第8話
壇上でマイクを握っている 朽樹 は体育館に集まっている全校生徒を見渡しながら話し始める。
「各先生方から事情は聴いていると思いますが今年からこの町は医療特区として指定されています。その医療特区の医療政策の一環としてワクチンや予防接種等、事前に病気を予防することによってこの町で生活している皆さんの健康や医療福祉等、どの様に影響するのかを試験的に行うことになりました。まず最初に現在流行の兆しがありますインフルエンザを対象に予防接種がどれだけ皆さんの健康や医療福祉等に影響しているかを調べる為、この町に在籍している全世帯の方を対象に政府負担の元、予防接種を受けて頂きたいと思っております。
本日から担当の先生の元、この学校の保健室で3日間、1クラス毎に予防接種を受けて頂く形になると思います。もちろん各生徒任意での予防接種になりますので受けなくても結構ですがこれからの福祉制度の改善に繋がりますので出来るだけ参加して頂きたいと言う事で是非ご協力の程よろしくお願いします。これで厚生労働省からの説明は終わらせていただきます。」
と言って 朽樹 とその後ろに居た女性は一礼をしてマイクを壇上に上がって来た校長先生に渡し、入れ違いになる様に壇上から降りて行った。
「それでは各クラスの生徒は担任の先生の指示に従って予防接種を受けに行ってください。これで全校集会を終わります。」と校長先生は言って全校集会が終わり、全校生徒は各担任の先生と一緒にクラスに戻って行った。それから一年生のクラスから順に予防接種を受ける生徒は保健室に受けない生徒、もしくは既に家族で受けている人は教室に残り自習と言う形で午前中を終えた。
昼休憩になり、 鏡花 が作ってきたお弁当を一緒に食べる為待ち合わせの校舎屋上のテラスに 勇輝 は向かう。階段を上り三階建て校舎の屋上に着き出入り口のドアを 勇輝 は開けると高さが30cm、横が50cm x 長さが2m の赤レンガの花壇が1m程の通路を隔てて3列に並んでいて奥に進むと直径4m程の円に腰を下ろせる高さの黒色の大理石風の人造石が噴水を取り囲んでいる。
噴水側には数個のベンチが並んでいてその一つには既に 鏡花 がお弁当を持って座っていた。
「チャイムが鳴って直ぐ向かったのに先に着いてるとは思わなかったよ。」 勇輝 はそう言って 鏡花 の傍に行くと少し息が弾んでいたので走って来たんだろうと 勇輝 は思った。
「ちょ、ちょっとまって今用意するから。」と言いながら顔を赤くしながら 鏡花 は自分の膝に置いているお弁当の袋を解き食べる準備を進めた。
勇輝 は ベンチに座っている 鏡花 の隣に座りお弁当の中身を見てみると凄く気合の入ったおかずがビッシリと詰まっていた。手作りのから揚げ、ハンバーグ、トンカツにダシ巻き卵、ブロッコリーとトマトが入っていてご飯はしそおにぎりに鮭おにぎり、梅おにぎりと凄く手間がかかっているお弁当をみて 勇輝 は驚いた。
「す、凄いな…驚いたよ。こんなにもいっぱいあって…美味しそうだ。」 勇輝 は素直に称賛を送っていると照れくさそうに目を逸らしている 鏡花 からお箸を渡され食べてみる。
「いただきます。………うん、凄く美味しいよ。私が作ったよりも美味しい。 鏡花 がこんなに料理が上手なんだね…凄く嬉しいよ。」
「よかった~~。 勇輝 の口に合わなかったらどうしようと思って緊張しちゃったっ!。喜んでくれて良かった~!。」最初不安そうだった 鏡花 の表情が 勇輝 の美味しそうに食べる姿をみて一転、満面の笑みを浮かべながら言った。
「本当にありがとう、鏡花 。これだけのお弁当作るのに凄く大変だったんじゃあないか?」
「えへへ…。」
「ホント凄いよ。ありがとう 鏡花 。」
「は~~、ホッとしてお腹が空いてきちゃったから一緒に食べるね!。」と 鏡花 は言うと自分のお箸を取り食べだした。
お弁当は結構な量だったが美味しかったので直ぐに食べ終わった。
「ホント美味しかったよありがとう 鏡花 、お礼に何かしたいんだけど何かしてほしい事ある?。」
「えっ!、い、良いの?」
「ああ…こんなにご馳走してくれたんだから私に出来る事があったらなんでもするよ。」
