ゲーマー増加計画、そしてうっかりさん

 


「よお、ちょっといいか?」


「んあ?」


  マリカさんに料理製作のお願いをされた次の日。

  母さんの弁当を食べながらマリカさんに用意する料理を考えていると、唐突に澤村が声をかけてきた。


「なんだ突然、どした?」


「お前のゲーム好きを見込んで頼みがある、ゲームの助言が欲しいんだ」


「よし、ならどんな事に助言すればいいんだ?」


  例えば、『今のシーズンで最もホットなゲームタイトルは』とか、『MMOで最も活躍できるジョブは』とかの具体的な質問なら分かりやすく且つ詳しく教えられる。

  伊達にゲーム好きをやってるわけではない。


「本郷、お前は『B&R』というゲームをプレイしているか?」


「ああやってるぜ、お前も『B&R』やるのか?」


「良かった、俺も『B&R』をやりたいがための相談なんだ!」


  話を整理し終わった澤村の話を聞くと、一回MMORPGというものを体験してみたいらしい。

  それで今シーズンで一番旬なMMORPGを調べると『B&R』に行き当たったのだそうだ。

  もちろん攻略サイトにも行ったらしいが、プレイヤーの生の声を聞くためにプレイしている可能性が高いと思われるゲーム好きの俺に話しかけてきたそうだ。


「俺としてはせっかく初めての体験だから一番面白いモノを選びたいんだ、是非プレイの感想を教えてくれ!」


「うーん、俺自身少し変わった環境下でプレイしているから一般的なレビューとは違う可能性があるが……それでもいいなら、ゲーム仲間増殖計画のために全力で応えようかな」


「ありがとう、ていうか言い方!」


  俺の軽いボケに草を生やしながら突っ込む澤村に笑いながら、俺は攻略サイト&ブログを引っ掻き回した知識で以って全力のゲームレビューを考え始めた。

  『魂だけゲームの中に入ってプレイ』という特殊なプレイ方法を現在進行形で行なっているため通常のプレイの様子が分からないというのは、同じ『B&R』ユーザーがクラス内にいて『B&R』の話題になった時に困るため、色んな攻略記事を読みあさっていたのだ。

  そのおかげで、実際にPCでプレイしていると言える程にはゲームシステムを理解している。


「まず、明確にどうこうしろという『グランドクエスト』が存在しないというところ、そして完全スキル制というところは分かるよな?」


「知ってる、その2つのおかげでやりたい事をやり放題なんだろ?」


「やり放題、というわけではないんだけど……まあ、そうだよな」


  経験値を稼ぐための『サブクエスト』やクエストとクエストが繋がって1つの物語になっている『キャンペーンクエスト』はあるが、RPGによくある魔王を倒せとか世界を救えとかの最終目標『グランドクエスト』は存在しないという事と、スキル次第で自分だけの遊び方が可能な事は公式サイトにも載っている情報だ。

  例えば、俺は選ばなかったが《付与魔法》という魔法を召喚獣や従魔に発動しまくって自分は後ろから戦闘指揮に集中という方法もある。


「俺としては、一番胸アツだったのは《生産》のシステムかな」


「あー、確かにそこでワイワイ言ってる人が多かったよな……なんでだ?」


「MMO初心者の澤村にはこのゲームが初めてだから分からないのかな、実は『B&R』の生産システムってなかなか無い細かさだぞ」


  俺自身が手を動かして生産を行なっているせいなのか生産システムの仕組みを最初に見た時もあまり魅力を感じなかったが、『B&R』の生産システムは今までのMMORPGでは真似できない程に細かい。

  生産を始めるとまず《何を作るか》を選択する。

  例えば、俺の《木工》なら杖か弓かってところだ。

  選択すると今度はデザインを決める事になる。

  最初からいくつかのデザインがシステム内に取り込まれているらしくその中から選ぶことができるが、なんと『自分でデザインする』事もできるらしい。

  別売りのPCソフトを買って来なければならないらしいが、それでも「自分だけの武器を作ってみたい!」なんて人は多く、純生産職及び『戦う職人さん』なユーザーの数はユーザー総数の4割近いという。

