始めての生産


 始まりの町にたどり着いた俺とミクは、メニューにあるマップ画面を見ながら商店へ向かっていた。

 そこらのプレイヤー達から「火魔法使いですー、パーティ入れてくださいなー」とか「おまwそれアカンてww」「いやーやらかしたわ~w」など、金髪のイケメンや渋いオッサンや派手な格好のお姉さん達が声に出すと同時にチャットらしき吹き出しが頭の上に飛び出してる。

 それを見ると、やはりここはゲームの中なんだなぁ……と改めて思わされた。


「おっ、あった」


 マップにも記載されているNPCショップは、大きめの商店だった。

 中に入ると、綺麗なお姉さんがカウンターの向こうに立っている。

 因みに、メニューにあった方のショップは有料ガチャショップだった。

 ああいうのを始めると、人は闇に呑まれる。

 体験しかけた身からすると、あそこには入らない方が身のためだ。

 止めておこう、うん。

 気を取り直して、俺はお姉さんに話しかけた。


「すいません、アイテムを売りたいのですが」


《はい、売りたいものを提示してください》


 ニコッと笑うお姉さんの前に、トレードモードになったアイテムメニューが開いた。

 俺は名前からしてそのまんまな《犬の牙》を2つと《犬肉》を選択してトレードにかける。

《スライム水》とか、魔法生物だった時の名残とかありそうでなんかに使えないかなーと思ったのだ。

 スターチなんて完全に料理に使えるだろうし。


《なるほど、それでしたらこれでどうでしょう》


「ありがとうございます、あと何を売っているか見せてくれませんか?」


 お姉さんが提示してきた値段は合計で26ティム、牙1つ10ティムで肉が6ティムだそうだ。

 肥料にでも使うのかね?

 売り物を見せてもらうと、



 道具


 素材


 武器


 防具



 となっている。

 杖を見たいと思いながらも、今欲しい物を目当てに道具欄へと移った。

 アイテムのラインナップはこうだ。


 LV1~10HPポーション

 回復量は5%~27.5%、2.5%ずつ上がっていく。

 クールタイムは一律1分。

 値段はなんと、LV1から100ティム、さらにLV2で300、LV3で1000とウナギのぼりだ。

 あと、名前の横に《ランク2》と書かれている。


 LV1~10MPポーション

 回復量と値段はHPポーションと変らない。

 同じく《ランク2》らしい。

 このランクってなんだ?


 スコップ・ツルハシ・ムシ取り網・手斧

 これは…生産系統の素材収集アイテムらしい。

 一律50ティム、安めだと思ったら消耗品だそうだ。

 ツルハシや手斧はともかく、穴掘ったり虫採って何をするんだろう?

 ……ああなるほど、多分虫は《調合》だ。

 某狩りゲーでも虫を薬に使ってるしこのゲームの中でもそうなのかも。

 これにも《ランク2》と書かれている。

 これは後で調べるべきだな。


 初級鍛冶・調理・調合・錬金・木工・石工…セット

 どれも一律250ティム。

 これがないと生産行為ができない。

 これにはランクがない様だ。

 中級・上級のバージョンは値段を見て一気にテンションが下がった。

 それにしても……生産系スキル多すぎだろう!


 迷ったけど、調理と調合と錬金、生産セット3つまとめ買い。

 アイテム収集もすべきだろうけど、先に高い物を買っておく主義なので。

 後で安い物を集めた方が早い気がしない?

 ……気のせいかな。

 一気にスッカラカンになったが、これで色々と試せる。

 実は、帰ってくるついでにこんな物を見つけてきてたりする。


『《薬草》

 HP30秒毎に1回復、3分持続

 クールタイム5分

 食べると生命力が若干活性化し、かすり傷程度ならなんとか塞ぐ。

 ただし苦味がひどく、加工しないと口にできた物ではない。』


 偶然鑑定で見つけた薬草を5本、帰り際の道端で見つけて採取してきたのだ。

 どっかで見た事があるような、小さな白い花が咲いた草である。

 問題は試験管みたいな入れ物、あれが無いとどうしようも無い。

 ……そうだ、これでいこう!


