東は疲れ切っていた。
「……なんか、代わり映えしないね。一応高校生じゃなくなったけど」
「そうだねぇ」
「明日もシフト入ってたっけ?」
「うん」
かすみの受け答えは大体端的だ。でも、ここで働き始めた当初は、怯えるように「はい」としか返事をしなかったので、かなり打ち解けたとは思う。
「いつも小針のじーさんと何話してるの?」
「ん?」
常連客のジジイの世迷い言に興味は無いが、答えが長い質問をかすみにしてみるのが、昨今の東の習慣だ。
「世間話……かな。孫と話してるみたいで楽しいって。孫と思って小遣いよこせって言ったらコーヒーおかわりしてくれたよ」
「よ、よくそこまで仲良く出来るね」
職人が多い街だからか、ちょっと気難しい人が多くて手を焼く。
しかもそういう人に限って味に敏感なので、ネルドリップを注文されると余計な神経を使う。
しかし、かすみはそんなじいさんやばあさんの懐に簡単に入り込んで好かれてしまう。
控えめだが、言うべきことははっきりと言う毒舌家なところが、じいさんばあさんのハートを掴んでいるんだと、東は思っている。
ただ、かすみはしっかりしているようで、少し抜けていた。
サンドウィッチは真っ直ぐ切れないし、テーブルやカウンターを拭いた後、いちいち翠や東にきれいになったか確認をせがんだり、業務用のトースターのボタンもよく押し間違えては慌ててやり直す。
ただ、そんな不器用さも愛嬌に繋がっているのかもしれない。
「おじいちゃん、東のコーヒーはすごく褒めてたよ。東のドリップはこの店の味だって。お前のは羽川かすみ味だっていっつも言われるんだよね」
褒めてくれるなら本人に言って欲しいものだが、小針のじいさんにそんな優しさは求めても意味が無い事を東は知っている。
「淹れ直しとか言われないの? 俺何度も言われたよ」
小針のじいさんは、機嫌が悪い時が多い。少しでも美味しくないと淹れ直せと平気で言うので、東はいつも対処に困っていた。
ただ、本当に淹れ直せという意味ではなく、不満足であるという態度表明なのだが。
「うーん、一度も無いよ。まずかったら半額って言われるけど、最初の頃はまずいといいつつお全額払ってくれたし」
「え? 勝手に割り引きされたら困るよ」
気難しい常連を手玉に取る頼もしいバイト仲間を羨望の目で見てしまう。
もうすぐここを去ってしまうからだろうか、出会った当初の愛想ないかすみの姿がやたらと思い出される。
その時のかすみはもういない。
「かすみは注ぐ水量がちょっと多いのと、少しだけ早いって言えばいいのかな……? 泡の感じをよく見てるといいんだけど」
「そっかぁ。この前は少ないって怒られたんだけど。止めどころが分かんなくて」
お互い下の名前で呼ぶようになったのは、特別親しくしているからではなかった。
なんせ働き手はたまに来てもらうパートのおばちゃん数名以外とかすみ本人以外、全員日陰姓だ。
それでかすみは東のことを下の名前で呼ぶことを余儀なくされている。苗字っぽいから、呼んでもあんまり恥ずかしくないんだそうだ。東自身もそう思う。
そしてかすみは全員から下の名前で呼ばれているので、東もそれに合わせている。もちろん気になる女子を下の名前で呼ぶための口実だが。
「ちょっと、その訳が分からないの進まないなら早く掃除手伝って」
「はいはい」
今でこそむき出しの怒りをぶつけてきたりはするが、初めて出会った頃のかすみこそ、本当に目立たない子そのものだった。
あまり印象に残らない顔立ちで、化粧気はほぼ無い。特徴的なのは、明らかにサイズが合っていない眼鏡くらいだ。
女子の平均より少し低い背の高さ、ぺったりして無個性なショートヘアは翠に切ってもらったりしているらしい。そしてやや暗い、悪く言えば卑屈な性格。
