十九日目

「どうだ?」

「驚いたな、ここまで順調に行くとは思わなかった」

「今回のマルタは扱いが難しかったからね。どうなるかと思ったが」

「記憶がないのが逆によかったのかもしれないな。普通の人間だったらとっくに狂ってるだろう」

「そうだな。まぁ、ここまでもってくれてよかった。これで自殺することもできまい。後はおとなしく変異するのを待つだけだ」

「部屋を移してもいいんじゃないか? そのほうがデータに幅が出るだろう」

「いや、こいつは特別なんだ。意識のあるうちは、丁重に扱えと言われている」

「丁重ねぇ。こんな姿にしておいて、よくそんなことが言えたもんだな」

「批判はよしておけ。聞かれていたらどうするんだ」



 まぶたが開かない。体も動かない。ただ会話だけが鮮明に、耳のなかに飛び込んでくる。これは夢なのだろうか……。

 あの男の声ではなかった。男性の2人組だが、声に聞き覚えはない。何とか状況を把握したいと体を動かそうとするが、金縛りにあったようにびくともしなかった。何度もそれを繰り返しているうちに、右腕に何かを押し付けられる感触があった。注射だろうか? 2人の気配が遠ざかっていく。足音が響き、ドアが軋む音がする。そのまま彼は取り残された。やがて意識を失った。

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