第6話 考え
夜7時。凛の作ったカレーライスを食べた。おいしい、控えめに言っておいしい。
強いて不満を言うなら左腕がないことで多少食べづらいことぐらいだろうか。
料理は満点でした。本当。
それからシャワーを浴びて布団を敷いて後は寝るだけといった感じなのだが、
今は夜10時半。まだまだ時間はある。
なので少し今の状況、つまり10年間で変わっていたことをまとめてみようと思う。
まず俺から。見てわかる通り左腕がなくなっている。正確に言うと肘から上がきっちり無くなって切断面も丸くふさがっている感じだ。
次の変化が転職。やっぱり腕を無くしての仕事はいろいろ不便だろうし転職は納得した。
だからって転職先が探偵とはどうなんだろうか。少なくとも賢明な判断とは言えないと思う。
探偵の主な業務内容は浮気調査やら企業からの依頼をこなすこと。
走り回ったりこっそり動いたりなんてザラなのだ。
だから腕があれな俺には合わないと思うのだ。
ちなみに探偵が警察に協力なんてことは普通じゃ絶対無い。
探偵だってサラリーマンと同じ。守秘義務のある警察が民間人に情報公開して協力を要請するなんてありえないことだ。
要するにそういうのはフィクションの話、ってこと。
大事なのは、そんな探偵業界で俺はどのくらいの地位を確立しているかだ。
稼ぎがあまりにも少ないのなら転職しているだろうし、中堅くらいの位置にいるのではないかと予想する。
そして次が一番大きいと言っても過言ではない変化だ。
俺に娘ができた。
名前は凛。苗字は俺と同じで西川。
黒髮の清楚系女子、あえて言うなら最強の癒し系。可愛かった、娘だけど。
多分同年代にいたら惚れているレベルで。
なんで俺に養子がいるのかと言うとそれは今から6年前にさかのぼる。
俺はトラックに轢かれそうになった彼女ーー凛を助けたのだ。自分の身を呈して。その際に左腕も無くなったらしいのだが、俺は「よくやった自分」と思っている。
1人の命が救えたのだ。腕なんて軽いものと思える。
そして凛には両親がいなかった。
児童養護施設に入所していて、そこから出かけたのか脱走したのかまでは知らないがそこで俺が助けたのがきっかけ。
それから凛を俺は励ましたりいろいろして……気づいたら成り行きかどうかで養子になっていたらしい。
そして四年の歳月がたち今に至る、というわけだ。
さっき「凛って今何歳だっけ」って聞いたら「17歳だけど」という返答が聞けた。
そういえば俺さっきから「おじさんおじさん」って呼ばれ続けてたから忘れかけてたけど実年齢26歳じゃん。
歳の差9歳なんて兄妹レベルじゃないか!
……今は36歳だけど。
他には伊藤はいつも通りだったり桜井は
主任になって面白い
明日からはここで新しい生活を送る。
凛にはまだタイムスリップのことは言わない。時が来たら話そうとは思うが、それはまだだ。
探偵、未知の領域に踏み込むことになるがやれるだろうか。
いや、やらなければ。
そして俺は元の時代に戻って……
あれ?なんかおかしくないか?
もし俺が戻れば、それから10年後に同じことが起こると知らせられるのではないか?しかし今の所そのようなものは見つかっていない。
今の俺はこのタイムスリップを体験した俺出なければおかしいと言うのに。
……どういうことだ?卵が先か鶏が先かということなのか?
なんとなくもどかしい気持ちに唸っていたら時計が目に入った。
夜0時くらい。もう寝るにはちょうどいいだろう。
食器を洗う水道の音も誰かの物音も聞こえない。凛はもう寝たのだろう、いい子だ。
さぁ寝ようか。
わずかに「戻れるかもしれない」なんていう期待を持ちながら。
……そういえば俺の追っていた事件はどうなったんだろうか。
ちゃんと解決したのだろうか。
まぁ、思いついた時に桜井にでも聞こう。
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