森の中の追跡
お久しぶりです。
ネタが降りてこないわリアル側が忙しいわで書けずじまい、最後にはこの小説の存在自体忘却しておりました。
いつの間にPV6000弱…だと…!?
ということで、サクッと書き上げました。
中身軽めなんで、サクッとスナック感覚で読んでください。
ーーーーーー
「スイッチ!」
「『ラッシュ』!」
《プギィイイ!!》
血に染まった長剣が『ユニの森』のレアモンスター、《プギギルグ》の横っ腹に叩きつけられる。
痛みに叫んだ巨猪は、その巨体を揺らし敵を捉えようとして…
「こっちを向け!」
《グゥゥ…!》
構えた盾にメイスを強く叩きつけた騎士に意識を持っていかれた。
「やった!」
「『挑発』のワードはこれで決まりね!」
彼らは『B&R』を最近始めたニュービー達であり、そしてゲームの攻略やレべリングに重点を置かず、ゲーム内の世界観を楽しむ事を主としたパーティであった。
パーティ名を、『サン・スーシィ』という。
フランス語で「お気楽」「呑気」という言葉を付けるあたり、エンジョイプレイを是とする彼らの意思が垣間見えるものであった。
「『タウントストライク』、しっかしレアモンなだけあってかったいなぁコイツ!」
「『ブリーズヒール』、まあ掲示板とかでは小ボス扱いだったし、こんなもんじゃね?」
しかしスキル回しのセンスや戦闘中に雑談などの要素から、別ゲームとはいえある程度戦い慣れた歴戦の勇士達である事は想像に難くない。
そんな大きな伸び代が垣間見えるようなパーティであった。
閑話休題。
「『スラッシュ』…なあ、なんか飛んでないか?」
「『ブリーズバレット』、カラス?キツネを捕まえてるし、クエストNPCかな」
彼らの頭上、ちょうどプギギルグの上をキツネを捕まえて輸送中のカラスが通り過ぎていく。
彼らの視界に入る、つまりゲーム画面に映るという事はNPC、しかも戦闘フィールドに現れている点からなんらかのクエストNPC達であると思われた。
「『タウントストライク』、不意に発生するタイプのクエストだったら説明文が表示されそうだし、別の人がやってるクエストかね?」
「『スラッシュ』、なるほど…なら下手に手を出すべきではないかな」
パーティ内で話し合った結果、カラスが通り抜けるのをスルーしてプギギルグに攻撃を続ける『サン・スーシィ』達。
彼らは数秒後、とても重要な出会いを果たす事になる。
ーーーーーー
古今東西色んなゲームがあるが、その中でも「森」というフィールドの位置付けは現実と程遠いモノが多い。
例えば、以前からある「迷宮」を題材にしたシリーズのゲームなどは、木々の密集地点を壁として迷宮が形作られる事が多く、一部ギミックを除き現実のように壁を構成する木と木の間をすり抜けて通る事が出来なくなっていた。
しかし『B&R』に関しては一部を除いてそういう縛りは無く、大きなエリアがいくつも連なり、その中に大量の木々(ちゃんと間をすり抜けて通れる)やNPC狩人達の狩猟罠などの外部要因系トラップや倒木、落とし穴などの自然とできることのあるタイプのトラップ(一度人がかかっても時間経過でランダムな場所に生まれる)が発生、そんなエリアがいくつも連なってダンジョン…というより、中規模のフィールドとなっているのである…とよく見るwikiに書いてあった。
後、『ユニの森』に於けるボス部屋はパーティ単位で入れて他の人々は『別の次元にある同じボス部屋』に入るというインスタンスエリア方式になっているらしい。
もちろん通れないフィールドの壁のようなものもあるが、ゲーム内の「暗黙の了解」のようなものだとプレイヤーは認識し、誰もそれに抗議をしなかったようだ。
なぜ今俺がこんな事を考えているのか?
