PrimAaronPrince

朔間ましろ

1章 語り継ぐもの

???

『みなさんは、アロンをご存知だろうか。旧約聖書やクルアーンに登場する人物である。知ってるという方もいれば、知らないという方もいらっしゃるだろう。彼の呼び名は、英国ではエーロン、とある国ではアハローンと呼ばれている。この物語は、そのアロンがとある国の象徴となり敬われ、その国の姫君の恋模様を描いた物語である。……ワタクシが誰だって?んふふ、そのうち見れるかも知れませんねぇ。おや、姫君のお目覚めのようだ。それでは、ワタクシはこれで。またお会いいたしましょう子羊ちゃんたち』


*


夢を見た。


幼い私が、お母様の膝に座って信書を聞く、そんな夢。


たまにそういう夢を、週に2、3回は見るようになった。


どうしてか、なんてわからない。


でも、そのお母様はもういない。


お父様は泣いている私にこういった、


国王

『妃は、星になったのだ。国を見守る星に。だから、声もぬくもりも感じることはできない。だが、きっとお前の成長も見届けてくれるだろう』


と。


いつかまた、お母様に会えたら。


そんな儚い想いがいまでも胸に留まっている。


*


???

「――ま」


声が聞こえる。


それと同時に感じる揺れ。


???

「――よ。――さま」


(あと、五分だけ…)


揺れと声の心地よさに、再び眠りに落ちようとしたとき、


???

「姫様!」


今度は、耳元で大きく叫ばれた。


ひいっ、と変な声を上げてしまい飛び起きる。


何事だろうかとあたりを見渡すと呆れた顔の従者がベッドの脇にいた。


従者

「まったく、何度起こしても起きないんですから。朝食のご用意もできております。国王もお待ちですよ、コト姫」


そう言われて、時計に目をやる。


時計の針は、七時をさしていた。


いつもは6時に起きて聖堂に行っているのに、完全に寝過ごしてしまっていたらしい。


コト

「ごめんなさい。すぐに行く。着替えるから、先に行っていて」


従者

「かしこまりました、それでは失礼いたします」


従者は一礼をして、部屋から去った。


従者が去ったあと、私は着替えて朝食が行わる部屋に向かった。


部屋に入るとテーブルには料理が並べられ上座には国王である父親が座っている。


コト

「遅れてごめんなさい、おはようお父様」


国王

「おお、起きたか。おはよう。なに、気にすることはない。ほら、座りなさい」


頷き、椅子に座る。


座ったのと同時に、国王であるお父様の音頭で食事を始める。


何気ない、いつもの朝。


いつもの食事、この日がいつでも続くのだとそう思っていた。


国王

「今日の晩、ユーモ国に攻め入ろうと思う」


食事の途中でお父様はそう口にした。


コト

「ユーモ国に…?どうして?」


国王

「どうやら、妬みを晴らすためにこの国を滅ぼそうとしているらしい。…ふん、生意気な。数年前の戦争の格差をみれば我国、フィーン国が有利だと分かっておるのに」


ユーモ国に攻め入る、戦争。


その言葉が心に深く突き刺さる。


あの戦争で、ユーモ国は大量に死者が出た。


もちろん、フィーン国にも。


……そして、お母様は城に攻め入られた時に亡くなった。


私は、その時お母様といた。


なのに、幼い私は何もできなかった。


お母様は私を庇い、逃げるように言ったがお母様を見捨てることなんて出来なかった。


しかし、お母様は私を従者に託し逃げるように命じ泣きじゃくる私に微笑み入ってきた刺客に囲まれ殺された。


あの時の光景は今でも忘れられない。


忘れることなんてできない。


でも、なぜか攻め入ると聞いた瞬間、辞めさせなくちゃと思った。


攻め入ったら駄目、そうしたらまた死者が出る。


この国が勝ったら、またきっと怨みを晴らそうとしてくる。


そうなったら、もう終わりが見えない。


母親を殺したユーモ国が憎い。


だけど、どうしても気が進まなかった。


戦争なんて、おこすものじゃない。


国王

「だから、お前の知識を貸して欲しい。お前の知識を借りれば、また勝てる」


コト

「私は…戦争の駒じゃない。だから、力を貸すなんてできない。おかしいよ、攻め入るなんて。相手国も相手国だけど、戦争をおこすなんて…そんなのいいわけない。国を守るためだって分かってる。でも…でも、もう見たくないの。人が死んでいくのを、街が火の海になって人々が逃げまとうのを」


私は、戦争をおこすために知識を持っているのではない。


この国の象徴、アロンを広めてこの国の子供たちに知ってもらうため聖堂に行ってお祈りして街に出て布教している。


コト

「平和で、人々の笑顔で溢れているこの国をまたお父様は…」


国王

「国を守るためだ、致し方ない。お前がその気じゃないのなら無理には言わん。だが、攻め入る。ユーモ国の好きにはさせん」


そういった、お父様の目には微かな火が灯っていた。

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PrimAaronPrince 朔間ましろ @sakuma_0213

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