第9話 協力

 『本当に、御礼を申し上げます』とヴォルフラムさんが頭を下げた。『……ですが、この国にも我らの安寧の地が無かった事は、思い知らされました』

「……」

『視界が悪い山林では、我らの巨体は格好の標的にされてしまう。 かと言って、開けた場所に出ていく訳には行かず。 ……やはり我らは、もうじき滅びるべき存在なのかも知れません』

「その必要はありませんよ」と声がして、俺は仰天して振り返った。

酒匂さんが、迷彩服を着て立っていた。どうやってここに、と言いかけた俺を遮って、シロが穏やかにヴォルフラムさんに言った。

「どうやら、武蔵財閥が竜の居場所を確保してくれたようですよ」

「ええ。 お坊ちゃまが所持している、太平洋に存在する島の一つを竜の居住地域として進呈したいとの事です。 赤道に近いので少々暑いのが難点ですが、いずれ私有リゾート地として開発する予定だった島です、それほど不便は無いでしょう」

『あの時の、ニンゲン……』ヴォルフラムさんが呟いた。『何故我らを助けようとする? ニンゲンは我らを常に滅ぼそうとしてきた。 なのに、何故』

「貴方はお坊ちゃまを助けた。 武蔵財閥の未来の『王』を。 それ以上に我々がお助けする理由は要らないのです」

『……』

「移住の準備がお済み次第、隠密にお運びいたします」


 『車輪の下』を読み終わった直後、俺は何となくシロ達が恋しくなった。独りぼっちが怖くなった。それで部屋を出てシロ達がいる一階の心霊探偵事務所に降りていくと、意外な人がいた。

武蔵先輩が、酒匂さんと一緒に来客用のソファに座っていたのだ。何か、虎弥さんと話し合っている。

俺は出て行くべきかどうか迷っていたけれど、

「清君、盗み聞きは良くないよ」とヒロが言ったので出て行く事にした。

「やあ清君」と武蔵先輩はいつものようにイケメンスマイルで俺に挨拶した。「清君は本当に凄い人達に囲まれているなあ」

「先輩……」

「竜の引っ越しが終わったぞ。 俺が想定していた以上につつがなく、迅速に、だ。 この磯風さんのおかげだ」

「え、もう?」

あれからまだ一日も経っていない。

「ああ。 司鬼と言う存在は、噂では聞いていたが、実に凄いなあ。 人間でありながら、超常の力を自在に操る」

「……先輩も司鬼みたいな存在ですよ、イケメンで御曹司で頭良いしー」

「はは、まあそう妬むな。 ……なあ清君」と突然武蔵先輩は顔を改めた。

「はい?」

「俺に協力してくれないだろうか。 俺が全ての王位継承戦争を制し、王になった後も」

「……」

俺は考えた。シロ達は穏やかな目で俺を見つめていた。

――よし。

俺は口を開く。

「はい、武蔵先輩。 末永く、やっていきましょう」

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