それは…
「ふんぬうううぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「キャウ、キュー!」
ミクを攫ったカラスを追いかけるのに、木の様な壁が無くてホントに良かったと思ってるからだ。
さっきからずっとミクとカラスを追いかけて疾走しているが、ゲームっぽい空間の壁にぶち当たることも無く走り続けられているからな。
なんかもう自分の状況が特異すぎて、結局自分がゲームやってんだか異世界で戦ってんだか分かんなくなってきたが、そんな事はこの際どうでもいい。
とりあえず今はミクを救う事を最優先で考えろ!
「うぉっと、ゴメンよー!」
《ギャッ!?》
ちょうど進路上にいたコレクトアントを避け、更に駆けていく。
木々やプレイヤーと思しき人影、行く手を阻む大きな岩を避け、草むらをかき分けると、目の前に巨大な猪がいた。
「!?」
大きな体は高さが俺の頭まであり、肥えた腹でスライディングを防がれ、さらには横にも長く、全力疾走の慣性が効いた状態でコイツを避けて回り道は出来そうにない。
俺が巨猪に横っから体当たりを敢行している状況だ。
慌てて走る速度を緩めるが、慣性が俺を猪に突っ込ませようとしてくる。
横に避けて進む訳にもいかない、なら…
『は〜、運動部とかすげぇわー』
『だなー、オレたちインドア派だからあんなに早く走れねぇよ』
『アレも絶対無理だろ、高棒跳び!』
『それを言うなら棒高跳びだ』
『あーそうだっけ?』
分の悪い賭けだが、上しかない!
とっさに腰から魔法師の杖を抜き、下手くそな棒高跳びの真似をするみたく、杖の端を掴んだまま前転するように無理やり体を持ち上げた。
ギリギリだけど猪の体を飛び越せそうな高度まで体が持ち上がった!
「やっ…」
た、と言いかけたところで背中から巨猪の背中の天辺にあるデカイイボにストライク。
《ピギャアアァァァッ!?》
『《プギギルグ》の弱点を攻撃、スタンを付与しました』
『《プギギルグ》の鑑定結果に弱点部位の表記を更新しました』
巨猪が悲鳴をあげ、同時に戦闘ログが入って来た。
するってぇとこれは…アレだ。
「らかしたぁーーー!?」
MMORPGに於ける迷惑行為の内、わりかしメジャーな横殴り行為。
この『B&R』に於いては横殴りによる戦利品・Exp横取りが出来る仕様ではないが、MMOプレイヤーは普通横殴りを良く思わないものだ。
すぐに巨猪の背中から滑り降り、目の前で構えていたパーティに向き直る。
「ほんっとスンマセンっした!」
「あっ、いやいや」
「見た感じカラス追いかけてるみたいだったしねー」
「いやホント邪魔してすんません!自分すぐ離脱しますんで!」
巨猪が大きく仰け反っている間に謝罪を済ませ、話の間にも1人黙々と『挑発』でヘイト稼ぎをしている騎士さんの稼ぎ性能を信じて離脱する。
幸いちゃんと彼にヘイトが戻っていたらしく、俺は追いかけられずにそのままカラスを追う事ができた。
待ってろよミク!
ーーーーーー
「なんか嵐の様に離脱していったな」
「さ、はよ豚を倒そうぜ」
「『ブリーズヒール』『ブリーズヒール』」
「助かった!はよ戻って来い!」
ユースケが離脱したため、完全にヘイトが元に戻ったプギギルグを改めて倒しにかかる『サン・スーシィ』のメンバー達。
他のメンバーがユースケに気を取られてる間にもずっとヘイトを稼ぎながら戦っていたタンク職の男に加勢し、しばらく後になんとかプギギルグを倒す事が出来た。
「なんとか倒せたかー」
「豚さんの素材も手に入ったな」
「ヤツの弱点も今さっきの人のおかげで見つけたしねー」
「どんどん戦闘して色々試してみたいな!」
戦闘のリザルト画面を見ながらダベるお気楽さん達。
この出会いが後に彼らにもたらすモノがどれだけ大きな事か、彼らはまだ知る由もない。
「しかし、あのプレイヤーの行動はどうコマンドしたらできるんだろうな?」
「さあ…また今度実験してみるか。どうしても分からなかったら、次会った時に聞いてみるという手もあるしな」
ーーーーーー
今回出てきた『サン・スーシィ』が検証していたモノに関してはまた今度話に出します。
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