「さて、初ポーションいただきます!」


「ンキュ?」


 これ……というのはつまり、アチーブでもらっていたポーションを飲んで試験管を使い回しするという事だ。

 いや、使いまわせるのか?…という懸念もある。

 実際、MMOのポーションなんてのは使うと入れ物も残らないもんだ。

 けど、この世界のシステムがどういうわけか俺にある程度合わせてくれているので、恐らく大丈夫だ……と思おう、うん。

 無くなったら無くなったで目の前のお姉さんから素材として瓶を買えるかもしれないし。

 ついでに犬の特攻で減っている体力も少し回復できるし、一挙両得……っ!?


「うごっ……ごはっ!?」


「キャンッ!?」


 なんだこれ!?ほんとにポーションか!?

 体温くらいにあったかいドロドロとした、酸味と苦味がひどい方向にマッチした光る液体。

 完全に劇物だろ字面からして!

 てか光ってなかったら味的に吐◯物だこれ!

 俺仕様に変わった途端にこれかよ…。

 てか、これで1分なら薬草単体はどんだけ不味いんだよ。

 これは改良必須、若しくはぶっかけ専用だな。

 これを平然と飲んでいるプレイヤー達は、アバターの苦悩を知らないんだろうなぁ…。


「ああごめんミク、吹き出したポーションがかかっちゃったね」


「キュウ……」


 思わず吹き出したポーションが体にかかってしまったミクは、若干不満そうにブルブルと体を揺すってポーションの水分を飛ばす。

 謝りながら撫でると、若干不満げな雰囲気を収めてくれた。

 自分もとりあえず口に含んだ事で少しはHPが回復したみたいだ。


「……おっ、やっぱり残ったか」


 システムがやはり俺仕様に変えてくれたのかそれとも元々こういう仕様なのか、試験管っぽい瓶が手に残っていた。



『《薬瓶》

 ポーションなどを詰める瓶

 硝子砂を錬金して作る

 ガラスなので脆く、割れやすいので注意

 ランク1』



 薬瓶、というのか……。

 硝子砂って何処で採れるんだろう?

 そこもログアウト後に調べないとな。

 とりあえず、今は移動して生産だ!


「ありがとうございましたー!」


 声をかけてくる店員のお姉さんに軽く会釈しながら店を出て、プレイヤー達が集まる中央広場から離れた隅っこの路地に向かい、座る。

 今日はとりあえず、レベル上昇分のステータスポイントを割り振ってからポーションを1個だけ製作してログアウトしよう。


「えっとまずは……」


 メニュー画面からのステータス画面を呼び出すと、


『自動割り振りステータスポイントを1入手、ランダムに割り振りました』


 というアナウンスウィンドウが出た。



 ユースケ


 LV2


 ステータスポイント+1

 SP+1

 ステータス画面にて操作を行ってください


 HP:96/102(+2)

 MP:37/53(+3)

 STR:10

 VIT:10

 INT:11(+1)

