その8
「さて……仕事を決めたいと思うのですが」
とチエは切り出した。
チエとアイリ、そしてコウガの三人はギルドホールのロビーの一角に陣取り、会議を始めようとしていた。
ロビーの壁側には依頼内容が記された紙面が一面に張られている。ギルドメンバーはそこで依頼を見繕い、あるいは近くのデスクに座る係員に適当な依頼を紹介してもらう。それをロビーの席に持ち込んでパーティーメンバーと相談し、最終的に依頼を請け負うことを決める、というのが流れである。
「まずコウガに希望を尋ねましょうか」
「俺に?」とコウガ。「初めてのことだし、具体的にアレがしたいコレがしたいとは言えないよ」
「ざっくりとした方向性を教えて欲しいんです。つまり、ちまちました小さな仕事をこなして徐々に慣らしていくか、あるいは朝言ったように、大きな仕事をドンとやり抜いて一攫千金を狙うか」
「その二択だったら、一攫千金がいいよ。夢とおっぱいは大きい方がいい」
「おめーはなんでそんなクソ真面目な顔で下ネタを言うんだよ」
アイリが睨みつけてきたが、コウガは一切気にしない。
「昨日のクリフォト伐採の報酬について思ったんだけどね。コアクリスタルと遺留品を売却して、その利益をさらに三等分でしょ。すごい多いとは言えないよね」
「まあそういうもんだ」
「それはわかる。でも俺には、君たちに命を救ってもらった謝礼を払う義務がある。こんな調子だと、払いきるのに百年はかかりそうな気がするんだよね」
「だからでかい仕事がやりたいってか」
「そういうこと。とはいえ、大仕事となるとリスクもでかいでしょ。俺にできるのかね」
「そこなんですけどね」
ぱっと扇子を開き、チエは口元を隠した。
「コウガの力があれば、きっとやり遂げられる――そんな仕事に心当たりがあるんですよ」
す、とチエは一枚の依頼書を差し出した。長いこと壁に貼りっぱなしになっていたのか、日に焼けている。
「あっ。これ、岩塩マンの退治依頼じゃねえか」
アイリが目を丸くした。
「岩塩マン? 随分な名前だね」
「正式にはデュラハンタイプのミームなんですけど……デュラハンってご存じですよね」
チエに問われ、コウガは大きく頷いた。
「首なし騎士だろ? 自分の首を探している奴とか、最初から自分の首を抱えている奴とか、バリエーションがあるらしいけど」
「結構」チエも頷き返した。「問題のミームは、みんな岩塩マンって呼んでますけどねえ。……バルデンハイムから南東方面にサールブロという街があったんです。岩塩の生産地で大いに賑わっていたんですが、二十年程前に瘴気にやられて住民が全員退去しまして。以来たびたび討伐隊を送り込んでいるんですが、いまだに制圧できていないんですよ。岩塩坑内部にクリフォトの森ができてしまっているんです」
「坑道の中に?」
「クリフォトは水も太陽光も必要としない植物ですから、どんな場所でも元気に育つんです。おかげで坑道内はミームだらけだそうで。で、その最奥部、一番太いクリフォトを守っているガーディアンがデュラハンなんです。首のない騎士」
「その岩塩マンってのが強いのか。名前は全然しょぼそうだけど」
「強いらしいぜ」アイリが口を挟む。「本体の上に岩塩の装甲をまとってるんだってよ。だから通称岩塩マン」
「安直だなあ」
「ミームの名前なんてわかりやすくつけりゃいいんだよ。学名とかかっこいい名前とかつけてやるような上等な連中かよ。とにかく岩塩装甲が恐ろしく固くて、普通の武器じゃ太刀打ちできねえんだとさ」
「実際に戦った人がいるわけだ」
「何度も、岩塩マンを倒すために複数のパーティー連合が結成されてる。岩塩マンにたどり着くにはまずうじゃうじゃいるミームどもを倒さなきゃならねえからな」
「でも、いまだに討伐に成功したチームはありません」とチエ。「最奥部にたどり着くところまでは行くんですが、ことごとくデュラハンに返り討ちに遭っています。ごく最近には、マイアが率いる騎士団の一隊が二度アタックをかけて、二度とも惨敗しています」
