拾ってください、そして世界観


「じゃあなー」

「お疲れー」

「あっ、バイバーイ!」


 ゲームの中でのフレンドができた次の日。

 俺は学校から全速力で走って帰っていた。

 ほんとは自転車を使いたかったのだけれど、どこを探しても自転車の鍵が見つからなかったんだ。

 さらに俺はヤンキーのカツアゲを恐れて元々財布を学校に持って行かない主義だったのでバスにも乗れず、仕方なく走って帰っているわけである。

 とはいえゲームの影響で体力が強化され、簡単には息が上がらないためバンバン走り続けられる。

 それに、


「あ、裏道見ーっけたっと」


 何回も通っている道でも、歩いてゆっくり通り抜けると小さな発見がいっぱいあるものだ。

 こういうのがあるから、時々歩いて帰るのも悪くないなと思ってしまう。


「入ってみようっと」


 見つけた小道に入って、道なりに歩いてみる。

 どこに続いているのかとワクワクしていると、見慣れない通りと小さな空き地があった。

 見た感じ、人通りも少ない。


「ミクと遊ぶにはいいかもしれんな……ん?」


 草ぼうぼうな空き地を眺めていると、目の端に何かが引っかかった。

 そちらを見ると、『拾ってください』と書かれた段ボールがポツンと置いてある。


「これまたテンプレな……」


 段ボールに近づいてみると、段ボールの中に収まっている小さな猫2~3匹がこちらに気付いてミーミー鳴いた。

 大方エサ代が惜しくて捨てられたのだろう。

 可哀想に……。


「そうだな、犬肉でもやるか」


 周りに人がいないのを確認し、メニュー画面を呼び出してアイテムボックスから《犬肉》を取り出した。

 これなら、昨日の野犬乱獲で大量にあるからな。

 続いて、《初級料理セット》を取り出してまな板で小さく切り、少しずつ子猫たちに与える。


「おっ、食べた」


 もう赤ん坊時代は抜け出しているようで、よく噛んで食べている。

 皿を取り出して肉を入れ地面へ置き、段ボールから猫たちを抱え出して皿の前に降ろすと3匹とも皿を囲んで首を突っ込んだ。

 その隙にスープ皿を取り出して中に『ティアドロップ』で水を入れ、肉の皿の横に置くと今度は水を必死に飲み始める。

 よほどひもじい思いをしたんだなぁ。


「犬肉でいいなら、時々食わせてやるぞ?」


 背中を撫でてやると、体毛に汚れが浮いているのかゴワゴワした手触りだった。





 ーーーーーー





「さて、今日は犬とかいっぱい倒しながら森へ行ってみようと思うんだ」

「クゥ?」


 今日も今日とてB&Rにログイン、召喚魔法でミクを呼び出して今日やる事を話している。

 昨日までは草原を歩き回って野犬とか狩りまくってたけど、もう森とかのモンスターも見てみたい。

 けど、その前に2つくらいレベルアップしておかないとマージン的に不安だ。

 というわけで、


「まず町の中の掲示板を利用してサブクエストを受けよう、そんでもっていくつかクリアすればレベルアップもするだろうから、それから森へ向かうとしようね」

「クゥー!」


 俺の提案にミクが満足そうに跳ねたので、早速町の掲示板に向かっていく。

 メニューから呼び出したマップを見ながら進むと、噴水広場のような大きなスペースに教会のようなでっかい建物があった。

 中から時々プレイヤーらしき人たちが出てくる。

 マップには『アルテシア教会』と表記されていた。


「中に報酬のいいクエストでもあるのかな?」


 ミクに掲示板はいいの?という目を向けられたけど、後で見にいく事にしてそちらに入ってみる事にした。


「おお……」


 中はよくある教会に似て、キレイに整列されたベンチと1番前に説法者用の机、その後ろに杖を持った女神像が置かれていた。

 まわりの窓のステンドグラスや壁には色んな絵が描かれていて、何かの物語を表しているように見える。

 プレイヤー達は教会の2階に上がり降りしていた。

 説法台の前には爺ちゃんが1人立っているけど、降りてくるプレイヤー達は彼のことを気にせずに外へ出ていく。

 取り敢えず情報収集のために、俺は目の前の爺ちゃんに話しかける事にした。


「こんにちは、お爺さん」

「おや、こんにちは冒険者の方。何かご用ですかな?」


 話しかけるとこちらを向いて人の良さそうな笑みを浮かべる爺ちゃん。

 まわりのプレイヤーが無視するから暇だった……とかだったりして。


「この2階には何があるんですか?皆お爺さんを気にせずにバンバン出て行って行ってしまうので……」

「ああ、それならおそらく転移陣とニーナちゃんじゃろ、あの子は可愛いからのぉ」

「転移陣?ニーナ?」


 爺ちゃんによると、この教会の2階には『転移陣』という魔法陣が存在するらしい。神代の時代に生み出された物で、自分の血を魔法陣に登録するとその魔法陣から別の登録した魔法陣へと瞬間移動できるとのこと。