「な、なんでも……なっ~~~!!!。」 鏡花 はそう言って考えていると何かを思いついたようにハッとして直ぐ見る見るうちに顔が赤くなり一瞬悶絶している様に体をくねらせたらせた。
「 鏡花 …だ、大丈夫か?。 」
「え、えぇ…だ、大丈夫よ…そ、それより…こ、今度の日曜日は空いてる?」少し息が上がっりながら笑みを浮かべて 鏡花 は聞いてきた。
「日曜日?、ああ…大丈夫だ、バイトのスケジュールは調整できるから空けられるよ。何?何処か行きたい所でもあるの?」
「行きたい所って言うか…今度の日曜日に百年に一度の金環日食の日なんだって。そ、それでね… 勇輝 と一緒に見みたいな~…なんて思って…。」
「全然いいよ。一緒に見よう。確か昼の12時頃から見れるんだっけ?、それだったらその時に私が弁当を作って行くよ。 鏡花 と一緒に食べながら見るのもいいんじゃないかな。」
「え、良いの?。やったっ!嬉しい~!それじゃあお昼前に 勇輝 の家に行く方が良い?。」
「それでも良いけど 鏡花 が良いんだったら朝から一緒に出かける?」
「え~…嬉しいけど… 勇輝 は大変じゃない?」
「早朝は無理だけど9時頃だったら大丈夫だ。」
「じゃあ9時過ぎに 勇輝 の家に迎えに行くねっ!。すっごく楽しみっ!!。」
「ああ…私も楽しみだよ。」 勇輝 はそう言って 鏡花 の他に行きたい所を聞きながら日曜日の予定を埋めていった。
「ところで 勇輝 はインフルエンザの予防接種は受けるの?」
「う~ん…それなんだけど何か引っ掛かる感じがして…ちょっと様子を見ようと思うから受けない。」
「何か引っ掛かるって 勇輝 も?」
「も…って、 鏡花 も何か感じたのか?」
「ええぇ…あの厚生労働省から来た二人…男性の方は【 朽樹 (くちき) 】って言ったっけ、あの人から少しだけ殺気を感じたの…なんか必死で抑えている感じだった…。」
「殺気って…生徒にか?」
「ううん…何ていうのかな…戦う前の様な感じって言うのかな…空手の試合前…見たいな…。でも試合で相手に勝つ気持ちで放つ殺気とは比べ物にならない殺気…そう…私のお父さんが事件を追っている時に放つような緊張感に近い殺気があったの…。ものすごい変じゃないっ!殺気とは無関係に近いような人から感じるのってっ!… 勇輝 も感じたの?」
「いや…私は 鏡花 見たいに気配や殺気を感じ取るなんて凄い事は出来ないよ…でもなんだかあの二人は役所で働いている様な感じがしなかった…立ち振る舞いがなんだか整然とし過ぎてたと言うか…軍隊っぽかった…スーツは着ていたけど靴は軍隊なんかで使うようなブーツだった。」
「よくそんなとこまで見てるわね…。」
「でも個人で好んで履いている可能性もあるから…なんとなくになるんだけど…何か引っ掛かって…クラスの皆に言うのも変だし…一応、私は受けないでいようかな…と…。」
「 勇輝 が受けないのだったら私も受けない事にする。それに最近この町全体が緊張感があるって言うか何て言うか…なにか変なのよね…。」
「う~ん…。」
「う~ん…。」
キーンコーン…カーンコーン…。
と二人で考え込んでいたら昼休憩が終わる5分前の予鈴チャイムが鳴った。
二人で屋上のテラスを後にして名残惜しそうにしている 鏡花 と別れ 勇輝 は自分のクラスに向かい午後の授業を受けた。
放課後になり 鏡花 は道場に 和真 は学校を休んでいたので 勇輝 は一人で家に帰宅しバイトに向かう。
それぞれが何時もどうりの日常を過ごし一日が過ぎって行った……。
◇◇◇◇◇
日が落ちて辺りが暗くなり誰も居なくなった 勇輝 達が通う学校の屋上にスーツを着た男性が一人、町を見渡すように立っていた。
その男性の2m程後ろの地面に突然直径1m程の青白い光の輪が現れその中に見たことも無い様な文字の羅列が輪の縁を沿う形で次々と浮かび輪の中を文字が埋め尽くすと突然女性が現れた。
現れた女性は今日の朝、この学校の全校集会の時に【 朽樹 (くちき) 】と言う厚生労働省から来た役人と一緒に来ていた女性だった。
「大佐。先程【魔力変換化計画】で利用する予定の人数を確保したとの報告がありました。」と突然現れた女性が直立不動の姿勢でその女性の前で町を見渡している男性に言った。