「マイアが? マジかよ」
「その結果、異邦人の保護役に左遷されたんですよ。第六隊隊長という役職こそ維持していますけど、隊そのもののがほぼ解体されて、今や隊員は数える程しかいないとか」
「あらま。そりゃご愁傷様と言ったらいいのかね」
コウガは渋面を作った。
「その岩塩マンとやらがおっそろしく強いということはよくわかった。で、どこのパーティーとチームを組むのよ? アテはあるのか?」
「いえ、チームなんて組みませんよ。私たちだけでやるんです」
「えっ。三人で? それって自殺行為じゃないの」
「作戦があります。コウガのユニークスキルを当てにした作戦が」
「本当かよ。駆け出しの俺を当てにするとか、少し思い切りすぎじゃないの」
「でしたら、ちまちました仕事に切り替えてもいいですが……」
しばし思索した後、コウガは問う。
「やれるのか? 俺でも」
「百パーセントを保証することはできません。でも、勝算は十分にあると考えています」
力強く、チエは断言した。
そのきっぱりとした態度に、コウガの心は大きく傾いた。
「リスクを取っただけの報酬は得られるんだろうな」
「報酬はここに書いてあります。カーディニアの貨幣単位はエンで、物価は日本とまあまあ同じと考えていただければ」
チエは依頼書の下部を指さした。
そこには結構な額面に加え、追加報酬が記されていた。
「『岩塩坑から生み出される利益の二パーセント』……? これって?」
「採掘権を持っているサールブロ公爵がこの依頼を出しているんです。コウガ、塩の重要性ってわかってますか」
「塩がなきゃ人は生きていけないことくらいなら知ってるけど」
「実は、カーディニア王国には海がないんですよ」
「海がない……?」
「瘴気の壁のせいですよ。だから、塩を得るには岩塩を掘るしかないんです。そこかしこに小規模の生産地はありますけど、供給十分とは言いがたい状態です。しかしサールブロの塩鉱は、かつては王国全ての塩の消費をまかなって余りある生産量を誇っていたとか」
チエの言葉の意味をじっくりと考え、依頼書の報酬欄をもう一度読み、その上でコウガは決心した。
「是非やろう。塩供給を復活させることで、アリカムナードの人々の生活を安定させる。人々の笑顔のために血を流すことを、俺はこれっぽっちも恐れない」
「何建前を抜かしてんだ。本音を言えよ」
アイリが問うと、コウガはぎっとにらみ返した。
「金だよ金! 日本だろうが異世界だろうが頼れるものは金だ! というか右も左もわからない異世界だからこそ金に頼らなくちゃ! 一攫千金のチャンス、逃してたまるかよ!」
「きれい事を抜かすより、醜い本音を語ってくれる方が、私は好きですよ」
チエは扇子を畳み、コウガの頭を軽く叩いた。
「質問がある」
先を行くチエに、コウガは語りかけた。
コウガはチエとアイリに率いられ、バルデンハイムの繁華街の大通りを歩いていた。
日本の外へ出ることのなかったコウガにとって、バルデンハイムのヨーロッパ風の町並みは何もかもが新鮮に見えた。広場がそこかしこにあり、道も広く、車道と歩道が厳格に分離されていない大ざっぱな構造。赤煉瓦の建物群。広い空。日本の都市ではなかなか見られない風景だ。
あれやこれやと見ていれば、自然と疑問もわいてくる。
「まず一つ目なんだけど、バルデンハイムって水路がやたらと多いよね」
そこそこに太い水路が、街中を碁盤の目のように走っている。それ故に水路をまたぐ橋も多く、コウガたちは既に十以上の橋を渡っていた。荷物を載せた船が多数行き交うところを見ると、水運がかなり盛んらしい。
「中世都市にとって運河は貨物運搬の大動脈ですからね」
とチエが応じる。
「それはいいとして、運河だけ白い石材が使われているよね。これはなんでかな」
運河とその周辺は石材が白く、周辺の赤煉瓦とコントラストをなしている。見た目に美しくはあるが、それだけの理由だとは思えなかった。
「運河だけ、建設された時代が違うからですよ。初めてバルデンハイムに入る時、水道橋が見えましたよねえ?」