とにかく、何か度を超して目立つ部分がないので、完全に周囲に溶け込んでいるようなタイプの人間だ。
ライトグレーのワイシャツに黒のパンツというこの店の制服を着込むと、本当に目立たないウェイトレスでしかなくなってしまう。
とは言え、この店では中高年の常連のアイドルとして君臨しているのだが。
クラスメイトだったにも関わらず、かすみがここで働き始めるまで、東はかすみをはっきりと意識した事は無かった。
だから何の接点も無いかすみが、ここで働き始めた時は接しづらくてたまらなかったのを覚えている。
しかも、募集すらしていなかったのに、かすみをバイトとして突然雇ったのは、尚更接点の無さそうな姉の翠だった。
「はぁ、なんかいいフレーズ無い?」
「その奇妙って言葉はやめなよ」
かすみの意見は至極尤もだが、東は奇妙という表現がしっくりきていた。
この店は、あの箱のせいでやはり奇妙だからだ。
「あの箱は奇妙としか言い様がないしなぁ」
「そう?」
扉には『相談席』と書かれたプレートが貼られ、その下には空室と使用中を切り替えられるプレートも貼られている。
今は『使用中』だ。『目に見える客』は帰ったが、『目に見えない客』はまだ一人だけいるのだ。オカルト的な意味ではなく。
箱が少し揺れた。
ボスンという間の抜けた音と共に、相談席のドアが開き、中から東達と同じ学校の制服の女子生徒と、店長である日陰翠が現れた。
我が姉ながら美人だと、東は思う。
かすみと同じグレーのワイシャツに、店長の証と謂わんばかり黒いベスト、そして同じ黒いパンツを穿いているのに、まるで印象が違う。
背は低いのに出るところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。メイクではっきりとさせた顔立ちは美しかった。
長くウェーブがかかった髪が、かんざし代わりのボールペンで結い上げられているのが少しマイナスポイントだが。
そして女子生徒の方は、東とかすみの同級生で、モデルにスカウトされた事もあるという噂もある程の美少女だった。
普段はスカートを巻き上げて女子高生である事を満喫しているような少女だが、さすがに卒業式だった今日は正しい丈で制服を着こなしていた。
ただ、目の周りのメイクはぐしゃぐしゃだった。
「翠さん、ありがとうございました……かすみも、日陰君も、ありがとう」
メイクが滅茶苦茶でも可愛いな。東はその場にそぐわない感想を抱いてしまった。
「
かすみが小さいタオルを裕理に渡した。
「あ、あり、がとう」
「頑張ったね」
「うん……頑張った……」
そのままかすみにすがりついて泣き崩れる。
東が多分学校一の美少女だろうと勝手に思っている
そんな谷に気さくに話しかけてもらえて、実家が喫茶店やってて良かったなんて思ってしまったのを覚えている。
誰に対する恋愛相談をしているかは秘密厳守の名の下に不明だが、堅物で有名な野球部員に思いを寄せていたのは事は周知の事実だった。
「これ飲んで」
「……あ、ありがとう」
全身の水分が無くなってしまいそうなくらい泣きじゃくっている同級生に、水が入ったグラスを渡してから、東は複雑な気持ちに襲われた。
ふと思い出してみると、この同級生は初めてここに来た時より、かなり大人っぽい印象になっていた。
化粧の仕方なのか、態度物腰なのかは東にはよく分からなかったが、きっと綺麗に見せるために頑張ったんだろう。
そして、卒業式に乗じて行動を起こして、望まない結果に終わってしまった。
『あなたの恋を叶える』というポスターに使うキャッチフレーズは0点だ。
そんな言葉、頑張って玉砕した谷裕理に失礼だと、東は思わざるを得なかった。
