二度目のログイン、そして……!?


「……さて、着いたか」


 あの後、晩飯から明日の宿題まで済ませた俺は早々にパソコンで『B&R』のアイコンを開き、ログインした。

 ああそうとも、「この世界にログイン」したんだ。


「異世界転移し放題とかどこのネット小説だっての」


 よりにもよって、こんな平々凡々な俺がなぜこの事態に巻き込まれたのか?

 俺なんか見てても別になんとも面白くないと思うぞー、神よ。


「……返事くれる訳がないか」


 苦笑しながらアイテムボックスから見習いの杖を取り出し、召喚魔法を詠唱する。

 もちろん、向こう側からミクを呼ぶためだ。


「『契約の履行を求む、この声に従うならば応えよ』!」


 昨日と同じように地面に魔法陣のエフェクトが描かれ、中からミクが飛び出して来た。

 尻尾をブンブン振るミクを撫で、部屋で話した通りにレベリングのために草原へ向かった。

 早くレベルとスキルを上げて安全マージンを取りたい。

 この世界が俺にとってデスゲームである可能性を未だに否定できてない以上、少しずつでも死なないための力をつけていっておきたいのだ。

 え?まずそんな危険な場所にログインしなければいいだろうって?

 なにをバカな事を、こんな貴重な体験どうせなら楽しまなきゃ!

 VR技術が進んでいるとはいえ、体を自分で動かして遊べるVRMMOのような超技術はまだ夢のまた夢。

 そんな中本当に『ゲームの世界』に入り込むような奇蹟、これを幸いと遊びまわらなくて何がゲーマーか!!



「せいやっ!!!」


 ブォンッ


《ギャンッ!?》


 パァンッ


 ……まあ、そんな事を考えながら延々と犬の群を殴り殺し続け、今最後の犬が光と散っていったところである。

 戦果はミクが4匹、俺が3匹。

 やっぱり、ミク強いなぁ。


『《オーナレスドッグ》を7匹倒した!


 42Exp獲得!

 28tm獲得!


《ミク》が42Exp獲得!


 ドロップアイテム《犬の牙》×4・《犬の皮》×2・《犬肉》×5を獲得!


《ミク》のLVが2になりました!

 自動割り振りステータスポイントを1入手!

 ステータスポイントを1入手!

 メニュー画面よりステータスポイントを振り分けてください。』


 おっ、ミクがレベルアップした!

 けど前科もあるしメニュー画面に集中するのはまずい。

 ステ振りは町に帰ってからだな。


「もう少しレベリングしてから町に帰って生産もやってみような」


「キューン!」


 今度はちょっと《鑑定》も使ってモンスターのプロフィールも見てみたい。

 という事でミクの快諾も得たしもう少し戦闘してみよう。


「ミク、ラビムーの居場所分かるか?」


 ミクにターゲットの居場所を聞いてみたら、辺りの臭いをフンフン嗅いで歩き出した。

 多分、《野生の勘》スキルだろう。

 ミクさん有能過ぎィ!

 大人しくミクが歩いていく方向について行くと、次のレベル帯で挑む最初のダンジョン『ユニの森』の少し前でラビムー獲物が草を食んでいるのを見つけた。


「よしよし、すごいぞミク~」


「……♪」


 獲物が目の前にいる手前、声を殺して褒めて撫でるとミクが尻尾を振る。

 その場で少し待っているように指示を出し、ラビムーが見えるように立ち上がると《鑑定》を使用した。


『ラビムー


《緑風の草原》に生息する、小さなツノが生えたウサギ。

 基本的に攻撃からは逃げ回るが、一度攻撃を与えられると怒って体当たりを仕掛けてくる。

 ウサギなだけあり脚力は十分強く、ツノが地味に突き刺さるのもあって普通に痛い。』


 なるほど、角があるのか。

 ミクが倒したのからはドロップしなかったけど、もしかしたら確率で出なかっただけかもしれない。

 とりあえず、遠距離から攻撃っていったらこれだろ!


