森からの帰還、そしてお願い



「よし、戻ってこれたな」


『ユニの森』探索を終了し『緑風の草原』を小走りで町に帰ってきた俺たちは、門を入って『アルテシア教会』の壁に寄りかかって座った。

 森探索の成果としては、


《薬草》×6


《魔力草》×4


《蟻の脚》×3


《噛付蟻の大顎》×1


《蟻の甲殻》×1


《蟻の蜜袋》×2


《アッポの実》×4


《テルカの実》×1


《ピルルタケ》×3


《オークの枝》×2


《トラップリーフ》×6



 採取蟻を倒したら、蜜袋と一緒に果物とピルルタケも手に入った。

 多分蟻の腹の中にあったモノだと思うので、まだ現物は取り出していない。

 もう1匹バイト蟻を倒したら、甲殻が手に入った。そっちのバイト蟻の近くには採取蟻はいなかったけど、経験値がもらえたのでそれはいいや。

 それと、《木工》スキルを育てるために太めの木の枝を拾い集めた。

 以前アーカイブ《初めての生産》で《トレント木材》をもらったけど、そっちは《木工》を少し成長させないと加工できないようだ。

 取り出して鑑定してみたら「まだ加工できません」って言われちゃった。

《トラップリーフ》ってのは、ハエトリグサの葉っぱが空を飛んでいるような《フライトラップ》っていうモンスターを火魔法を使わずに倒したら手に入った。

 火魔法使ったら楽に勝てたけど素材を落とさなかったのは、多分素材ごと燃えたんだろうな。

 他のまだ見ぬモンスターとも戦ってみたかったし『ユニの森』の最奥にいるボスモンスターの顔も拝んでみたかったけど、採取に時間をかけすぎたようで時間があまり残っていない。

 早速、やろうと思っていた杖作りを始めよう。

 新しく覚えた呪文の説明を見てみるのは部屋でもできるけど、木を削るのは木片が部屋に散らばると片付けが大変だからなぁ。


「刃物を使って危ないから、ミクはちょっと離れててね」


魔物の素材の売却金と消化したクエストの報酬で買った《初級木工セット》と《オークの枝》を取り出しながら注意したらスッと2、3歩下がったミク、マジ賢い。

《初級木工セット》の中身は、ノコギリと彫刻刀とヤスリだった。

 最初はどうしてもいい杖なんてできないだろうし、彫刻刀の扱いに慣れるためにいっぱい削ってみるかな。



 〜5分経過〜



「うん、だいぶ思い出したぞ」


『《失敗した木材》

 加工に失敗した木材。

 削ったあとがなんだか不思議な模様に見えるけど、特に何もない普通のゴミ。』


《オークの枝》を1つ潰し終わった。

 そして彫刻刀で色んな削り方を試したので彫刻刀の扱い方をなんとなく思い出してきた。

 俺は元々器用な方らしく、中学校の技術の授業で感性のままに教材の木板を削りまくったら先生に褒められた事があった。

 その頃に得たカンを思い出すために木材を消費したのだ。

 もうすっかりあの頃を思い出して、木材加工はスイスイである。

 無論、素人のガキンチョが頑張ったから褒められたのであってそんなにすごい物でも無かったのだということは分かっている。

 だからこそ、これから頑張って木工の技術を上げていけばいい。


「明日、学校帰りに彫刻の本でも買ってみるかな」


 そう呟きながら《失敗した木材》をアイテムボックスに入れ、もう一度オークの枝を取り出そうとしたところで突然フレンド画面が出てきた。

 フレンドチャットがかかってきたのだ。

 今俺のフレンドはマリカさんしかいないので、このチャットはマリカさんが相手だ。


『こんばんは、繋がるってことはログインしてるんだね!今大丈夫?』


 フレンド画面の上に更に画面が展開され、チャットが流れた。

 時間の余裕の有無を聞いてくるということは、昨日の『お礼』の用意ができたということかな?

