第7話



「は~…ごめんごめんもう落ち着いたから大丈夫、じゃあ行…!っ!!!」 和真 の思い出し笑いが治まり立ち上がろうとした時、突然 和真 が前に飛び退きすぐさま後ろを振り向いた。


和真 が居た私の隣から飛び退いたとほぼ同時に凄い勢いで後ろから足が飛び出してきた。


すぐさま 勇輝 は後ろを振り向き突き出してきた足の人物を見ると背丈は 勇輝 より少し低いめで背中まである長い黒髪を後頭部の所で赤いゴム紐を使い一つに束たポニーテールが先程の上段蹴りの動きに合わせて左右に揺れていた。


睨みつけているにも関わらず二重瞼で切れ長の目は大きく一目で人を引き付ける様な魅力がありスッと通った鼻筋に整った顔立ち、少し食いしばっている唇は艶やかでピンク色をしている。


日本人形の様な白い肌は正に東洋風の美少女、大和撫子と言った印象が真っ先に浮かぶ。そんな印象に大きく反して膝上の丈程のスカートを大きくなびくとともに穿いているスパッツがあらわになる。


黒いローファーの靴に膝下まである黒い靴下を履いているしなやかな足からは可憐さとは程遠い上段蹴りを放ち日本刀の様な切れ味を連想させながら殺気を纏っている。


「 あんた、また 勇輝 の事からかったでしょっ!いい加減にしなさいよねっ!! 」と殺気を纏っていた足を戻しながら 和真 を睨みつけて少女は言った。


「 宵闇 (ヨイヤミ) さん、本気の蹴りはやめてよ~!っホントに怖いんだからね~あぶない♪あぶない♪。」 和真 は少女の放つ殺気をどこ吹く風とも気にせず陽気で気の抜けた様な口調で少女に言った。


「 あんたが 勇輝 を揶揄わなかければ良いだけの話でしょっ!。それに 勇輝 もいい加減、怒ったらどうなのっ! 」 和真 に言い放つとすぐさま 勇輝 の顔を見て少女は言った。


「 私は揶揄われたとは思って……は~あ~そうだな 鏡花 の言う通りかもしれないな今度は気を付けるよ。」 勇輝 は少女の意見に異を唱えようとしたが少女の殺気の矛先が一瞬自分に向けられようとしたので


すぐさま怒りを静めようと少女の意見に賛同するように言った。


「 …まったくっ! 勇輝 はそんなのだから小学生の時みたいに私がいないとこいつみたいな奴らにいい様に揶揄われるんだからしっかりしてよねっ!!。」と言う少女を見て 勇輝 と 和真 はどうやら怒りが収まっていくのを確認できて胸を撫で下ろした。


殺気を放った蹴りを繰り出した少女の名は【 宵闇 鏡花 (ヨイヤミ キョウカ) 】。


成績優秀、容姿端麗に加え小学校から母方の祖父が開いている空手道場に通い中学生の時には全国優勝をするほど実力であり文武両道を貫いている。


大和撫子の様な美少女の容姿とは裏腹に気が強く考えるよりも先に手が出るほど行動力があり両親とも警察官で尊敬もしているせいか正義感が強い少女だ。


「 あれ?、勇輝 今日はコンタクトしてないの?、もしかして忘れた?。」と先ほど迄怒っていたのが噓のように 鏡花 は優しい笑顔で 勇輝 を心配ながら言った。


鏡花 と 勇輝 は唯一の小学校からの幼馴染で 勇輝 が小学校の頃にうけたいじめを先生に報告した女の子でもある。その際、 勇輝 に「私がずっと守ってあげるから傍に居なさいっ!」と


小学校時のクラス全員の前で大声を上げながら言い放った後、自分が逆プロポーズじみた事を言ったのに気付き顔を真っ赤にさせながら 勇輝 に「何を言わすのよっ!!」と言ってビンタを放った事を一瞬 勇輝 は思い出した。