「佐々木さん報告有難うございます。それとやっぱり大佐って呼ぶのはやめません?…どうも慣れなくって… 朽樹 って名前で呼んでくださいよ。」と男性は照れくさそうに女性に振り向き答えた。
「ダメです。私だって少佐なんて呼ばれていますから…我慢してください。」佐々木と呼ばれた女性は直立不動の姿勢で不満そうに言った。
「ですよね~。」と 朽樹 は苦笑いして肩を落としながら佐々木からの返事が分かっていたかの様に口にする。
朽樹 は三年前の魔力覚醒と言う衝撃的な出来事が起こってから【 特殊守衛隊 】に配属になり血の滲む様な訓練を受け、現在では【 特殊守衛隊 】の中で最高の魔法力を持つ様になっていた。
「大佐よりも私の方が全くなじめてないんですよ!。私なんてつい三年前まで地方の警察署で一般事務をしていたんですからほんと【寝耳に水】ですよ!!」と佐々木は直立不動の姿勢から腰に手を置き少しリラックスした姿勢で不満を口にする。
佐々木と呼ばれた女性も三年前の【能力選定】と言う検査で魔力適正が有ることが分かり地方の警察署から一転、【 特殊守衛隊 】に配属して厳しい訓練ののちに 朽樹 の次に魔法力が高くなり少佐になった。
「は~~…。」
「は~~…。」
朽樹 と 佐々木 は同時にため息を漏らして肩を落とした。
「 朽樹 さん朝の全校集会の時、殺気が少し漏れていましたよ…。」と 佐々木 はジト目で 朽樹 を見ながら言った。
「あ…やっぱり漏れてましたか…【 あの方 】に事前に言われていても流石にあの魔力を見せつけられたら驚きますよ。」片手を胸元でヒラヒラさせながら 朽樹 は少し疲れた様に言った。
「そうですよね。私も驚きました…壇上前の中央辺りにいた男子生徒が【 あの方 】と同じくらい魔力で覆われて光ってましたから。凄く気になって見ないようにするのに一苦労でしたよ。」驚きを噛みしめながら 佐々木 は言う。
「【 あの方 】から一切の関わりはしないように言われていましたが凄く気にはなりますねその男子生徒との関係が…それに後、二人程少しですが魔力を纏っているのが確認されましたからそれも驚きです
【アーティファクト】を使わずにあの魔力ですから素質も十分あるようで訓練すれば私達の主戦力になってました。でもあと三日後には【人類の終焉】を迎えるのですから非常に残念です。」 朽樹 は両手を腰に添え俯きながら無念な気持ちを口にする。
「でも本当に来るんですか?【人類の終焉】…人類の滅亡と言うのが…私にはどうも信じられなくて…。」と少し困惑した佐々木が言った。
「まあ…気持ちはわかりますよ 佐々木さん …もうすぐ世界の終わりなのにこの何時もと同じような日常を目にすると…でも私達に起こった現象と【 あの方 】が言うのですから間違いは無いんですけどね…。」
「ですよね…でも【 あの方 】は一体、何者なんでしょうか?」と 佐々木 は質問しながら 朽樹 の隣まで歩み寄って行った。
「何者と言いますとどうなんですかね…【 あの方 】は自分自身の事なんてどうでも良いみたいですし…でも人類の滅亡をもたらす為にやってくる未確認生命体の事や魔法の事等いろいろと詳しいですから何らかの関係があるのでしょうね…きっと…それはそれとして【 あの方 】の話はともかく…まぁ~~~人類が滅亡して当然でしょうね…こんな狂気じみた【計画】を国家が総力を挙げてやっているんですから…。」
朽樹 は両手を腰に当て夜空を見上げながら少し悲しい表情を浮かべて自分自身を責めるように言った。
「今回の【魔力変換化計画】の事ですか?」佐々木 は遠い目で夜景を見ながら確かめるように 朽樹 に質問する。
「はい。……インフルエンザの予防接種と称して魔力変換に使う特殊な魔法構成をした魔力を液体にし、人間の体内に注入して人間の魂を体ごと魔力に変換し魔法兵器及び魔法で使用した魔力の補充に転用する計画…同じ人間をまるで使い捨ての電池の様に扱うのですから滅亡しても当然でしょうね。」 朽樹 は夜空を見ていた目を閉じて自分たちがしてきた計画を思い出しながら少し弱々しく話した。
