第3話 外出
俺が桜井に会おうと思った理由は2つ。
1つ目はあいつのことを気遣った。それだけ。
問題は2つ目だ。俺はタイムスリップのことを話そうと思ったのだ。
なぜかというと桜井はそういうことを信じる、そう思ったからだ。
伊藤はそれこそ軽い性格をしているが案外空想やファンタジーを認めない性格なのだ。
それに対し桜井はいろいろなことを多方面の視点から見ようとする姿勢を貫いている。尊敬を覚えるほどに。
実際俺の相談をよく聞いてもらっていたのも桜井だ。あいつの相談を聞いたのも俺だが。
まぁ簡単に言うと話しても信じてもらえそうだから信じるってだけだけどな。
俺はカフェに着くなり、桜井の姿を探した。店の隅の席に腰掛けている。
俺はそこへ歩み寄り声をかける。
「久しぶりだな。桜井」
「お前こそだな。西川」
そう言って、「座れよ」と俺に座るよう促すとこちらに向き直る。
やはり10年経っても人は変わらないらしい。
きっちりとしたスーツに物腰柔らかそうな表情で俺の方を向く。
そこからは10年分の年季を感じるが、むしろそれは大人の色気となっているのだろう。なんて言うか、こう、すごく、かっこいいと思った。
内心は少し複雑だ。
久しぶりにあった友人は10年老けてるし、それでいてかっこよくなっている。
なんじゃそれ。
「で?俺を呼び出すということは何かあったな?弁護士なら紹介してやるぞ」
桜井はいたずらをするような子供のように笑う。実際ジョークだろうな。
俺もつられて笑う。
「本当にそうだったらいいけどな……」
「なんだよ?それ以上の問題ってなんだよ?」
俺は意を決する。さぁ、言うぞ……!
「実は……」
「すみませーん!!遅くなりました!」
……そいつは突然、大声とともに俺たちの方へ乗り込んできた。
「遅いぞ、葉山」
「ははは……すみません」
唐突な登場に俺は驚きながらも視線を葉山という青年に向ける。
……多少、自分のペースを崩されたことに苛立ちながら。
「え、えと、初めまして西川さん。
お話は桜井先輩から聞いてます」
「桜井先輩?もしかして君は……」
「はい!警視庁公安部の葉山
葉山は大声で俺に挨拶をしてくる。
あーあーやってくれたよこの子。そんな大声出されたら嫌でも目立っちゃうでしょーが!
しかも警察って言っちゃったよ!
公安(笑)だよこれじゃ。
あぁもう、おー元気がいいね。この子は絶対将来有望だと思うよ、うん。とかいう冗談半分含めた会話をしたかったのに。
俺が桜井の方を向くと「多めに見てくれ」なんて言いたそうに苦笑いしてた。
上司だろ、先輩だろ。コントロールしやがれ。
「はは……元気がいいね、でも葉山くん?声量は場をわきまえて調節しようね……?」
俺は自分でも分かるくらいこめかみに青筋を立てながらそう言った。
あー嫌だ。これじゃ嫌味だよ全く。
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