「東、会計は後日な」
「え?うん」
せっかくタブレット端末とクラウド会計ソフトだかいうものを導入したばかりで、例外的な処置を要求されると困るのだが仕方ない。
グラスの水を飲み干してもなお、頭半個分以上小さいかすみに支えられて、なんとか立っているという状態の谷に、お金を請求する事なんて出来やしない。
「この子送ってくるから、かすみは帰る準備終わらせとけよ」
車の鍵を持った翠と、谷裕理が店を出ていく。
「大丈夫かな?あんなに泣いちゃって」
「平気だよ」
かすみの答えは明瞭だった。
「女子は結構強いよ。いっぱい泣いて、ストレスをしっかり排出して前に進むんだよ」
そういうものなのか。自分がもし、あんな結末を迎えてしまったらどうなるだろう。やはり、
やはりこの喫茶店は、我が実家ながら奇妙だと東は思う。
姉の翠が、何故こんな事を始めたのかは分からないが、大半の相談者はあんなふうに少し泣いていたり、暗い顔で帰ったりする事が多かった。
「あんな美人なのにフラれちゃうのか」
我ながら品のない発言だと東は思ったが、出てしまったものは変えられない。
かすみは東の言葉に悪意が無いことは分かってくれているので、どうにも歯止めが効かなかった。
「それは、相手が悪過ぎるから」
「ん?
しまった。かすみの顔がそう語っていた。
「……それは隠れ蓑。ほんとは
「うえぇ!?」
「そんなに驚くこと?あ、他の人に言わないでね」
当たり前だ。
こんな事実誰にも話せない。十歳は年上だけど、確かにあの人は背も高くてスタイルも良い。田舎の高校教師とは思えないタイプの人間だ。
あれだけ大人っぽくなった谷なら、園田の隣に立っていても、様にはなると思う。
東は薗田とは少なからず交流があった。
薗田はこの店によくやってきては、趣味が探しているなどと言い、東からコーヒーのうんちくを聞き出す事に心血を注ぐ無邪気な人物だった。
言われてみれば、偶然居合わせた谷と一つのテーブルでコーヒーを飲んで談笑している姿も頻繁に見ていた。もしかしたら、かすみ達と結託して、鉢合わせになるよう仕込んでいたのかもしれない事に、東は思い当たった。
「はぁ……」
無意識にため息が出てしまった。
自分には縁の無い話だ。
それがこの一年間、あの奇妙な箱の横で過ごした東の正直な感想だ。
「どうしたの? あ!もしかして裕理の事好きだった? 今ならイケるかもよ?」
「何言ってるんだよ? 弱ってるところ狙えっていうの?」
かすみが我が意を得たりと、大きく頷く。
少しだけ狡猾なところも、この羽川かすみという少女の魅力だと思ってしまう自分を止められない。
偶に常連が飲み物一杯で帰ろうとすると、物販コーナーの商品を買えと強要したりもするくらいだ。
「だって人で傷ついたら人でその傷を埋めるのが妥当でしょ」
東には分からない理論だった。
「妥当かどうかは知らないけど、た、谷の事狙ってないから。あの、なんていうか、縁遠いと思ったんだよ」
「縁遠い? 何が?」
主語が抜けてしまった事に東が気づく。
しかし、『恋愛』という言葉が東の口をついて出ない。
「あの、男女的なの」
「そう?」
「そ、そうだよ。俺なんてほぼ毎日ここで働いてるし、あんまりそういう方面の事を考える余裕ないから」
かすみが値踏みをするような目で東を見る。
「ほ、本当だから。かすみが来てくれる前なんてさ、定休日以外ほぼ休んでなかったし。ほら、もし付き合うとか出来ても、あんまり会えないし」
本当はもう少し休みはあったけど、と頭の中で付け足した。
それに、東は自分の意思で店に立っていた。将来の事を考えれば、技術を完璧にして、食いっぱぐれないようにしなくてはという気持ちに歯止めがかからないのだ。