「あー、見た見た。立派な奴が通ってるなあ」
ミームに襲われたところをチエたちに保護され、バルデンハイムに向かう途中。首都を北東方面から南西方向へ貫くように建設された巨大な水道橋の偉容を、コウガは目の当たりにしていた。
街中だと諸々の建物にまぎれてその一部しか見えないが、直下まで接近すれば水道橋を支える白い柱の巨大さが実感できる。
「あれとセットで建造されたらしいんですけど」チエが説明する。「いつ頃、いかにして建築したのか? そもそも材質は何なのか、どこから持ってきたのか? まるで謎だそうです」
「そんなことあり得るのかよ」
「中世ヨーロッパのローマ水道みたいなものですよ。とにかく頑丈にできているので、今でも問題なく使われています。だから古い運河は白いままなんです。その後赤煉瓦で拡張や補修した部分もありますから、すべて白いというわけではないですけどねえ」
「ふーん。水道橋はどこから水を引いているのかな?」
「それも謎です。水道橋は瘴気の向こう側から伸びていますから。運河沿いのクリフォトは優先的に伐採されていますが、水源をつきとめるにはまだ遠いようですねえ」
「えっ。ってことは、上流で誰かがうんこやおしっこを流している可能性もあり得る……?」
その点を指摘すると、チエは苦い顔をした。
「そうなります。少なくとも動物の死骸などが落ちている可能性は否定できないでしょうねえ。飲用水は浄化施設を通していますから、神経質になる必要はないと思いますけど」
「浄化施設が高性能であることを祈りたい」
「既にこっちにきて飲み食いしているんですから、今おなかを壊していなければ大丈夫ですよ。……次の質問は?」
「次はアレ」
街の中心部に立つ巨木を、コウガは指さした。
街のどこからでも見える程に背が高く、幹は恐ろしく太い。あまりの巨大さに、自分の遠近感が狂っているのではないかと思ってしまう程だ。
幹は全体的に白っぽく、無数に伸びた枝からは緑色の葉が幾重もの層をなしている。クリフォトの見た目が本能的嫌悪感を催すのに対し、こちらは見ているだけで安らぎを覚える。
「アレはセフィロトだぜ」アイリが言った。「クリフォトと対になる、聖なる樹さ。セフィロトの葉が瘴気を吸収して浄化し、清浄な空気を世に送り出すんだと」
「なーるほど。光合成みたいなことをして俺たちを瘴気から守ってくれるのか。あれだけの巨木だから巨大な都市の人口をまかなえるのかな」
「そうよ。アリカムナードじゃ、集落の中心には必ずセフィロトが立ってる。新しい集落を作る時は、まずセフィロトの苗木を植えて、その周りにコミュニティを作るんだぜ。そうやって空気を浄化して、住める場所を広げていってるんだ」
「ってことは、セフィロトの種をゲットして育てて増やせば大もうけできる……?」
「手を出すのは控えておいた方がいいと思いますねえ」チエが言った。「貴重な品だけに、様々な事情が絡んでましてねえ」
「利権団体みたいな?」
「いつか説明しますよ。それより、ここが目的地です」
足取りを緩め、チエは左手の店を指さした。
店の看板には日本語で店名が書いてあった。
さぬきうどんの店 ラウンドタートル
「さぬきうどん……だと……!?」
コウガは目を丸くした。
思わず二度見、三度見する程の衝撃だった。
異世界の街並みに掲げられている看板としてはあまりにも異質、あまりにも予想外すぎた。
「おっ。驚いてんな」
コウガの反応を予期していたのだろう、アイリがにやりと笑う。
「アリカムナードにも小麦はある。小麦があればうどんができる。昔から日本人が来てるんだ、当たり前だろ?」
「言われてみればたしかに……。ってことは、他の粉もの食文化もあったりする?」
「お好み焼き屋も探せばあるぜ。うどんほどメジャーじゃねえけどなあ」
言いながら、アイリは横開きの扉を開け、のれんをくぐった。
「のれんが下がってるのも妙な話だな……」
首をひねりながら、コウガも店内に入る。
