第2話 連絡
まずは伊藤に電話しよう。
連絡先をタップして電話をかける。
「はい……もしもし、伊藤ですが?」
「おい!俺だ!西川だ!」
「お、おう……西川か。どうかしたのか?」
そこで俺は戸惑う。
あーこれどう説明しようか?
タイムスリップしてきたなんて説明を信じてもらう方がおかしいし。
よし、ここは無難に近況報告を装うことにしよう。
「いやー、最近連絡取ってなかったなって思ってな?今元気?」
「元気ってお前……昨日あったばかりじゃないか。大丈夫か?」
あちゃあ。いきなり食い違ったか。
さてどう軌道修正しよう。
「いやいや。会ったかも知れないけど電話はしてないだろ?だからたまには話したいなって思ってな」
伊藤と電話をしばらくしていないのは通話履歴を見ても明らかだった。
多少苦しい言い訳だけど。
「ふーんそうか。まぁそれならいいけどさ……なんか用か?」
よし。ごまかせた。何から聞こうか……
まずはこの肘の下から無くなっている左腕から聞くか。
「俺の左腕がなくなった時のことって、覚えてる?」
「ちょ、お前……それが電話をかけてまで話すことかよ!」
「いーだろ別に。聞きたいと思ったしさ」
伊藤の反応から察すると俺は左腕を失うきっかけのことをよく知らないようだ。
これは好都合だな。
「じゃあ話すけどよ……お前、トラックに轢かれただろ?6年前くらいに」
6年前、トラック、交通事故……
出てきた情報を脳内で整理する。
「あぁ、うん」
覚えてないけれどとりあえず相槌。
「で、それで頭とかは奇跡的に無事だったのによ……左腕だけズタボロだった訳だよ」
「へぇ……そうなのか……」
「それでやむなく切断、ってわけだ。
にしても一体どうしたんだよ?
今まできこうとなんかしなかったくせに」
「それは……あれだよ。気持ちの変化」
「まぁお前はそんなやつだからな、昔から」
「あ、あぁ、うん」
なんだよそれ。俺もしかして適当なやつに思われてる感じか?
「じゃあな、元気で」
「あぁ、ありがとう」
そして電話を切る。
とりあえず左腕の事情はわかった。
この分だと仕事はクビになってるだろうな……もしくは自分から退職って感じかな。
次は桜井か。もしかしたら仕事中かも知れないけど、電話してみよう。
◇
「もしもし、桜井です」
「俺だ。西川だ。今時間あるか?」
俺は伊藤と話す口調よりも若干硬めの口調で話す。これは仕事の付き合いというのもあったし、何よりそういう口調よりも桜井と話すならこっちの方が合うと思う。
「おぉ!西川か、久しぶりだな!
ちょっと待ってくれ。今騒がしくてな。
ちょっと外に出る」
しばらくして電話越しの騒がしい声が遠ざかったと思うと桜井が話し出す。
「事件だよ。結構大物の」
そう。桜井は警視庁。しかも公安部だ。
つまり俺も公安ってことになる。
……すでに「元」だが。
「そうか、なら後で掛け直すぞ?」
「いやいい。それより何かあったのか?」
俺は話す内容を考える。
さっきの「久しぶりだな!」という反応から「久しぶりに電話したくなった」というのも使えそうだ。
でも俺はそれをやめる。
「今日合わないか?時間はそっちが指定でいい……」
「今日か?それはいいが、場所は?」
「そうだな……」
俺はなんとなく近所の喫茶店を思い出した。今もやっているのだろうか。
「じゃあ、俺の家の近くの喫茶店で」
こうして俺は、桜井と合う約束を取り付けた。
……おそらく、長い話になるだろうから。
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