東がやたら自分の将来を心配するようになったのは父の影響だ。祖父にコーヒーを学び、あらゆるショッピングサイトで豆を販売し、大した規模ではないが、数年で焙煎工場まで作ってしまうに至った、大きな父が浴びせる『将来の事を考えろ』という言葉は、東に重くのしかかっていた。
東が唯一反発した事といえば、大学進学だ。四年かけて何を習うべきか分からないし、大学を出ていない両親はただ、自分の心残りを姉と自分に押し付けているように感じたのだ。
翠は東京の大学へ行き、その後少しだけ都内で働いて戻って来たのだから、東もそれに従う必要はない。
東の気持が通じたのか、ここでバイトとして働いたお金と少しの支援で、なんとか調理師専門学校への入学を決める事が出来た。
そしてその間にバリスタのライセンスも、一番低い段階で良いから取得したかった。
そう考えると、脇目を振る時間はかなり少ない。少なくとも東はそうやって自分を納得させている。
うん、決してモテないからではないと、自分に言い聞かせる。
「それだけ?」
「え?」
遠大な計画を頭の中で反芻して自分は恋愛にかまけている場合ではないと、現実から目を逸らして悦に浸っている東を、かすみは赦してくれないらしい。
かすみは毒舌家というより、核心を突いて人の心を抉るのが上手なサディストなのかもしれない。
「はいはい。顔は悪いし、卑屈だし。髪の毛だけは美容院でなんとかしたつもりだけど」
美容院は姉に連れて行かれただけだが。
「よく出来ました。自分の現状を理解してるところはプラスかな」
何がよく出来ましただ、と東は頭の中で毒づいた。卑屈の塊なのは、かすみと東の似通ったところだ。
「もっといいところをアピールすればいいのに。そのちょっとオールバック風な髪型は良いと思うよ。なんか喫茶店って感じ」
「そりゃどうも。美容院でお任せの結果だよ。スタイリング剤の付け方まで完全指導されてるよ」
「いいことだよ。貧乏、携帯なし、ガリガリ、守銭奴、ヘアスタイルもメイクもノーガード戦法の小ブスはそう思うの」
自分の気になる相手をそんな風に貶めないで欲しいと東は思う。
「……でも、私達はきっと多数派だから頑張ろうよ」
まぁ、そうだ。世の中モテる奴の方が少ないのは確かだ。でも、頑張ってどうなるという物でもない気がしてしまう。
「どう頑張るの?」
「そうだねぇ……来世でいい顔に生まれるように祈る……とか?」
高校卒業したてでもう来世に求めるとは、見上げたマイナス思考だと東は思った。
「そんな選択が出来るんだったら今生でイケメンに生まれてるよ」
「……そこは論破しないで欲しかったな」
うーんとかすみが唸る。
「翠に相談してみなよ。姉弟なんだし」
「姉弟だから相談できないんだって」
かすみが困ったように腕を組んだ。
「そっかぁ。一人っ子には分からない感覚だね。でもほら、翠ならちゃんと客観的に接してくれると思わない?」
「だ、だとしてもハードル高くて無理だよ……なんか、あんまりこう、本当にモテなさそうな人が相談に来た事ないからさ。かすみは出来るの?」
「え? ……無理」
二人で同時にはぁっと息を吐く。
なんとなく鬱々とした気分だけど、東はたまに経験するかすみとの閉店後の会話が楽しくてたまらなかった。今日はかすみがよくしゃべってくれるので尚更だ。
いつもかすみを車で家まで送る翠がまだ帰って来ないので、少しだけ長く話していられる。
でも、こんな生活ももうすぐ終わってしまう。
新生活の資金が欲しいかすみは、四月ギリギリまでほぼフルで働いてくれるらしいから、定休日以外はほぼ毎日一緒にいられる事が唯一の救いだ。
「もしかして、ハードル高くなかったら相談してるの?」
「え? いや、時と場合によるけど」