  さらにビックリしたのが、


「マジで自分で木材削るんだぞ!?興奮しないわけがねぇわ!」


「そ、そんなに珍しいことなのか?」


「そうだ!今までに類を見ないMMORPGの革命だぞ、生産特化のMMOですらなかなか見ないのに!」


  自分で決めたデザインが浮かび上がる木材を削るという動画が投稿されたブログを見て、これはすごいと思った。

  鍛治職人プレイヤーの動画でも、インゴットを炉に放り込んだ瞬間に時間が計られ始めており、最適の時間で取り出してマウスで持った金槌でデザインに近づくように叩いて伸ばしていく動画が撮影されて動画サイトにあげられていて、2日で一気に20万回も再生されていた。

  それくらい『B&R』の生産システムは作り込んであるのだ。


「それに召喚獣がカワイイし!」


「唐突に話が変わった!?てかお前召喚魔法を覚えたのか、なんか人気無かったぞ?」


「召喚獣や従魔は普通の戦闘だけでなく参加したクエストの報酬経験値もプレイヤーと半分こになるんだ、そりゃ自分のレベル優先の攻略組には人気無いよな」


「なるほどなー」


  こうして昼休みが終わるまで澤村に『B&R』のマーケティングを続けた結果、澤村も『B&R』を始める事になり、いつかゲーム内で会う事を約束して俺の『ゲーマー増加マーケティング』は終了した。







「さてと、お料理タイムですよー!」


「クァーウ!」


  いつもの様に帰宅して洗濯物を取り込み素振りを済ませて、今日は久しぶりに台所に立った。

  マリカさんに渡すための料理を作るため、食材を見て献立を決めなければならないからだ。

  今回提示されたラディカを始めとした食材の他に、昨日『ユニの森』で採取してきた食材も全部皿に分けて取り出してある。

  少し齧ったりとか色々してみたところ、全ての食材がこの世界の食材の味に酷似している事が分かった。

  順番に、オガオンは巨大ニンニク型の玉ねぎ、キャルベは白菜の様な形だけどキャベツ、ピューリムは紫色のピーマン、デューム麦は既に小麦粉にされて小袋に詰められていた。

  それと森で採ったアッポの実はオレンジ色のリンゴ、テルカの実は白いオレンジ、ピルルタケはネバネバが若干強かったので恐らく柄が長くて緑色のナメコだ。


  献立としては、小麦粉でパン、オガオンとラディカとキャルベとピルルタケでスープ、兎肉で丸焼きと……ピューリムと犬肉はどうしよう?


  ガチャッ


「ただいまー!」


「おっ、おかえり舞衣」


「どったの兄ちゃん、台所に立つの珍し……うげっ、何この色がハゲシイ食材たち」


  舞衣が帰ってきて台所に立つ俺に寄ってくるが、皿の上の自己主張が激しい野菜達を見て一歩引いた。

  無理もないか、この世界には存在しないような極彩色の食べ物なんて、普通食べようとは思わない。


「俺が毎日出かけてる『向こう側』の食材だよ」


「ああ……でも、こんなヤバ気な色したの本当に食べるの?止めとこうよ〜」


「大丈夫、俺は味見するけどこれは別の人が食べる物だから」


  俺の言葉に納得した舞衣は、それでも食材の調理を止める様ダダをこねる。

  どうやらこの食材たちが俺らの晩飯と勘違いしているようなので、別の人の物だと説明すると首を傾げられた。


「別の人の?それじゃあ、なんで兄ちゃんが作ってるの?」


「取引というかお願いというか、向こうで仲良くなった人に頼まれたんだ」


「なるほど、ならしょうがないね」


  頑張って、と一言エールを俺に送ってから洗濯物をたたみに向かった妹を見送って、改めて料理を考え始めた。








「あっいたいた!こんばんは、ユースケ君」


「こんばんはマリカさん、挨拶はリアルに合わせる事にしたんですね」


「うん、その…ごめんなさい!」


  待ち合わせの時間に『B&R』にログインし、いつもの様にミクを召喚して待ち合わせ場所の『アステリア教会』前で待っていると、教会の中からマリカさんが数人の男女を引き連れて出て来る。

  パーティメンバーかな?と思っていたら、なんか頭下げられた。

 なして?