 なんか、某ゲームのル◯ラとか某小説の転移門を思い出したぞ。

 あと、新米シスターのニーナという子がたいそうドジっ娘でよく皿洗いやら何やら失敗しまくるのだそうで、今は2階で書物整理を頑張っているそうだ。

 それを手伝うだけならプレイヤーとしてつまらないクエストになりそうなものだが、次の話を聞いて納得いった。

 どうやら、ニーナちゃんは時々良い掘り出し物を拾ってくる事があるそうだ。

 今現在新しい町が見つかったという話は攻略wikiにも運営アナウンスにも無いので、転移陣目当てという事はないだろう。

 多分、プレイヤー達はその『掘り出し物』を狙ってるな。


「それでは、ここはどんな宗教を信仰している教会なのでしょうか?」

「うむ、ここは『アルテシア教』を信仰する教会じゃ」


 簡単に話してくれたのを聞くと、創世神アルテシアさんと配下の天使、そして彼女達に祝福された英雄達を信仰する教会だそうな。

 英雄の例を挙げてくれたが、どれもリアルの伝説や伝承に出てくる人たちだった。

 やり遂げた偉業もそっくり!


「残念ながらこの周辺には英雄たちの伝説は残っておらんが、世界の各地にはいっぱいそういった伝承が残る場所があるんじゃ!ワシも行ってみたいのぉ」

「この教会の仕事で行けないんですね?」

「そうなんじゃ、ワシができるのは彼らについて書かれた文献を読み漁って思い馳せるだけ、それはそれで楽しいがもどかしいのぉ……」


 爺ちゃんがションボリしてしおしおになってる。

 お仕事大変ですね……。

 よし!


「俺は冒険者です!世界各地を旅して冒険するのが仕事ですので、もしかしたら英雄の軌跡に触れる事があるかも知れません」

「そうじゃの、ワシも冒険者になれば良かった……」

「あーいやいや、お爺さんは頑張ってアルテシア教会の運営を頑張ってください。俺、時々ここにお世話になるでしょうけど……そういったものに触れた時もここに帰ってきて土産話をいたしますよ」

「なに!?そうか、それは素晴らしい!」


 新しい町を見つけてそちらの転移陣に自分を登録すると、こちらの町との行き来が楽なため自然とこの教会に出入りするようになると思う。

 その時のついでにでも、この世界を冒険して得た英雄たちの情報を爺ちゃんに話してあげようと思ったのだ。

 爺ちゃんも大喜びである。


「なら、君に今のうちにお礼しておこうかの」

「おっ、ありがとうございます!」


『テルジオ神父に英雄の軌跡を話す約束をした!

 前お礼としてLV3HPポーション×4、LV3MPポーション×4をもらった!』


 結果、ポーションの入った瓶を前お礼にもらってしまった。

 良い事して得した気分。


「あ、そういえばお爺さん」

「なんじゃ?」

「その英雄たちの中に、『異世界からやって来た人』っていました?」

「ああ、それなら幾人かおったぞ?確かその方達は特に大きな偉業を為したとされていたはずじゃ」

「そうですか……またお話、聞かせてもらえますか?」

「もちろんじゃとも!」


 ふと気になって爺ちゃん改め神父のお爺ちゃんに質問してみると、俺と同じ境遇の人が昔いたそうだ。

 しかし、この世界は『そういう設定で回っているだけ』で、実際はついこの間できたはずではないのか?

 ていうかそもそも、俺がかなり自由度の高い話を繰り広げている時点でこのゲームは軽く現代のAIの及ぶ域を超えている。

 単にスタッフの方に異世界召喚or転生のロマンが分かる人がいたのか、あるいはこの世界が本当に異世界で、俺たちはそうと知らずに走り回ってるだけだったりして……そんな訳ないと断言できないのが怖いぞ。


「それでは、ちょくちょく寄りますね!」

「英雄の件、よろしく頼むぞい!」


 神父の爺ちゃんに礼をして、俺は教会を出た。

 ニーナって子も気になるけど、それはまたレベルを上げて森へ行ってからにしよう。

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