店内はというと、まさしくうどんチェーン店そのものの構えをしていた。目の前にトレイと小皿が積まれたセルフサービス制である。キッチンでは店員が慌ただしく立ち回り、その前列には客が好きにチョイスできる天ぷらが種類別にずらりと並んでいる。
「いいのか? 日本文化に汚染されてるんじゃないのか、これは?」
「細かいことは気にしないで。システムはわかりますよねえ」
チエの問いかけにコウガは深く頷いた。
「うどんはよく食べてたからすっごいなじみがあるよ。まるで日本にいるみたいだ」
「今日会う相手もうどん大好きな人でしてねえ。まずは注文してください」
コウガは冷たいぶっかけうどんを注文し、小皿にちくわ天を乗せて会計した。ネギと天かすを多めにかけた後、チエの先導で席に向かう。
「あちらの方です」
チエが示す先には、先客が一人、うどんを食らっていた。
金髪の上にバンダナを巻いた男である。肌は白く、耳はとがっている。その姿はまるで――
「エルフに見える」
コウガが言うと、
「当たり前だろ。エルフなんだから」
アイリが小声で言い返した。
「この世界にはエルフもいるのかよ」
「いわゆる亜人種はいろいろいるぞ。ギルドメンバーにもな」
男は六人掛けボックス席に一人で腰掛け、大盛りのざるうどんをさもおいしそうに食らっていた。
「エルフがうどん食ってるのか……」
「いいじゃねえか別に。味覚はあたしらと変わらねえんだから。牛丼屋に行けばオークが牛丼食ってるし、そば屋に行けばドワーフがそば食ってるぞ。文句あるか」
「文句はないけど、地味にショッキングな絵面だなあ……」
「ん。待ってたぞ」
エルフはチエの姿に気づくと軽く手を上げ、同席するように促した。
「では、失礼しますよ」
優雅な笑みを浮かべ、チエは対面の席に座る。コウガとアイリもそれに続く。
「こちらはコウガ。私たちの新たなパーティーメンバーです。そしてこちらは――」
「ランバート」
チエが紹介するより早く、エルフは名乗った。
それなりに男前で、いかにも歴戦の冒険者といった落ち着き、風格も漂っている。うどんを食べている、という姿がどうにも不思議ではあったが。
「この方も冒険者ギルドのメンバーでしてねえ。職種はレンジャーですよ」
チエの説明に、ランバートは頷いた。
「畑を荒らすミームや害獣から小麦を守るために戦っている。でも今日は害獣退治の話じゃないんだろ?」
ランバートはチエに問う。
「ええ。実は……」
話を切り出そうとするチエを、ランバートは制した。
「うどんを食べながら話そう」
返事を待たず、うどんを食べはじめる。コウガたちもそれに倣った。
うどんの味は、日本で食べていたものとは少々違った。
「麺自体は変わりない。ただ、だし汁が少し違うね」
「カーディニア王国には海がないって言ったでしょ。だから代替物を使っているんです」
「こんぶもかつおだしも使えないのか。それは面倒そうだ」
「海産物が食べたくなっても我慢してくださいねえ」
「そいつは参ったね。大トロを食べたくなったら、俺はどこに行けば……って、ちょっと待ってくれ」
ふと気づいて、コウガは食べかけのちくわを箸で挟んだ。
「ちくわって確か海産物が原料だったんじゃ……」
「淡水魚は採れますから。川魚のすり身を原料にしているはずですよ。日本のちくわと少々風味が違うと言う方もいますね」
「そうなんだ。俺にはまったくわからん」
もう一口、コウガはちくわをかじってみたが、やはり違いはよくわからなかった。
「いつの日か、正しい材料から作られたうどんやちくわ天を食べてみたいものだな」
ランバートはまじめくさった顔で深く何度も頷いた。
「そんなにうどんが好きなんですか」
コウガが問うと、ランバートはにっこりと笑った。
「もちろん。こんな素晴らしい食べ物はないぞ。食べでがあり、感情豊かな風味が味わえ、そのくせお安く手軽と来た。夢の食べ物だよ、これは」
「……それはそれは」