「あ…ああ、今から学校のトイレでコンタクトを付けようと思って。」と頬を摩りながら 勇輝 が言った。


「…?。そう、だったら早く行かないとね。」と 鏡花 は言うと数歩 勇輝 の前に歩き鞄を後ろにして笑顔で振り向いた。


鏡花 のその仕草に誰もが目を奪われるほど可愛らしく魅力的に見えた。


「は~…っ!本当に残念だよっ!。こんなに魅力的に見える 宵闇 さんが幻想なのが…本当に残念だよっ!。俺もさ、中学生の時に勇輝 から


紹介されてさ、第一印象はホントすっっっっっごい美少女でさ、滅茶苦茶喜んでいたのにさ、いざ話してみるとスッゴイ怒りっぽくて


 チョット 勇輝 をからかったらもう~~殴るわ!蹴るわ!で話すより先に手が出てきて驚いたのなんのって…それに全中空手大会で優勝の実力だから


 もう…怖い怖い!…容姿が超美少女なだけにホント詐欺と言うか…そう!当たり屋!テレビの衝撃映像番組でみた海外の当たり屋!に出会ったみたいな感じで…ホントまいったよ!!。


 勇輝 もさ、 宵闇 さんと結婚とかしたら大変だよね~!…と言うか結婚するの? 宵闇 さんは 勇輝 の事が大好きなのはバレバレだけど 勇輝 は…って…あれ?。どうした 勇輝 ?」


両手で顔を覆い隠して天を仰いでいる 勇輝 を見てマシンガンの様に不満を言っている 和真 がハッと我に返った。


鏡花 から尋常ではない殺気が溢れ出ていた。


「あ~、 宵闇 さん?。許してね♪テヘペロ♪」と 和真 は言って満面の笑顔で最後に可愛らしく舌を出す仕草をした。あからさまに火に油を注ぐ行動をすると瞬時に逃げ出す。


鏡花 から プチッ! と音が鳴ったように 勇輝 は感じ取った。


「それから 勇輝 っ!。明日は俺、学校を休むからな!。 宵闇 さんの愛妻弁当で仲良くランチでもしておいてくれ~……!」とさらにガソリンに火を着ける様な捨て台詞を言い放ち 和真 は全速力で学校に消えていった。


「あ~… 鏡花 さん?。」と 勇輝 は言って恐る恐るどうやって 鏡花 の怒りを鎮めるか考えながら 鏡花 の顔を見ると殺気は嘘のように消えて顔を真っ赤にしながら俯いていた。


「ゆ、 勇輝 は…わ、私の作ったお弁当って食べたいの?」と隣に居てる 勇輝 に微かに聞こえるくらいの声で 鏡花 は言った。


和真 の捨て台詞が怒りと言うガソリンに火を着けるのではなく消火器だった予想外の事に驚きつつ選択肢が一つしかない回答を 勇輝 は言う。


「もちろん。 鏡花 が作ってくれるのなら楽しみにしてるよ何時でも良いけど大丈夫か?。」


「だ、大丈夫に決まってるじゃないっ!!楽しみにしてて!!」と 鏡花 は言ってすっかり機嫌が直り早速弁当の構成を 鏡花 は考えながら二人で学校に向かった。


学校に着いた 勇輝 はトイレで予備のコンタクトを付け普段と同じ様に授業を受けた。


休憩中に 鏡花 は 和真 を頻繁に探していたが見つからずに激怒していた以外は何時もと変わらない平和な日常を 勇輝 は過ごしていった。


放課後になり帰り支度を済ませた 勇輝 は 和真 と一緒に帰ろうと思い探したが結局見つからず仕方なく一人で帰ろうと思い中央ロビーで靴に履き替えて正門まで歩いていくと 鏡花 が待っていた。


