Episode 01-4

 かれこれ拠点周辺を歩き回って、1時間が経とうとしていた。


 ……予想はしていたけど、やはり……。


「いつも通り暇だな」


 団長が欠伸をしながら、私が思っていても言わなかったことを口にしてしまった。


「言っちゃうんですか。それ」

「だって暇だし。自警団はいないんだけど、逆に曲がりなりにも王国騎士団の俺らが見回ってるからか、治安自体は結構良いんだ。上流階級の居住区でも無いから宝石店とかも無いし。あるとしたら若者の喧嘩くらいだな」

「……ホントに王国騎士がする仕事なんですか?」

黒曜ここにいる奴は本当に王国騎士と言えるか怪しいもんだがな。所属じゃなくて、資格の話で」

「うぐっ」

「けどその代わりと言っちゃなんだが、近隣の住民とはすごく仲がいいぞ。八百屋とかでも野菜安く売ってくれるし」


 地域との繋がりは大事だぞと、団長はうんうんと頷いているが、私はどうも腑に落ちない。


「……これの積み重ねで、王国騎士に戻れるんですか」

「こういうのでは無理だろ。だったら自警団が騎士になってるわ」


 ならんのかいッ!!!


「じゃあなんでやってるんですか」

「ん?」


 私が若干苛立った口調で問いかけた瞬間、団長の顔から笑みが消え、感情の無い目で私を見つめてきた。


「国の為に生きるって言うのは、国民の為に生きることだ。俺らが騎士である以上、お前から見て何の価値も無いような人助けをするのに理由がいるのか?」


 団長がここまで起伏の無い声で話すのは、初めて見た。


「……すいません、軽率な質問でした」

「……」


 そう言って、再び前を向き歩き始める。

 先程の軽やかな雰囲気は何処へやら。

 早々にやらかしてしまった自分を責めていると、団長が静かに口を開いた。


「……騎士ってのはどうあるべきか、なんてのは人によって違う。さっきの俺を持論を全てお前に押し付けるなんてのは愚かな事だ。お前にはお前の目指している地点があるし、目指している騎士の姿があるだろう。……けどな、目の前で、手に届く範囲で救いを求めてる人間がいても、そいつを見て見ぬ振りをするのだけは、して欲しくない。それだけが、俺の思いだ」


 終始微笑みながら、穏やかな口調で私に語りかける様子に、嘘は見られなかった。


「肝に銘じます」

「そう言ってくれて有難いよ。けどな、自分の分はわきまえろよ? 自分一人じゃ解決できないなら、すぐに周りの奴に相談しろ。お前が無理して死ぬのが最悪の事態、なんだからな」


 先の言葉は受け入れるが、この言葉には疑問がわいた。


「けど、国の為に命を懸けろと、研修時上官に教わったのですが」

「お前には命を懸ける権利が無いってことだ」

「どういうことですか?」

「権利は、義務を果たした上で生じるものだ。命を懸けるってのもまた権利なんだよ。その上で果たすべき義務ってのは、命を懸ける価値がある程一人前になるってことだ。お前はまだ半人前。強くなるまではお前には生かされる義務がある。オーケー?」

「……なるほど」


 意外と色々考えてるんですね、とは言えなかった。

 私よりも遥かに深く騎士とは何か、考えていたからだ。その姿に、少なからず畏敬の念を抱いてしまった。


「それに、お前が望むように、王国騎士に復帰できるような実績を積む機会もある。普段はこんなんばっかだけどな」

「え、あるんですか!? 何をするんですか!?」

「それはその時になったら話す」

「ここまできてはぐらかすんですか!?」

「それも義務と権利の関係だ。まだお前に知る権利はない」

「……義務はなんですか」

「パトロールを無事終わらせること」


 これは多分パトロールが終わっても教えてもらえないパターンだろうな、と、私はため息混じりに確信した。

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