「たしか魔力適正のある人間には効果が無いんですよね?。」少し不安な顔を浮かべながら 佐々木 は 朽樹 に確かめる様に言った。
「そうですね実験で検証済みです。どうせ魔力適正の無い人間は三日後の【人類の終焉】の日…【金環日食】が始まった時点で人間ではなくなってしまうんですから…。」 朽樹 は 佐々木 の不安を和らげるように答えた。
「【金環日食】が始まった時、世界の理が崩れこの世界に魔素と言う魔力の元が流れ込み世界を満たしてしまうんですよね。その時に魔力適正が無い人間は自分の体に際限なく空気中の魔素を取り込んでしまい体質変化、精神の暴走状態になり理性がなくなって生きている者全て襲う様になる…【 特殊守衛隊 】に配属して最初に動画で見せられましたよその光景を…私、吐いちゃいました。」佐々木 は思い出して寒気を感じ自分の両腕で反対の両肩を摩りながら少し震えて苦い表情を浮かべ言った。
「あ~…あの動画ですか…私も初めて見たとき吐いちゃいました…一緒にいた何名かは気を失ってしまいましたね…ハッキリってエグかったです。」 朽樹 は渋い顔をし思い出しながら言った。
「真っ白な部屋で刑務所に服役していた魔法適正が無い犯罪者に無理やり魔力を大量に注入して暴走させて魔法適正が無い人間の末路がどういうものか実験した一部始終の動画ですからね…体が2倍位に膨れ上がり周りにいた十数人の同じ犯罪者の人間を骨も残さずに食い殺し最後には自分の両手、両足も食べて動けなくなって真っ白な部屋中に溜まった血を啜りながら餓死ですからね…その光景を見せられたら誰だって吐きますよ。」佐々木 はため息交じりに思い出したくない事を思い出した事を後悔しながら渋い顔をして言った。
「その魔法適正が無い人間が際限なく魔素を自分の体に取り込むのを利用して魔法兵器に運用する…ま~魔力の補充もでき、暴走も食い止めるんだから一石二鳥で良い…とは…言い難いか。」 朽樹 は苦笑いを浮かべて自問自答する様に言った。
「ですよね…なにか複雑な気分です。」佐々木 は自分たちのやって来た事を考えて少し悲しい表情を浮かべながら今の自分の感情を口にする。
「三日後に迫った【人類の終焉】の日を乗り越え、残った適正者達だけでも生き残る為には【人類の終焉】の日にやってっ来る未確認生命体と思われる【 敵 】を倒さなければならないから【魔力変換化計画】は必要不可欠だと思って割り切らないとね。」 朽樹 は全ての後悔を振るい払う様に気合を入れ直し言った。
「ですよね…でも 朽樹 さん何故、今現在なんでしょうね?」
「そうですね…私もその事を二年ほど前に【 あの方 】聞いたことがありまして【 あの方 】が仰ったのが【大罪と等価交換】だそうですよ。」
「なんですかそれ。全然わかりませんが…。」佐々木 は答えが端的過ぎて全く分からない事に不満を抱きながら言った。
「ですよね~。」 朽樹 は 佐々木 の不満が心底理解して、苦笑いを浮かべながら言った。
「そんな事よりも全力で生き残らなければなりません…私も死にたくはないですから。」 朽樹 は 佐々木 の気持ちを切り替えこれから始まる戦いに備える様に促すつもりで自分の気持ちを口にする様に言った。
「そうですね!。もうやるしかないんですよね… 朽樹 大佐、それではこれから私は各部隊の最終調整と最終確認に向かいます。」
「はい。佐々木 少佐よろしくお願いします。 私は自身の最終兵器【 ヤタガラス 】の最終調整に向かいますので何かありましたらそちらに来てください。」
佐々木 は 朽樹 から少し離れ、敬礼をしながら先ほど現れた様に足元に青白い線が円を描く様に現れ文字が浮かび上がり 佐々木 は消える様に移動した。
同じ様に敬礼をして 朽樹 は 佐々木 を見送ると再度、この町の夜景を自分の記憶に焼き付ける様に見渡し悲しい表情を浮かべて独り言を口にする。
「三日後にはこの町…いや、この世界の全てが跡形も無くなるかもしれないと思うとまさに最後の晩餐の様だ…。」と 朽樹 は言うと先程 佐々木 が消えた時の様に 朽樹 の足元に青白い線の円が浮かび上がり 朽樹 は消えていった。
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