初戦闘!
草原をミクと連れ立って歩く事しばしば、なんとも平和な散歩道である。
風が心地よく頬を撫で、青草がそよぎ、少し向こうではオーナレスドッグの群れを何人かの戦士…恐らくプレイヤーが殲滅し、そして俺の目の前ではスライムがプルプル威嚇してる。
……ちょっと平和ではなくなったな、うん。
「さて初戦闘だな、任せてくれよ」
「クゥー……」
残念そうなウチの子狐を背中にかばう様に前に出て、背中についている留め金を外して杖という名の八尺棒を構える。
ついでに《鑑定》もかけてみた。
『《ジェリースライム》
《緑風の草原》を始め、亜種を含めて世界各地に生息するタフな魔法生物たちの、最も基本的な種。神代の時代に匹敵するほど古く存在する種のため、各種研究などに使われる事が多い。
だが何がどうなって生き残ったのか、後に生まれた亜種たちにすら歯牙にもかけられないほど弱い。』
……可哀想すぎるっ!?
説明があまりに酷いです、《鑑定》さん!
けど、これも俺が強くなるため!
可哀想だけど、スライム君には散ってもらう!
「ふんっ!」
足払いをかける様にスライムの大きさに合わせて横に薙ぎはらうと、スライムはピョンッと跳んで棒を避けた。
《キュイィッ!》
いや、跳んだだけでなくそのまま前進して間合いを詰めようとしてくる。
プルップルの体が体当たりとか、『ベシャッ』と音が鳴って服に不快感が残る未来しか見えない。
ということで、まず片足を引いて半身を横にずらしながら棒を引いて、反対側の端を手にしたところでクリンと棒を回して刀を持つ様に持ち替え……つつそのままスライムをベチンと打ち据えた。
《ギュッ!?》
『打たば太刀 払えば長刀突かば槍 杖はかくにも 外れざりけり』
かの有名な杖術流派の教えの中に、こんな歌が記されていたという。
つまり杖というのはそれ位汎用性が高いということで……自分も咄嗟に行動してしまった訳だけど、確かに刃が無い分どこを持つこともでき、攻撃方法も自由だ。
なるほど杖ってすげぇ。
地面に落ちたスライムの頭の上にHPバーが浮いて見えており、3割くらい減ってる様に見えた。
怯んでいる隙に杖を槍に見立てて2回突き込むとなんかガリッとした感触と共に一瞬何か表示するウィンドウが出て、一気に残りHPが削れて0になった。
「初戦闘終了……いい感じだな」
パァンッと破裂する様に光になって消えるスライムを見ながら呟く。
思いの外いい感じに棒で戦えてた気がする。
目の前にリザルト画面が表示され、獲得経験値とドロップアイテムが表示された。
『《ジェリースライム》を倒した!
8Exp獲得!
1tm獲得!
ドロップアイテム《スライム水》・《スライムスターチ》・《スライムの核(破)》を獲得!
アチーブメント《冒険の始まり》を達成!
50Exp獲得!
《LV1HPポーション》×10獲得!
《LV1MPポーション》×10獲得!』
なるほど、スライム自体は8経験値か。
ドロップアイテムが気になるけど後で調べるとしよう。
「よっと……へぇ~」
アイテム欄からポーションを取り出すと、光る液体が入った試験管だった。
『《LV1HPポーション》
薬草を煮詰めて作った回復薬。
飲んでも効くし傷にぶっかけてもOKの便利薬。
HP5%回復
クールタイム5分
非戦闘時…渇水度-5
ランク1』
説明によると、ぶっかけて使っても飲んで使ってもいいみたいだ。
ただ、武器を収めている時は渇水度も回復するということは、非戦闘時には飲んでいる設定なのだろう。
運営も凝った事考えるね。
さて、次はミクの戦い方を見せてもらおう。
「次、頼むな」
声をかけると上機嫌になって何処かへ駆けていくミク。
ゆっくり追いかけていくと不意に立ち止まったので、どうしたのかと視線の先を追ってみるともしゃもしゃ草を食んでいるウサギ……ラビムーが一匹。
どうやら此方に気づいていない様子。
どうやらこの子、あの暢気なウサギに奇襲を仕掛ける様だ。
「……ッ!」
タイミングを見たのか、ミクが走り出した。
ラビムーも此方に気づいたのか、反対側へ逃げ出す。
追うミクよりも若干ラビムーが速い!
「クゥー……キャッ!」
ミクが何か鳴いたと思ったら、何か魔法陣みたいなのが出た直後に突然ラビムーが急停止した!
そのままオロオロと周りを見ているラビムーにミクが飛びかかり、首根っこに咬みついて引きずり回してフィニッシュ。
さっき見えなかった表示と思しきモノがラビムーの頭上にポップアップしたけど、そんなにポンポン出る物だと思ってなかったのでまた見逃してしまった。
お前意外とアグレッシブだったのね…。
『《ラビムー》を倒した!
5Exp獲得!
2tm獲得!
《ミク》が5Exp獲得!
ドロップアイテム《兎の肉》・《兎の皮》を獲得!
アチーブメント《見習い召喚士》を達成!
50Exp獲得!
《LV1HPポーション》×10獲得!
《LV1MPポーション》×10獲得!
LVが2になりました!
自動割り振りステータスポイントを1入手!
ステータスポイントを1入手!
SPを1入手!
メニュー画面よりステータスポイントを振り分けてください。』
おっ、レベルが上がった!
ステータスポイントが1……地味だなぁ。
SPも貰えてるからいいのか?