 MND:10

 AGI:10

 DEX:10

 LUK:10

 hng:36/100

 tirs:31/100


《スキル》

 SP:2


《召喚魔法LV1》《調教LV1》《杖術LV1》《水魔法LV1》《魔力回復速度上昇LV1》《革鎧装備LV1》《鑑定LV1》《調合LV1》《料理LV1》


 9/10



 とりあえずウィンドウを消してステータス画面を見るとこのようになっている。

 なるほど、知能に1振られたか。

 呪文の効果が上がる……遠距離チートの第一歩だね。

 なら俺は素早さに1振ろう。

 どんな敵の攻撃も、回避できれば問題無いからな。


「さて、つぎつぎっと…」


 床に座り込み今さっき買ったばかりの初級調合キットを取り出す俺をミクは興味深そうにじっと見つめてくる。

 可愛かったので胡座をかいた上にミクをのせて、動きにくいがそのまま続ける事にした。


「まずは薬草をすり潰すっ……と」


 すり鉢にちぎって入れた薬草を、すりこぎですり潰していく。

 確か生物の実験で同じ事をやった時、水を入れたほうがよく潰せた気がしたので水魔法を使う。


「『質は水、其は我が手に集らん事を』」


《水魔法LV1》で覚えた非攻撃魔法『ティアドロップ』を発動、毎回指示される詠唱の厨二臭さにも慣れてきた。

 一旦手を止めて右手を空けると、魔法陣エフェクトの後に掌から少し上に少量の水が集まって球状にかたまっていく。

 掌を返して水の小さなかたまりを落とし、薬草を潰す作業を再開した。


「こんなもんか?さて、次は……」


 大きな繊維とかは残ったが、全体的にはすり潰せた薬草を調合セットに付属していた濾紙で濾し、漏斗で少しずつ鍋に入れていく。


「ミク、ここに火をつけてくれないか?」


「キュッ……キャンッ!」


 ボッ


「ありがとうな」


「クゥーン♪」


 マッチが勿体無いのでミクに火魔法でアルコールランプに火をつけてもらい、三脚の網に載っけた小さな鍋に火を当てた。

 ここまで出てきた物は薬草とミク以外全部調合セットに付属していた物だ。

 調合セットすげぇ。


「少しずつかき混ぜながら煮詰めて……この灰汁っぽいのはどうするんだろう?」


 煮詰めていくにつれて溜まっていく白い灰汁のような泡、しかし本当にこれがなんなのかは分からないので《鑑定》してみた。



『《薬草の灰汁》

 この中にも一応薬効成分は含まれているが、やはり灰汁は灰汁。

 残すと味に調合中の反応による酸味とドロドロ感が追加され、なんとも言えぬマズイ液体になる。

 それでもちゃんと薬として機能する不思議。』



 うん、これは絶対最後のひと絞りまで取り除こう。

 てか、今さっきのポーション灰汁を取り除いてなかったのか!?

 悪質だろうどう考えても!

 いいさ、全部俺が作って移し換えるから!

 あ、ミクは悪いけど灰汁取りに集中したいので膝を下りてね。


「クゥン……」


 残念そうなミクの頭を撫でて、俺は灰汁取り作業に集中し始めた。



 ~5分経過~



「もうできた、早いなぁ」


 薬草がいい感じに煮詰まってきたため火を止めて鍋の中を薬瓶に移し、コルクの蓋を閉めたところでポップアップメニューが出現した。

 ここまで僅か5分、さすがゲームの中は時間の流れが早い。


『《LV1クイックHPポーション》

 HP3%回復

 クールタイム30秒

 適切な処置を施した事で薬の再飲可能時間が大幅に減ったポーション。

 その代わり、薬効成分が若干薄くなっている。

 ランク3』


 ……なんか新しいポーション作っちゃった気がするんですけど。

 しかもランク3て、商店のよりも高いじゃん。

 灰汁を取った事で2%効果が薄くなっているけど、その代わり面白いくらいクールタイムが減っている。

 ……これは世に出さないほうがいいかもしれない。

 うん、それがいいそれがいい。

 ネットゲーマーは強欲だし嫉妬深い、ぜっったいメンドくさいことになるぞコレ。


「というわけでアイテム欄に没シュートでーす」


 ちゃらっちゃらっちゃーと自分で言いながらアイテム欄を開き、初めてのポーションを収納した。


『アチーブメント《初めての生産》を達成!

 50Expを獲得!

《薬瓶》×20獲得!

《鉄原石》×20獲得!

《トレント木材》×20獲得!

《鞣し革》×20獲得!

《調味料セット》獲得!』


 今度は料理もしたかったけど時間的に明日の学校の用意もしなきゃだし、今日はもうログアウトしなきゃ!

 調合セットその他をアイテム欄にしまいこむ。


「じゃあなミク、また明日」


「キャウ!」


 ミクの頭を撫でてメニュー画面を出しログアウトボタンを押すと、また意識が遠のき出した。

 明日もやろっと。



ーーーーーー



10/26

クイックポーションのクールタイムを訂正しました。

クイックポーション(クイックとは言ってない)になってましたね、すんませんでした。

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