「異邦人の食生活の侵略によって、アリカムナードの伝統的食文化が破壊されているというむきもある。だが、私はうまいものを素直にうまいと言いたい。うどん食を禁止しようとする奴らがいたら全員ぶっ殺して小麦畑の肥料にしてやる」
「…………」
恐ろしいまでの入れ込みように、コウガは黙るしかなかった。
ランバートはチエに目を向ける。
「それで、だ。例の話、考えてくれたか?」
「是非とも引き受けたいと思います。デュラハンを倒す算段ができました」
神妙な顔でチエが答えると、ランバートはにやりと口元を歪めた。
「引き受けてくれるか。いやいや、ありがてえ」
はてな、とコウガは眉をひそめ、アイリに問う。
「この人、依頼人の関係者? 塩鉱の持ち主の……サールブロ公爵とか言ったっけ」
「いえ、そうではありませんよ。彼は岩塩坑の最奥部に飛び込む縦穴を知っているんです」
コウガの問いを耳にして、チエが答える。
「縦穴?」
「おうよ」ランバートが語る。「岩塩坑に住み着いているミームどもをすっ飛ばして、直接岩塩マンを狙いにいけるショートカットよ。昔岩塩を掘っていた年寄りに聞いた話で、確認もできている。ただ俺一人で勝てる相手じゃないから、岩塩マンを退治するのを引き受けてくれる奴を探していたってわけだ」
「なるほど。それで情報料をいただく、と」
「そういうこった。情報料は、岩塩マン討伐成功時に支払われる金額報酬の四分の一でどうよ?」
「少々高くありませんかね」
チエは値切りにかかったが、ランバートも譲らない。
「ンなこたないだろ。こちらとしては、岩塩坑のあがりの一部をいただいてもいいくらいだ。そこを出血大サービスしてるんだぜ」
「…………」
チエは答えず、渋い顔を見せる。
しばしのにらみ合いの後、
「……しゃーねえな」ランバートが折れた。「半分でいい。金額報酬の八分の一。まだ高いってんなら、この話はなかったことに」
チエはアイリとコウガに視線を投げる。
アイリもコウガも頷き、同意を示した。
「……前金はその半額でいいですよね」
財布から数枚の金貨を取り出し、チエはランバートに手渡した。
ランバートは金貨をじっくり眺めてから、ポケットにしまい込んだ。
「結構。俺が現地まで案内するぜ。いつがいい?」
「明日の二十三時以降に現地に着くようにしてもらえますかね」
チエの要求にランバートは一瞬不審げな表情を見せたものの、すぐに納得した。
「岩塩マンが寝ているところを襲おうって腹かい? うまくいきゃいいがね」
「まあ、そんなところです」
短くコメントして、チエはお茶を濁した。
「……ところであいつ、信用できるのか?」
ギルドに戻る途上で、アイリは質問を投げた。
「どうしてそう思いましたか?」
チエに問い返されて、アイリは肩をすくめる。
「直感だよ」
「適当な……」
コウガがツッコミを入れると、アイリはコウガに鋭い視線を投げかけた。
「文句言うんじゃねえよ。あたしの直感じゃ、あいつは信用できねえ」
「理由を説明できますか?」
チエの更なる問いに、
「説明できねえから直感なんだよ」
アイリは堂々と答えた。
「ますますもって適当な」コウガが言う。「俺の直感は、あの人は信用できると告げているよ。うどん好きに悪い人はいない」
「それこそ適当だろ。香川県民が全員聖者だってのかよ」
「……こいつは一本取られたな」
コウガは認めるしかなかった。
「アイリの気持ちもわかります」とチエ。「とはいえ、情報を買うだけですよ。最悪の場合でも、損害は先ほど支払ったお金だけです。もう支払ってしまったのですから、今更どうこう言っても仕方ないんじゃありませんかねえ」
「……そりゃそうだがよ」
と応じたきり、アイリはそれ以上文句を言わなかった。
――そんな神経質になることかねえ。
コウガは心の中でそう呟いた。気持ちは既にデュラハンとの対決に向いている。本格的な冒険に、心が浮き立つのを感じていた。
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