「今日は道場が休みだから一緒に帰らない?。」と少し恥ずかしそうに 鏡花 が言った。


「ああ…良いよ。でも途中でスーパーによって少し買い物をするけど良い?」


「そっか、 勇輝 は一人暮らしになったんだね。あ、私は全然良いよ!。逆に買い物に着いて行っても大丈夫?」


「全然大丈夫だから、それじゃあ一緒に帰ろうか。」


「うんっ!」


満面の笑みで 鏡花 は返事を返し 勇輝 と歩き出した。


「 勇輝 、学校内であいつをみかけた?。」と朝の怒りが収まらず拳を胸元で握りしめながら 鏡花 は言った。


「い…、いや私も探していたがみつからなかったよ…授業はちゃんと受けているみたいだったが…。」


下手に 和真 をかばえば道連れになるのは確実だと確信して 勇輝 は正直に言う。


「ホント、逃げ足の上手さは超一流ねっ!!」歯軋りが聞こえてきそうな勢いで 鏡花 は皮肉を口にした。


「まぁ… 鏡花 には悪いが 和真 のお陰で 鏡花 の手料理が食べれるんだから私としては 和真 に感謝するよ。」 勇輝 は 和真 の気休めのフォローのつもりで 鏡花 に言うと


みるみるうちに顔が真っ赤になっていくのを見て 勇輝 は 鏡花 の打たれ弱さをしみじみと感じた。


「そ、そんなことより 勇輝 はあいつに用があったの?、探してたんでしょ。」


「え、あぁ…大したことじゃないんだが帰りのホームルームで担任が言っていた明日の全校集会の事をね…。」


「確か明日突然決まった全校集会の事?、今年からこの町は医療特区に指定されてその一環で試験的にインフルエンザの予防接種を大々的に推進するから


 この町の全学校を対象に無料で受けられるって話をわざわざ厚生労働省から人が来て明日説明するって言う…そういえばあいつの家は病院だから?」


「ああ…それで 和真 にそんな話は前から耳に入っていたか聞きたかったんだが…あ~…別にたいしたことじゃあないから…。」


「そうね、医療特区だから突然決まったりなくなったりすることもあるんじゃない?。そ、それよりも 勇輝 …す、少し時間があるんだからファミレスっぽい所に行かない?」


「え、良いのか?。買い食いや寄り道はダメなんじゃなかったのか?。」


「そ、それは中学生の時の話でしょっ!!。私達はもう高校生なんだから良いのよ!!。」


「まぁ… 鏡花 も道場とか塾とかで忙しいから今日みたいな日はなかなか出来ないし… 鏡花 からの誘いは断るはずがないからもちろん良いよ。」


頬を赤くして笑顔で上機嫌の 鏡花 と一緒に学校から15分程の距離にあるファミレスに向かう。


学校が郊外にある為、田んぼや用水路が目立っていたがこの町の市街地にあるファミレス周辺には買い物客や同年代の生徒等で賑わっていた。


丁度夕食時間前の時間帯なので空席が目立つファミレスでコーヒーとケーキを食べながら二人で話をする…小学校の頃の事…中学校の頃の事…勉強の事…そしてこれからの事等々…。


勇輝 は笑ったり、少し怒ったりとコロコロと表情が変わる 鏡花 を見ながらゆっくりとした時間を過ごした。


日が落ちかけて少し辺りが暗くなってきたので名残惜しそうにしている 鏡花 を説得してファミレスを後にする。


ファミレス近くのスーパーに二人で立ち寄り、 勇輝 の晩御飯の食材を買う際に総菜売り場で学生服姿の男女が食材を選んでいる姿が目立ち 鏡花 は終始、顔を赤くしていたが


笑顔で買い物を終えてスーパーを出た。


鏡花 の家はスーパーと一人暮らしの 勇輝 のマンションとの間程にある為、 鏡花 を家まで送り 勇輝 は家路に着く。


家に着いた 勇輝 は先ほど 鏡花 と一緒にいたせいか少し寂しさを感じながら夕食を作り食べ終えて宿題をする。今日はバイトが休みな分ゆっくりとした時間の中、炊事洗濯をテキパキとこなし