ゲーム内の流血描写設定は少なかったようで、綺麗なままのミクが誇らしげに戻ってきた。
抱き上げて撫で回しながらリザルト画面を覗くと、やはりスライムより兎の方が経験値がいい。
ミクに倒してもらい、サモナー特有の「経験値共有」が起きても5はもらえた。
ラビムーの経験値は10のようだな。
ステータスを見てみるとミクのMPが若干減っている。
やっぱり魔法使ったのか、効果からして恐らく幻魔法だろう。
あと、なんだか美味しそうなアイテムも追加された。
よし、ステータス割り振りのために安全な町に帰ろう。
試しに器具も買って、生産活動もやってみたいね。
「よし、一旦町に戻るぞ!」
「キュアンッ!」
《グルルル……》
《ガゥッ!》
「……あっちゃー、やっちゃった」
ミクに声をかけると既になにか警戒してるので、メニューを消して前を向くとオーナレスドッグがこちらを威嚇していた。
背後にも唸り声、恐らく二匹にはさみ打ちされている。
メニュー画面に集中しすぎて、メニュー画面の向こうに透けて見えていた光景を見ていなかったようだ。
これは失敗。
「ミク、後ろのを頼む!」
「キョンッ!」
《ガッ!》
《ガルゥアッ!!》
ミクとのパーティ戦闘が始まった。
八尺棒を構えた俺に犬が飛びかかってくる。
俺は焦って犬の攻撃斜線上に八尺棒を構え、犬に棒を噛ませる事で攻撃を防いだ。
さらにそのまま、脳天から地面に落ちるように棒を地面に叩きつける。
犬のHPバーが少し減った。
……後から考えたら、普通のゲームだと絶対こんな真似できない。
目の前の犬がフラフラしてる隙にミクの方をチラッと見ると、毛が焼け焦げた犬に噛み付いたり引っ掻いたりと容赦無しだ。
多分火魔法も使って全力で殺しにかかってる。
現に、犬のHPがもう残り6割になってるし。
よし、俺も魔法使ってみるか!
「『質は水、形を弾丸に、撃ちぬけ』!」
水魔法スキルで最初に覚えた2つの内、攻撃魔法に相当する『ティアバレット』を使用しようとした時にポップアップしてきた画面に表記された詠唱を読むと、八尺棒を離した左手に小さな魔法陣みたいなエフェクトが出て水が集まり1つの弾丸の様になった。
……この詠唱、俺だけの特別措置だったりする?
明らかに俺の思考を汲んでシステムが発動してるんだけど……。
手をだんだん態勢を持ち直してきた犬に向けると、弾丸が超速で飛んで行って体に当たり、HPバーが一気に2割削れる。
しかし犬が特攻を仕掛けてきて、左腕に噛み付かれた。
「うっ……!?」
自分のHPバーを覗くと1割程削れていて、若干吹き飛ばされた俺の左腕が噛み付かれた痛みでピリピリして、犬の体がぶつかってきた物理的な衝撃も残っていた。
今さっきまでつい忘れていた事を思い出した。
こんな状況訳分からないが、とりあえず俺はゲームの中に五感を若干弱体化された状態で飛ばされたのだろう。
恐らく満腹度渇水度システムから腹も減るし喉も渇く、痛みはある程度遮断されてるようだけど少しは感じるし……最悪死ぬ可能性だってある。
ゲームなら生き返る事も出来るだろうけど、俺の場合どうなるだろうか。
少なくとも、そこら辺が分からないことにはホイホイ先に進めないな。
慎重にマージンを取りながら進んでいくしかないか。
「でぇええっ!」
《ギャンッ!?》
腕を振り回して強く噛んだ顎を無理矢理外させて、目の前に落ちた犬を棒で下から打ち上げ、遠くに吹き飛ばして距離を作る。
悲鳴を上げながら吹き飛んだ犬は少し先に落ち、ヒクヒクし始めた。
「せりゃっ!!」
棒を振り下ろして思い切り殴りつけ、最後に『ティアバレット』を傷がついている場所辺りに撃ち込んだ所で、犬が光となって四散する。
後ろを見ると、もうミクは犬を倒していた様でゆっくりこちらを見ていた。
『《オーナレスドッグ》を二匹倒した!
12Expを獲得!
8tmを獲得!
《ミク》が12Expを獲得!
ドロップアイテム《犬の牙》×2・《犬の皮》・《犬肉》獲得!』
「ふぅ……」
「キュ?」
スライムの時には余り感じなかったが、リアルな犬を……『生き物』を殺したとなると罪悪感と嫌悪感がすごい。
少し吐き気すらする。
この分だと、人型……ゴブリンとかオークとかの時はもっとこの嫌悪感が強いのだろうか。
それでもやる事はやる、そこに迷いは無い。
ゲームだし。
いや、現実なのかもしれないけど。
なに、現実でもどんな事に巻き込まれるか分からないんだ。
殺しはしないでも、相手を痛めつけて気をそらして逃げる事ができるように今から技術を磨いておけば転ばぬ先の杖、いつか役立つかもしれない。
実際、ウチの学校は不良も多い。
身を守るすべも覚えておいて損は無いな。
ただ、命を奪う事に楽しさを覚えないようにだけは気をつけよう。
ここまで考えること0.5秒。
自分のケンカ技術向上を正当化してから、気を取り直してミクに気を向けた。
「やったな、てか俺より早かったじゃないか強いなお前~ウリウリウリ」
「クァ~……」
しゃがんで褒めながらほっぺたをモフり始めるとミクが脱力して寄りかかってくる。
よしよしよかった、パーティ戦闘も今の所問題なさそうだな。
「これから頑張ろうなー」
「キュウ!」
全力でミクをモフって、双方共に満足したところで町に向かって共に歩いて行った。
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