リアルに戻ってこれた……ってなんで!?
「……やっぱり帰ってこれたか」
『B&R』の世界にしばらく入っていたため時間が心配になった俺は、メニュー画面のログアウトボタンを押してこちらの世界に戻ってきた。
パソコンの前でヘタっている体を起こしていつも通りの自分の部屋、日常の光景を見て安心した俺は手早く明日の学校の用意をしてベッドに飛び込む。
「色々と起きる事が濃ゆすぎて疲れた…」
仰向けに姿勢を直して、俺は今さっき起きた出来事を思い出してみた。
ゲームの世界に入りこみ、町を歩いて、戦闘をこなし、生産活動もした。
ミクを撫でたモフモフの感触も、棒で犬を殴った時の生々しい感触も、ガラスみたいなポーションの瓶の冷たい手触りも全部覚えてる。
町の噴水の飛沫を少し浴びた時のヒヤッとした感覚も、草原で散歩した時の心地よいそよ風も……。
あの不味いポーションの味も。
それにしても不味いポーションだったなぁ。
明日にでも全部ポーションを作り直そう。
「腕を擦ったらメニュー画面が出て来たよなぁ」
そう、こんな風に手首をシュッと……
チリリン
「うぉあっ!?」
『B&R』の中でやったみたいに手首を人差し指と中指でスライドしたら今さっきまで『B&R』の中で当たり前のように操作していたメニュー画面が手首の中からせり出して来た!?
ユースケ
LV2
HP:102
MP:53
STR:10
VIT:10
INT:11
MND:10
AGI:11
DEX:10
LUK:10
hng:36/100
tirs:31/100
《スキル》
《召喚魔法LV1》《調教LV1》《杖術LV1》《水魔法LV1》《魔力回復速度上昇LV1》《革鎧装備LV1》《鑑定LV1》《調合LV1》《料理LV1》
9/10
SP:2
287tm
……ちゃんと俺のステータスだ、今さっきログアウトの時にちらっと見た通り。
なんでこっちで見られるんだ!?
俺の体が向こうのシステムを持ち帰っちまった、とかなのかな。
つまり、『コレ』もできちゃうのか?
「『質は水、形を弾丸に、撃ちぬけ』……マジかよ」
厨二病臭くて頭に残っていた文言を呟くと、魔法陣のエフェクトと共にスッとどこからか水が集まって来て弾丸の形になる。
……魔法が使えてしまった。
試しに壁に当ててみると、バコンッと軽く壁ドンしたような音が出る。
幸い傷はついてないようだがヤバい、コレいろんな意味で迂闊には使えないな。
「……んじゃあ、まさかこっちも使えたり?『契約の履行を求む。この声に従うならば応えよ』」
俺が続いて唱えるとベッドの上に魔法陣が描かれ、中から見覚えのあるシルエットが飛び出して来た。
「キュウ!」
「おおう……もう何も言えんわ」
膝の上で丸くなったミクを撫でながら、俺は考えることをやめた。
もういいや、モフモフしよう。
「よーしよしよし」
「アァ~」
コンコン
「悠輔、なんかあったの?バコンッて聞こえたんだけどー」
「ファッ!?いや、なんも無いよ!参考書が床に落ちただけ!」
不意に母さんが部屋に来た!
今さっきの魔法壁ドンがいけなかったらしい。
とりあえずミクの存在は勘付かれてはいけない、母さんは動物の毛にアレルギーがあるのになぜか無闇矢鱈と触りたがるんだ!
あ、キツネってイヌ科なんだぜ?
それより送還、召喚獣の送還ってどうやるんだっけ!?
「やっぱり怪しい、なんか慌ててるよね?入るよ!」
「えっ!?ちょっ待っ」
ガチャッ
「……どこで拾ったの、そのキツネ」
「あー、えっとその……」
間 に 合 わ な か っ た
~10分後~
「なるほどねぇ……」
「すいませんでした」
はい、現在進行形で土下座中です。
俺のベッドの上で正座をする母さんの目の前で、同じくベッドの上でこちらを不思議そうに見つめるミクに癒されながら床で土下座して事の発端から説明しております。
母さん……本郷紀子は父さんがゲーム好きな反動なのかゲーム反対派である。
ゲームはダメ、ゲームを買うならそのお金で別の物を買いなさい、ゲームは目が悪くなるからやめて、だいたいね……とこのように、ゲーム反対派の母さんにゲームの話は怒らせた上に別の話題でもグチグチ言い始めて無駄に時間をとらされるために厳禁だったのだが…今回はなんだか事情が違うみたい。
「ふぅーん?」
「クゥ?」
なんか母さん、ミクの方を興味深そうに見つめているのだ。
かといって以前みたいにキャーキャー言いながら触りに行く事もない。
ミクも不思議そうに母さんを見ている。
「ねぇ悠輔、この子の毛抜けないの?」
「へ?」
「鼻がムズムズしないのよ、まだだけど」
母さんに言われて気づいた、確かにミクの毛が抜けた様子がない。
普通、動物って常時少しずつ体毛を交換しているものだ。
ちょうど人間の皮膚が少しずつ入れ替わって風呂で垢として削り落とされるのと同じ。
だけどミクにはそれがない。
召喚獣だからかな?
「とりあえず様子見る?」
「それがいいかもね」
そこからしばらく俺と母さんはミクを部屋においたままアイテムボックスを調べてみたり机の上で調合をやってみたりしてみたけど、母さんのアレルギー反応(激しいクシャミ)は起こらなかった。
「私にもっとモフモフを!」
「はあ……」
今度はベッドに母さんが座り、学習机の椅子に俺と膝に丸くなったミクという構図で言い渡された第一声がこれだ。
要は、もっとモフモフした召喚獣を増やして母さんの欲求を満たすならゲームも吝かではないとの事。
ゲームが許されたのは嬉しいが…
「召喚魔法のレベルが一定数上がるまで仲間は増やせないし、モフモフばかりだと戦力増強にも限りがあるから別モノも召喚獣にするよ?」
「んー……なら、『優先』でいいわ!優先的にモフモフを増やしてちょうだい!」
「なら努力はするよ、別にモフモフでなくとも可愛らしいのはいっぱいいそうだけどね」
「よし、交渉締結ね!」
まあそういうわけで、母さんにもゲームが許されたし時間を決めて進めていこう。
ゲームをやってなくても棒術を鍛えるくらいはできるだろうし、日課に加えるかな。
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