にやけ笑いを浮かべたかすみの目が、東の目をしっかりと捉える。まるで、語るに落ちたなといわんばかりだ。
「……相手、誰?」
まさか、切り込んでこられるとは東の予想を超えていた。
しかも、かすみの笑顔はいつになく
「い、いや、そういうかすみはハードル低かったら相談すんのかよ?」
「相手がいないから無理って言ったの。ほら、誰よ?」
ああ、論点ずらし失敗。でも、そうか。相手はいないのか。東の中に変な欲が生まれたが、すぐにそれを引っ込める。
もう四月までそれほど時間は無い。今自分の中にある全てかすみに伝えたら、多分こんなふうに話せなくなってしまうだろう。
第一、どう伝えるんだ。
「……東なら大丈夫だって」
「な、何が?」
「察してよ。料理出来て、ネルドリップのコーヒーなんて高尚な物を客に出せるクオリティで淹れられる人なんていないから。それにほら、持ち家あって、社長ジュニアで、こんないい喫茶店の副店長で。これだけ揃ってればきっとすっごい可愛い女の子と付き合えるから、大丈夫」
羽川かすみの表情は、まるで自分の発言に酔っているように東には映った。
勿論褒めてくれているんだろうが、全く嬉しくない。
「い、いや、彼女なんて絶対無理。これから調理師免許取ってカウンターの奥に引き篭もる予定だし」
「調理師も栄養士も翠が持ってるでしょ。飯屋じゃないんだから引きこもってないでホールに出なさい」
「だ、だって、女子高生とか女子大生とか喋れないって。ど、同級生とかたまに来るだけで凄く困るし」
「だから訓練しろって言ってんの!」
どっちが上司か分からない会話だ。
自分に年齢が近いと、何故か緊張して会話にならないのは東のウェイターとしての弱点だ。
こういう店に平気で入れる人間はやたらと話しかけてくる事が多いので尚更困る。
「……ん? ちょっと、私女子高生ですけど? 話しづらい?」
「もう卒業済みだろ」
「いや、それは昨日の今日の話だし」
出入口のドアが開き、少し疲れた顔の翠が顔を出した。
「なんだよかすみ! 着替えてもねーし荷物も取って来てねーのかよ!」
仕事が終わった後の翠は、口調が少しヤンキーっぽくなる。姉御肌の典型と言えば聞こえが良いんだが。
「ああごめん。カウンター拭いたら着替えるね」
「はぁ!? 拭き掃除も終わってねーのかよ! サビ残させんぞ! サボってイチャコラしやがって! アラサー男無しに見せつけてんじゃねーよ!」
「してませんけど? 東超イケメンに改造してくれればするよ」
冗談のつもりなのだろうが、東は少々傷ついた事を自覚した。
「はぁ? 理想通りに改造された東がおめーみたいなノーメイクブスを相手にすると思ってんのか?」
「論破しないでよ顔面左官職人!」
「すげーだろ! 漆喰剥がすとコイツとほぼ同じツラだぜ。お前も塗り込んでやろうか!」
ゲラゲラ笑い合う。
なんでこんなに仲が良いんだか。毒舌家同士気が合うのかな。しかし、会話が堂々巡りになる前に、翠が帰ってきてくれて良かった。
二人のやり取りを見つつ、東の気持は崩壊寸前だった。
先程のかすみの言葉はまるで凶器だ。
『きっと可愛い女の子と付き合えるから、大丈夫』
こんな言葉、振られる時に浴びせられる常套句だ。
恋愛経験に乏しい東にだって分かる。
ああ、フラれたのか。告白もしてないのに。
こんな言葉浴びせられるくらいなら、どうして自分の思っていることをさっさと言わなかったのだろう。
「東、眠いの?」
「え?ああ、いや、なんか、疲れたのかな」
後悔先に立たず。この言葉を東は今程強く感じた事はなかっただろう。
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