 まあそうでなくても、彼女は始めてのフレンドだ。

《木工》は後でもできる、今はフレンドと仲良くなってピンチの時に助けてもらえる可能性を上げよう。


『ええ、いいですよ』


 それに打算的な考えでフレンドになったものの、彼女が性悪だとかそういうのはなんとなく違うと思った。

 あくまでカンだから、説明のしようがないけど。

 まあ随時警戒、だんだん心を許していけばいいかな。

 とりあえず、本気で信頼できる様になるまでは『利用できる相手』だ。


「あっ、いたいた!」


「こんにちはマリカさん。いや、今夜だからこんばんは……?」


「そんな事気にしなくていいよーw」


 現在地を教えて数分、マリカさんがやってきた。

 挨拶を『B&R』の世界に合わせるべきかリアルに合わせるべきか悩む俺に笑いながら、彼女は昨日の礼をしに来たと言う。


「さあ、何がいい?レベリングを手伝うのがいいか、それともお古のアクセサリ装備をあげようか、それとも……」


「ならレベリングをお願い、できたら素晴らしかったのですが……」


 俺は、彼女の『お礼』の内容にレベリングを選ぼうとした。

 早く強くなればPKの危険もそれだけ減るし、『ユニの森』の向こうにも行ってみたいからね。

 今日帰宅してB&Rの攻略サイトを覗くと『ユニの森』のボスが初めて倒されたと書いてあった。

 ゲームサービス開始から一週間で倒してしまう所を見るとどうも廃人勢の匂いがするけど、俺もサービス開始間も無くからユーザーになった『第一陣』として相応しい位の強さは持っておきたい。

 ……なんて御託を頭の中で並べたはいいけど、実は心の奥底では『先を越されて悔しい』なんて思いも少し燻っていて、自分は負けず嫌いな所もあるんだなと今気付いた。

 けど、一つ問題点がある。


「でも本気でレベリングしたいならちょっと時間が無いんじゃない?」


「そうなんですよね……俺に役立ちそうなアクセサリをお願いします」


「うーん、また今度でいいならレベリング付き合うよ?」


 現在の時刻はリアルにして2340、いつも通り2400にはゲームを終えたかった旨を話すとある意味当たり前の返事が帰ってくる。

 B&Rライフ初日は頭が許容量を超えたため母さんとの話が終わってすぐに寝たけど、普通は12時からも少し勉強をしてから寝ているのである。

 知り合いのガテン系兄ちゃんが高校時代に遊び呆けて大学受験をダメにした話を聞いていたので、少しでも勉強して大学行きを盤石にしておきたかったのだ。

 遊びか将来かを天秤に載せるならやはり将来に傾いてしまう。

 けど彼女は日を改めてレベリングに付き合うと言ってくれた。


「いいんですか?」


「うん、お礼だし」


「ありがとうございます!」


 よしっ、レベリングの約束を取り付けた!

 最初に要求したい物を言ってから妥協案を出すと、気のいい人は断れない。

 性格の悪い手段だと自分でも思うけど、この世界は強かに生きなければいけないのだ。

 本気で何が起きるか分からないのは、リアルでもMMOでも同じ。

 ゲームってのは『現実と違う』から面白いのに変なところで現実そのものなのがなんとも言えない気分になるが、まあ今はそれはそれ、これはこれ。


「それではまた明日、よろしくお願いします」


「了解!それじゃあもう1つ、今度はお願いだよ」


 明日、俺がいつもログインする時間の15分後に『アステリア教会』前で待ち合わせる事にしてレベリングの前合わせは終了。

 ホッとした所で今度は取引を持ちかけてきた。

 彼女がメニュー画面を操作すると、俺のアイテムボックス画面とトレード画面が開いた。

 トレード画面を見ると、大量の食材アイテムが表示されている。


「明日までにこれで出来るだけ高品質の料理を多く作って欲しいんだ、全部適正価格で買い取るよ」


「なるほど、そういう事ですか」


 料理アイテムの作成を依頼された。

 食材として提示されたのは、オガオンという食材が3個、ラディカ8個、キャルベとかいう食材が4個、ピューリムとかいう食材が5個、スライムスターチが6個、デュール麦という食材が24個、兎肉が13個、犬肉が4個。

 それぞれの食材アイテムは後で詳細を見るとして、俺にも提案があった。


「いえ、やっぱりタダでいいです」


「え?いやいや、それはさすがにダメだよー」


 俺としては、《料理》スキルもレベリングできるわけだしこの世界の食材の味を知るいい機会でもある。

 もし味付け的に失敗したとしてもマリカさんではなく『マリカさんのアバター』がアイテムを食べるため、文句を言われる事はないのだ。

 心ゆくまで実験させてもらおう。

 まあ、ラディカの例からしてそんなにリアルの食材とかけ離れた味だとは思わないから、そんな実験とか言うほどでもないと思うけど。

 あと、祝・初フレンド的なノリで初回サービスである。

 もちろん俺はそちらを本職にするつもりは無いし、ずっとタダを続けたら本職の料理人さん達の商売が上がったりだ。

 次回以降、同じ依頼を受けたら適正価格に何割か上乗せした値段を条件にして、しっかり本職に仕事が回るようにするつもりだ。


「まあそういう事なんで、今回はタダです」


「んー、まあいっか!じゃあそういう事でよろしくー」


 マリカさんに話せる所だけ説明すると、なんだかサクッと了承してもらえた。

 ていうか、この人今ちゃんと考えたのか?

 めっちゃテキトーな返事だったが、もしかして今までもこんな感じで俺と会話してたり?

 なんかそこまで警戒することも無い気がしてきたぞ……。


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