「えと、なんのこっちゃ分からんので、とりあえず頭を上げて下さい」


「うん…ゴメンねユースケ君、実は今日の予定を忘れててダブルブッキング起こしちゃったんだ」


  あーなるほど、そういう事か。

  たまーにやらかしちゃうの、分かります。


「そりゃこの場合先約の方が大事ですよ!俺はこれから自分の杖を作らなきゃいけなくなったのもありますし、約束はまた後日でいいんでブツだけ持って行きなされ」


「そう?…だけど完全に私が悪い訳だし、せめてお古のアクセサリと良い狩場の情報だけでも渡させて!また今度、それとは別にレベル上げの手伝いするから!」


「…分かりました、ならDEF方向のを1つお願いします」


「ありがとうぅ…」


「話がついたようだから話題を変えるぞー、ずっとこんな感じでもたまらんからな」


  謝罪を受け入れた俺にマリカさんが泣きながら頭を下げて少しの沈黙の後、彼女が連れてきた男性アバターのプレイヤーが流れをぶった切ってきた。

  ショートソードとバックラー、普通の剣士っぽい。


「あ、君らを紹介するの忘れてた…ごめんねー」


「いやいや、あなたが『ダブルブッキングしちゃったから謝りに行く』って飛び出していったから追いかけて来たんですからね?忘れられても困りますよ」


「それに、マリカの言う『命の恩人』君にも興味が沸いていたからねー」


  気まずそうに頭をかくマリカさんに魔法職っぽい小さめな男の子がプンプンして、その隣にいるカイトシールドを背負った騎士っぽい女性がこちらを覗き込んでくる。


「こんにちは、ユースケといいます」


「ホントに狐を連れてる……召喚魔法や従魔って効率悪くないの?」


「いつも自分に合わせてプレイしてくれる動物型プレイヤーアバターだと思えばいいんじゃないですか?俺もこの子を大切な仲間だと思ってます」


  騎士っぽい女性の質問に、ミクを招き寄せながら答えた。

  トコトコと足下に来たミクの頬っぺたをしゃがんでムニムニするとすごい勢いで尻尾をブンブン振り始める。

  まあ俺の場合ちょっと特殊だけど、サモナーやテイマーをやっている人は皆そんな感じじゃないのかな。

  写真になっているだけでも可愛い動物は俺たちに癒しを与えてくれるのだから、自分の指示の通りに動いてくれて撫でると可愛い仕草を見せる召喚獣や従魔達はもうたまらない。

  普通のプレイヤーが『撫でる』コマンドを使った時も、画面いっぱいに召喚獣達が出てきてマウスで撫でると可愛いリアクションを取ると召喚師さんのブログに書いてあった。

  サモナーの大半は動物好きなんだろうなぁ。


「あっと、自分の事を何にも喋ってなかったわね!私はリザ、スキル構成はタンク寄りにして盾役やってるわ」


「僕は衝天、光魔法使いって感じかな?よろしく!」


「俺はラグナ、アタッカーをやってるぜ!あ、フレンド登録しとくか?」


「おお、よろしくお願いします!」


「彼らは皆、前のゲームからの仲だし人の良さも分かってるから連れて来たんだ」


  どうやら前からの付き合いだったらしい事をマリカさんに聞きながら、タンクのリザさん、魔法職の衝天さん、アタッカーのラグナさんとフレンド登録しあう。

  よっし、この調子でバンバンフレンド増やすぞ!

  友達100人できるかな。


「では改めて、約束の品をどうぞ」


「…うん、受け取りました!ごめんなさい、それとありがとう、また今度ね!」


「はい、また今度!」

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