「『質は水、形は弾丸に、撃ち抜け』!」


 毎度お馴染み『ティアバレット』を左手にためこみ、ちょうど草を食べ終わったのか後ろ足で顔を掻いているラビムーにぶち当てた。


《キュー!?》


 撃ち所が良かったのか、ラビムーが若干吹っ飛んだ。

 ラビムーの頭上に表示されたHPバーが2割減っている辺り、意外とHPは少ないのかもしれないな。

 起き上がったラビムーはこっちを見ると《フシュ~……》と怒った様子でこちらに身構えている。


「やべっ、杖杖……ぐおはっ!?」


 慌てて杖を背中から取ろうとして視線を逸らしたら、その一瞬で距離を詰められて体当たりされた!?

 一瞬よろけたが持ちこたえ、首根っこを捕まえて前方に全力投球して距離を取った。

 ちらっとHPを見ると5分ほど減っている。

 犬の特攻ほどじゃないがアイツの脚力すんげぇな!?

 ラビムーにツッコミを入れたところで、以前のクラスメイトとの何気ない会話を思い出した。




「よっし、単語テスト勝ちぃ!」


「くっそぉ、これ羊だろ!なんで間違えてる事になってるのさ!?」


「何言ってんだよ、それだと『車が柱に羊した』って文になるだろうが。確かにその意味もあるが、動詞としては『体当たりする』って意味だ」


「あーそうだったか!よし、ラム肉は体当たりラム肉は体当たりラム肉は体当たり……」


「肉は要らねえよ、ramで体当たりする・激しくぶつかるだ覚えとけ」




「……っ!?」


 そっか、ラビムーって『ラビット』と『ラム』を混ぜてるのか!

 ようやく分かったよ、分かりにくいなぁ!

 今度キャラクターデザイン担当の人に会うことがあったら、絶対ネーミングセンスの改善を求めよう。


「ミク、幻魔法を!」


「クゥッ!……キャーーッ!!」


 こっちに走り寄ってくるミクに幻魔法での足止めを指示しラビムーに向かって走り出そうとしたらミクが一瞬女性の叫び声かと思うほど高い声で鳴いたからビックリしたが、こっちを向いて威嚇してたラビムーが急にオロオロし始めたのを見てしっかり幻魔法をかけてくれたんだと分かった。

 もちろん、今できた絶好のチャンスを逃す訳にはいかない!


「せやあっ!!」


 バキャッッ!!!


急所攻撃クリティカル!!』


 駆け寄りざまに上段の構えでためた渾身の一撃をラビムーに振り下ろすとちょうど首にヒット、その瞬間ラビムーの残りHPが半分以上削れた。

 HPバーの上に『クリティカル』と出たから、首が弱点なのかな?

 もう一回杖を振り下ろすと、首は避けられたがラビムーの体に思いっきりでかいダメージエフェクトが刻み込まれた。


「ミク!」


「キャウッ!」


 俺が杖でラビムーの体を押さえつけ、ジタバタしているラビムーにミクが噛み付いてフィニッシュ。

 いやー、お疲れ様でした。


『《ラビムー》を倒した!


 5Exp獲得!

 2tm獲得!


《ミク》が5Exp獲得!


 ドロップアイテム《兎の肉》・《兎の角》を獲得!


《水魔法》のレベルが2になりました!』


 いやー、怒らせると強いんだなぁラビムー。

 体当たりがこんなに強力だとは思ってなかった。

 前回ラビムーの恐ろしさを知らずに済んじゃったのも今回ダメージを受けながら倒せたのも、ほんとミク様々である。


「よしよしよしありがとうな~」


「クァ~~♪」


 思いっきりミクを褒めながら撫で回すとめちゃくちゃすり寄ってさらに甘えてきた。

 だけどここはモンスターが出る場所だし、油断は禁物だ。

 水魔法の話もあるけど、とりあえず町に戻ってから続きだな。


「よし、町に戻」




 スパパァンッ!!!!!





「るぉっ!!?」


 モフモフタイムを止め、いざ町に戻ろうと立ち上がった瞬間に後頭部とうなじに強い衝撃と激しい命中音。

 一体何が起きた!?

 吹き飛ばされながらパニックになる俺の目の前に今さっき俺が出した『急所攻撃クリティカル!!』の表示が一気に2回重ねて表示され、HPバーが結構な速度でゴリゴリ減っていき、


 HPバーが尽きて、


 目の前に『貴方は死にました』と表示され、


 目の前で『蘇生可能リミット』なるカウントダウンが終了し、


 そしてパニックを通り越して思考停止した俺は、頭の中が真っ白のまま死んだ。

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