勇輝 は少し早い目に 眠りにつく… 鏡花 や 和真 との楽しい時間を思い出しながら…。



翌朝、勇輝 は普段と変わらず身支度をすませ学校に向かう。登校途中、 鏡花 と出会い一緒に登校する事にした。


「あいつがいないから清々しい朝ね!。」と本当に清々しい顔をしながら 勇輝 と並んで歩いている 鏡花 が言う。


「初めて紹介した時と変わらないな 鏡花 の 和真 嫌いは…。」


「わたしはああいう何を考えてるか分からない上にチャラチャラした奴は、き・ら・い・なのよ!。」


「良い奴だと思うんだけどな…私的には。 鏡花 と 和真 の相性問題だから無理強いは出来ないがあまり無茶はしないでくれよ。今日のお弁当みたいに…ごめん…私のわがままで 鏡花 に怪我をさせてしまって…。」


勇輝 は 鏡花 の絆創膏が張っている手を見ながら心配そうに言った。


「な、な、なんで 勇輝 が謝るのよっ!。全然無茶なんてしてないしっ!そもそも私が不器用ってだけだから…心配してくれるは…すごく…嬉しいけど…。 」


「ありがとう。お弁当すごく楽しみにしているよ。」


「期待してていいわよ!お母さんに教えてもらいながら作ったから間違いないわっ!!」


嬉しそうに自信満々に言う 鏡花 を見て 勇輝 はそこは一人で作ったと言ってもいいのに…と心の中で言うに留める事にした。


学校に着いた 勇輝 と 鏡花 はクラスが違うので中央ロビーで別れ自分のクラスに向かった。


学校校舎は3階建てで一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階と学年毎に分かれている。


勇輝 は自分のクラスに着き自分の席で授業の用意と予習を行っていると始業ベルが鳴った。クラス全員が教室を出て全校集会の為、中央ロビーを横切り廊下伝いに体育館に向かう。


全校生徒が一斉に体育館に移動したために 勇輝 たちのクラス生徒が着いた時には体育館の入り口が生徒でごった返していた。途中、「ふえぇぇぇぇぇっ!!!」と言う何処か聞き覚えの


ある声が聞こえて少し気にはなったがそのまま進み芋虫のようにもぞもぞとごった返している入口を抜けた。


体育館の中に入りいつもクラスが整列する体育館の壇上前の中央辺りに 勇輝 はクラスメイトと共に整列する。しばらくして全校生徒が整列するのを各クラスの担任が確認すると


壇上に校長先生が姿を現した。髪は短めに揃えた白髪、小柄な体格をしているが60歳とは思えないくらい背筋はピンと伸び凛とした佇まいは生徒に程よい緊張感を与える雰囲気を纏っていて


少し細い目の目は活気に満ち溢れ全体の雰囲気と合わさって見た者に説得力を与えるには十分な力強さを放っている。


校長先生は壇上に用意しているマイクに手を掛けて音が出ているのを確認し体育館全体を見渡すように静かに整列している全校生徒を見ながら話し始めた。


「みなさん、おはようございます。今日は一時間目の授業を変更して全校集会を行います。昨日、各クラスの担任の先生から大体の内容は聞いていると思いますので


 早速ですが厚生労働省から来て頂いた方に今後の説明をして頂きますので全校生徒及び各先生方も良く説明を聞いて頂いて理解してください。


 それでは…厚生労働省の方々、よろしくお願いいたします。」と校長先生は言うと壇上を降り、入れ違いに男女二人が壇上に上がって来た。


二人とも黒いスーツを着て男性の方は耳元が見えるくらいの短さの七三分けの髪型、女性の方は首元で揃えられた長さの髪で二人とも清潔感を漂わせていて


お手本の様な公務員姿をしている。女性の方は男性より一歩引いた感じで男性の後に続き壇上に置いてあるマイクを男性が持ち話し始める。




「え~~、先ほど校長先生から紹介して頂きました厚生労働省の【 朽樹 (くちき) 】と言います。」




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