Episode 01-6
何時間も涙を流していられるほど私の水分ストックは多くなかった。
涙はとっくに枯れ、赤くなった目が悪目立ちし、少し人通りが多くなった今では少し恥ずかしい。
と言っても、帰れる場所があるわけでも無い。
宛てもなく、といってもできるだけ家から遠ざかる様にフラフラと歩く。
そんな時、である。
前方に、知った顔の人物が目に入った。
知った顔、と言っても接点はほとんどない。昨日、団長をバカにしていた二人である。
二人は、それぞれ武器は携えているが、昨日の様な鎧は着ておらず、軽装で街を歩いていた。
早朝にもかかわらず、なぜ首都に勤める王国騎士がこんな郊外の町の道端にいるのか。
疑問に思っていると、二人は更に不可解な行動を見せる。
建物と建物の隙間、つまり路地裏に入り込んで行ったのだ。
国中に幅をきかせる王国騎士が、路地裏なんかに入るだろうか。
……何やら、怪しい。
好奇心混じりに私は、二人に気付かれない様、跡をつけることにした。
路地裏は、そこら中に蜘蛛の巣が張っており、足元には様々なガラクタや潰れた木箱などが散乱しており、足の踏み場に困るほどだった。
前方を確認すると、二人は忍び足ながらも、早歩きで奥へと進んでいく。
私も、見失わない様に後を追う。
この好奇心混じりの行動には、辛い現実から目を背けたいという思いも、内包されていたのだろう。本来ならそれほど気にすることでもないのに、この時の私は必死に二人の後を追っていた。
もしかしたら、重要な任務の途中なのかもしれない。
そんな風に、どうでもいいことに限って希望的な観測をしてしまう。
二人が何度目かの角を曲がる。それに追従すると、何故かそこに二人の姿はなく、その代わりに、路地裏の出口があった。
……ただの近道をしただけなのだろうか。そう落胆しながら、路地裏を出ると。
そこは、建物と建物の壁で囲まれた、偶然生まれたかの様な四方十mほどの閉鎖空間だった。
袋小路、と言った方が想像しやすいだろうか。
ここで生まれてくる疑問が一つ。
では、あの二人はどこへ行ったのか?
その答えは、背後の声が教えてくれた。
「誰かにつけられてると思ったら、ただの小娘じゃねぇか」
振り返ると、先ほど見失ったはずの二人が路地裏から出てきていた。
……いつの間に抜かしたっけ?
「いや、一丁前に剣を持ってやがる。……そういえば、昨日アレンと一緒にいたやつか」
「なら問題ねぇな。どうせ落ちこぼれ集団の役立たずどもだ」
昨日から思っていたが、彼等の発言は目に余るほどに無礼だ。
いかに能力が劣っていても、それを侮蔑される責任などどこにもない。
そう、反論しようとしたのだが。
「だが、念には念を入れて」
そう言うと、片割れが指を鳴らす。
すると、彼等の背後からぞろぞろと武装した男達が現れた。どこに隠れてたの?
ざっと十人はいるその武装集団を前にしては、啖呵をきるのにも度胸がいる。
「悪いが、始末させてもらうぜ。この取り引きを見られちゃあ、俺らの命があぶねぇ」
ここで疑念は確信に変わった。
このひとたち、わるいひとだ。どうしよう。
思考停止している暇などない。
逃げ道は完全に塞がれている。
これまで何度も言っている様に、私はぜんぜん強くない。実戦じゃむしろ弱い。
活路は、あるのか。私の生きる道はあるのか。
彼等が襲いかかるまでの数瞬の中、逡巡する。が、結論は直ぐに出た。
……無理だこれ。私、死ぬわ。
どう考えてもこっから逃げれる訳もないし、全員倒せる訳が無い。
絶望感のあまり、乾いた笑いが顔に張り付く。
そして、諦観のあまり目を閉じる。
これも、私がしてしまったことの報いなのだろうか。
救いの手を叩いてしまった、報いなのだろうか。
……それならば、しょうがないか。
そう思い、私は裁きをただ待った。その体は、磔にされたかの様に動かなかった。
「追いかけてこいってケツ叩かれて、探して来たら大物が釣れるとはな」
この、聞き覚えのある覇気の無い声は。
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