初めてのフレンド


 PKにやられるも気を取り直して生産タイム、《料理》スキルで漢の料理を作り上げた。

 しかし、いざ実食だとナイフ&フォークを料理セットの中に探していると突然女性アバターのプレイヤーさんが話しかけてきた……だと……!?

  落ち着け俺、できるだけ爽やかに対応するんだ!

 俺はこっちでも……いや、こちらだからこそ友達を作りまくるんだ!

 プレイヤー間のパイプはしっかり持っておくべき物、オンラインゲームではどんなトラブルが起きるか分からないから助けを求められる人を多く作っておくべし!


「こんにちは、ユースケといいます。どうしました?」


「私はマリカ、突然話しかけてごめんね?あなたが《料理》をしているのを見かけたから話しかけたの」


 金髪をセミロングに伸ばした褐色肌の美人アバターが申し訳なさそうに喋ると同時に吹き出しを出す。

 昨日も見たけど、吹き出しはチャット機能を表してるのかな?

 喋るのはシステムが俺に合わせてくれた仕様なんだろうけど。


「その食料アイテム譲ってもらえないかな?」


「……食料アイテムはNPC露店で買えると聞きましたよ?」


「うん、それなんだけどね?」


 彼女が言うには、新しい装備を買うためにフィールドを駆けずり回り、今さっきギリギリほぼ全ての所持金で購入できたけど食料アイテムも持ち合わせが無くなったのだそうだ。

 俺は覗いてなかったから分からなかったけど、NPC露店の食料アイテムは高めに値段が設定されており、犬3匹分くらい金が足りないという。

 しかも現在空腹度が80を切っており、もうMAXHP減少効果が始まっているそうだ。

 このゲームは当然ながら空腹度も渇水度もゲーム再開後まで保持される仕様のため、外に出て帰ってきたら元に戻っていたなんてことも無い。

 もうすぐ次のレベルに到達する所なのでExpを半分損失する死に回復も使いたくない、どうしよう…というところで俺が《料理》をしているのを見つけたらしい。


「お礼は今度するからその食料アイテムを譲って、お願い!」


「……どうする、ミク?」


 ミクと料理を半分こしようとしていた俺としてはミクの同意を得ないわけにはいかない。

 というわけでミクに声をかけると、彼女は俺の手にある肉とマリカさんを見比べ始めた。

 肉なら残ってるし、俺の初料理記念のこの丸焼きは食べてしまってマリカさんには別の料理を作ってあげることもできる……要は全てミク次第だ。


「コミュニケーションの取れない筈の召喚獣に話しかける……そういうロールプレイなのかな?」


「え?あっはいそうなんですよ~アハハハハ……」


 マリカさんにそう言われてポカンとしてしまったけど、思えば『B&R』のシステム上には確かに召喚獣や従魔と言語的なコミュニケーションを取る手段は無かった。

 咄嗟にマリカさんの推測に乗っかりながら誤魔化したけど、今の俺は心臓バックバクだ。

 俺が今この身に受けている『ゲームの中への移送』というイレギュラー……とりあえず『ゲームの世界』は俺を受け入れてくれているようだけど、周りのプレイヤー達が知ったらただ事では済まされないだろう。

 なんせネットゲーマー達は嫉妬深い。

 下手こいてこの状況の一端がバレたりでもしたら、プレイヤー一同大パニックだ。

 自分ももしかしたらゲームの世界に入れたりするのか、いや入れないじゃないか、なんでアイツだけ…そんな感じに雰囲気が悪くなる事は確実。

 できるだけ普通のプレイヤーとして接するんだ。

 今の俺はロールプレイヤー、戦闘オブジェクトに話しかける痛いヤツ!


「クゥー!」


「ん?そっか、これをあげるのか」


 必死に自己暗示をかけているとミクがマリカさんの足下にテクテク歩いて行って、肉球で彼女の足首をテシテシ叩き頭を擦り付けた。

 どうやらこの丸焼きをあげることにしたようだ。


「初めて作った料理ですのでクオリティに問題があると思いますが、それでよかったらどうぞ」


「ありがとう、それじゃあいただきます!」


 礼を言ってくるマリカさんにアイテムトレードで丸焼きを送ると、すぐに『使用』せずにメニュー画面を出して少しの間固まった。

 どうしたのか不安になったけど、すぐに丸焼きを取り出してナイフとフォークで食べ始めたところをみると、皆メニュー画面を開いて選択しているときは固まっているのだろうか?

 彼女もすぐに動き出したので、俺も俺で気を取り直して自分達の肉を焼き始めることにした。


「だいぶ空腹が減った……ありがとう、助かったよ!」


「いえいえ、困ったときはお互い様でしょう」


「それにしても変わってるね、『漢の料理』なんて説明文初めて見たよ。珍しかったから思わずスクショ撮っちゃった!しかもこの空腹減少度、これでウサギ肉ひとつとかコスパ良すぎない!?」


 モリモリと食べ終わるなり礼を含めたマシンガントークを浴びせてくるマリカさんに肉をくるくる回しながら返事する。

 あとでお礼もいただけるわけだし自分としては十分だ。

 さっき固まってたのはスクショを撮ったからなのかな。


「本当にありがとうね、私はこれからちょっとリアルに用事あるからフレンド登録しようよ!」


「なるほどフレンドメールで連絡ですか、いいですよ」


 今度またお礼をしてもらうということで、都合を合わせるのにいいしフレンド登録することになった。

 やった!友達ができた!


