次の朝


 色々あった次の日。


「……おはよう母さん」


「おはよう悠輔!ミクちゃんもおはよう!」


「クァー」


「なんか2人ともテンション低いわね〜、どったの?」


 起床してリビングに行くと、母さんは俺と俺の横を歩くミクに声をかけながらフライパンをジャコジャコ揺らした。

 朝飯を作っているようだ。


「昨日の夜、なんか全身が痛くてさ……」


「あんまり寝れてないの?昨日のゲーム云々が原因かもねぇ」


 昨日ベッドの中に入り(なんかミクも入ってきたが気にしない事にした)意識を手放す直前、突然全身痛が長時間続いたため中々眠れなかったのだ。

 確かに変わった事と言えばゲーム関係だけど、やっぱり動きすぎて筋肉痛になったのかな?

 それにしては、運動に関係ない頭とか『急所』とかも痛かったんだけど……。

 そんな事を考えている内に朝飯が出され、いただきますと手を合わせた所で気がついた。


「あー、そういえばミクにも飯が必要だっけか?」


「クゥ?」


 昨日ミクのステータス見た時、満腹度と渇水度がなかった気がするんだけど。

 そんなボンヤリした事を呟くと足下のミクがちょうだいちょうだいとでも言うかのように俺の足にタシタシ肉球パンチしてきた。

 よしよし、やってみようか。


「んーでも、狐用のエサってどうすればいいのかなぁ」


「そうねぇ……じゃあ、とりあえずこれでいいかな?」


「アァ~♪」


 俺の疑問に母さんが首を傾げながら豚肉の切り落としを数枚生で持ってくると、ミクが甘えた声を出した。


「ほらミクちゃん、お座りねー」


 母さんが言うと、即座に“お座り”に移行して朝ご飯を待ち望むミク。

 彼女がミクをしばらく待たせてから肉を差し出すと、喜んで肉を咀嚼し始めた。

 この子、完全に母さんに懐いてるな……。


「おはよーってあれ?その狐、どうしたの?てか母さん触って大丈夫?」


「あ、おはよう」


「おはよう舞衣、見てこの子!一緒にいても触ってもクシャミ出ないのよ!」


 ミクにデレデレな母さんを見ながら朝ご飯を食べてると妹の舞衣がリビングにきた。

 舞衣は中3で、今高校受験に向けて勉強中なのだが……実際のところ、俺の部屋の隣である自分の部屋でゴロンゴロンしてるだけだ。

 こいつはゲームに関しては賛成よりの中立。

 俺がやってるゲームは面白そうだとやり始める事が多い。

 昔から俺にベッタリだったから、行動原理にその名残があるのだろうか?


「へー、そんな面白そうな事が起きるなら私もそのゲームしてみよっかなー?」


「ダメよ、舞衣は受験勉強!」


「……はぁーい」


 軽く事情を説明するとミクを撫でている舞衣がゲームに興味を示したが、母さんに咎められて不服そうに返事を返した。


「ごちそうさま、ちょっと遅れ気味だし行ってくる!」


「「行ってらっしゃーい」」


 朝飯を食べ終わった俺は台所に皿を持っていき母さんが作ってくれた弁当を引っ掴んで駆け足で玄関へ向かう。

 若干時間押してるから巻きで行かないと!

 するとミクも俺について来ようとしてるのかこっちにトコトコ走って来た。


「ミクは留守番をお願いね」


「ワン!ワンワン!」


 俺の一言に怒ったのか激しく吠えるミク。

 まあ分からんでもないけどさ…


「頼むよ留守番しててくれ、下手に目立ってヤンキーバカ共に目をつけられたくないんだ」


「キュウ……」


「帰って来たら一緒に遊ぼうよ、今夜もやる事終わったら『B&R』に入るつもりだしね」


「……クゥ♪」


 連れていけない理由を言い聞かせるとピンと立っていた耳と尻尾がヘタってして悲しそうだったが、一緒に遊ぶ約束をすると少し元気になった。

 今ほどウチのバカ校に入った事を後悔した時はないぜ……。

 もっとも、ウチみたいなバカ校でなくてもミクは門前払いされてただろうけどね。

 そういえば『送還』という手もあるけど…喚び出したままで継続してMPが削れるわけでもないし、どうせだから家にいてもらおう。

 母さんが遊んでくれるだろうし、そうなると当の母さんも満足できるし。


「じゃあ、行ってくるね」


「クゥ!」


 ミクを撫でて玄関を出ると、ドアが閉まる直前にミクが『行ってらっしゃい』とでも言うかのように……いや、多分言ってたんだな。

 あの子は賢いからなぁ。

 さて、いよいよ時間も押してるし走ろう!

 信号とかに引っかからないといいな。







 ガラッ


「うっし間に合ったー」


「おっ、おはよー」


「どうした、今日ギリギリだったじゃん」


「おはよー、寝坊ではないんだがなぁ……」


 教室に入った俺にクラスメイト達が話しかけてくる。

 インドアで人見知りでも、普通に友達はできるもんだな。

 普通に授業開始に間に合いはしたが……随分とハイペースで自転車こぎ続けたはずなのにインドアな俺の息が上がってない。

 やたらと持久力が上がってるなぁ、ステータスの影響か?

 よし、目の前にいる運動部のクラスメイトのステータスを見てみよう。

 この世界の基準はどんなもんだろな?

 さあ、《鑑定》!




 名前:寺脇康平


 LV1


 HP:50

 MP:10

 STR:8

 VIT:8

 INT:7

 MND:5

 AGI:10

 DEX:9

 LUK:5

 空腹度:37/100

 渇水度:28/100


《スキル》

《跳躍LV1》

 1/10


 SP:15




 これは……俺、レベルを上げまくったら最終的に『バケモノ』になる気がするぞ。

 シッカリと自重しないと見える未来は身の破滅だ。

 なにかの実験台にされるか?

『力』を求める誰かさん達に拷問でもされるか?

 それとも他の人達からバケモノ扱いされて社会的な死亡を遂げるか……。


「なんにしても、頑張って自重しようかねぇ」


「なんか言ったか?」


「いーや、なんにも言ってねぇよ?」


 自重の内容は後でゆっくり考えるとして、俺は自分の席に向かった。


 ガラッ


「はいはーい、始めるよー」


 先生が教室に入って来て、今までとは少し違う日常が始まった。

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