「それじゃ、またねー!」


「はい、また今度ー!」


 別れの言葉を言ってすぐにログアウトするマリカさん、まるで嵐のような人だったなぁ。


「よし、できた!ミクおいでー」


 胡座をかいた俺の膝の上に乗ってきたミクにナイフで半分に切った丸焼きを皿の上に置いてあげると勢いよく食べ始めた。

 俺もまな板の上にもう半分を置いて、さらに半分に切って口に運ぶ。


「うん、悪くないな」


「クァー♪」


 それから、少し忘れていたミクのレベルアップを確認。

 自動割り振りボーナスは素早さに振られていたので、俺は力に振る。

 パーティメンバーが少ないからかミクはアグレッシブな行動が多いから、どうせならその方向で攻撃を強化しようと思ったんだ。


 名前:ミク

 LV:2

 種族:子狐

 性別:♀


 HP:73(+3)

 MP:18(+2)

 STR:6(+1)

 VIT:6

 INT:7

 MND:6

 AGI:9(+1)

 DEX:5

 LUK:6


 親愛度12/100


《スキル》

《火魔法LV1》《幻魔法LV1》《噛みつきLV2》《爪LV1》《回避LV1》《野生の勘LV1》


 ほら、《噛みつき》がレベルアップしてるし。

 親密度も上がってるし、ミクの成長は上々だ。


「よし、今日はこんな感じにしとくか」


 こうして俺たちの2日目のゲームは終了した。

 明日からは森にも入ってみたいな。









「ん……よし、帰ってきたな」


 メニュー画面からログアウトボタンをタッチ、次に気がつくと自分の部屋に戻っている。

 お馴染みの光景だ。


「お帰り、兄ちゃん」

「ああただい……まぁっ!?」


 投げかけられたお帰りの言葉に反射的に返して、ようやく舞衣が隣にいる事に気付く。

 お兄ちゃん心臓止まるかと思ったよ……。

 彼女曰く、俺のゲームプレイの様子を見にきたとの事。


「なんかパソコンの前でうつ伏せになってるから寝落ちしたのかなって思ったんだけど、よく見たらゲームのアバターが動いてるからビックリしたよ」

「そうなのか?」


 なるほど、舞衣の話によると俺は体を置いていっているらしい。

 だけど俺はゲームの中にいる……魂だけ抜けてる感じかな?


「あと、兄ちゃんがログアウトした瞬間にうつ伏せになってた体がピィンッてなったからそれもビックリした」


 俺がログアウトした瞬間、うつ伏せになっていた体が座ったまま気をつけをするように直立したのだそうだ。

 そのあとは普通に脱力して座っている感じになって、そして『俺』が戻ってきたらしい。


「そっかありがとう、ちょっと分かったよ」

「え、なにが?」

「不思議に思ってた事の一つさ」


 昨日寝る直前に起きた全身痛。

 筋肉痛にしては関係無いところまで痛くなっていた事が不思議だったのだけれど、魂が体から乖離してゲームの世界に入っていたのだとしたら、こじつけでも説明がつく。

 つまり、ゲーム内で発生した『レベルアップ』。

 ゲームの中に於いて俺のアバターがレベルが上がったので、その魂が帰ってきた時にレベルアップ前の俺の身体という『魂の器』が狭かった。

 そこで、俺が横になってリラックスし休む時間に少しずつ魂の位階に合うように『器』の方を大きくしたと考えれば、少しこじつけとはいえ納得がいく。


「ありがとうな」


 少し疑問に思っていた事がスッキリしたので、感謝の心でもって頭を撫でた。

 最近はもう子供じゃないと言わんばかりに恥ずかしがって逃げ出してしまうからあまり喜ばないのかと思ってあまりしていなかったのだが、昔からこれをやると喜んでいたのでつい習慣でやってしまった。


「えっ、あっそのっ……それじゃっ!!」


 ほら、顔真っ赤にして逃げ出した。

 舞衣は元々可愛い。

 家族ってとこは抜きにして、クラスにいたらラッキーと呟く位には可愛いと思う。

 だから、恥ずかしがって真っ赤になってる顔とか余計に可愛く見えて目の保養です。

 言っておくが、俺はシスコンではない。

 昔っから家族として接してきている以上、異性としてなぞ見れないからな。

 まあ、今日も今日とて自慢の妹だ。


「なー、ミク」

「クー?」


 なあに、と言うように首をかしげるミクをモフりながら、今宵の夜も更けていくのだった。




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