第5話
私は救助されて病院で意識が戻り鏡で自分自身を見たとき、片目だけ瞳の色が違うことに気が付いた。左目が普通の黒色の瞳をしていたのだが右目が深くきらびやかなエメラルドグリーン…。
そう…あの現実とかけ離れた夢の様な体験をした場所で出会った16枚の翼を持つ女性と同じ瞳の色をしていた。【 オッドアイ 】と言うらしく左右違う瞳の色を持つ目の事だと病院の先生は言っていた。
しかもここまではっきりと違い鮮やかな緑色は知っている限りではいないらしい。
小学校の時、私はその目の事で大人や女子は綺麗だの素敵と言って集まってチヤホヤされる事が多くあったが同性の男子は気に入らなかったらしい。
登下校や廊下を歩いていると後ろから蹴られたり、ボールをぶつけられたり、水を掛けられたり、挙句には私の教科書やノート等を破いて捨てたりされていた。
さすがに教科書やノート等、捨てられていた事に気が付いた一人の女の子が先生にその状況を言いに行った。
その日のホームルームで私のいじめの件をクラス全員に言うと女子 vs 男子 の様な構図になり、女子の方から
「なんでそんな事するのっ!」、「酷いっ!!」、「謝りなさいよっ!」等々、
先生に言ってくれた女子を筆頭に怒号が飛び、男子の方は
「そんなの知らねぇよ!」、「俺達じゃねぇっ!」、「そもそもそいつが悪い!」、「もういいから早く帰らせろよ!」等々言いながら応戦して
収拾が着かなくなり先生が私にいじめの被害を聞いて今後その行動を止めさせる様に言おうとしたが私が
「いじめって何ですか?」
と言う予想外の質問が私から出たので先生も含めクラス全員が閉めた蛇口から水がコップに一滴落ちた音が聞こえるくらい静まり返った。
予想外の私からの質問に先生が驚きながら、殴ったり蹴ったりしていないのに殴られたり蹴られたりする事や、
私物を壊されたりしていろいろ嫌な事を一方的にされる事だと先生は私を含めクラス全員に解りやすく簡単に言った。
「どうしたの?」と考え込んで黙っている私に先生が心配そうに言ってきた。
「半分合っていて半分合っていない時は如何すればいいのですか?」と私がさらに斜め上の予想外な質問を先生にした。
「ごめんなさい、もう少し詳しく説明してほしいので出来ますか?」と明らかに目が泳いて混乱しているのを必死で隠し冷静を装いながら先生が私に言った。
「私が殴ったり蹴ったりしていないのに殴られたり蹴られたりされた事、教科書やノートは破って捨てられたので壊された事になるからいじめに成るけど、
嫌な事だと思ったことは無いので半分合って半分合って無いからどうすればいいのですか?。」と静まり返っている教室で私がゆっくりとハッキリと聞こえる様に言った…普段授業で質問するのと同じ様な口調で…。
それを聞いた先生はさらに目を泳がせて必死に混乱している頭を整理しようとしている最中にいじめの事を先生に言ってくれた女子が混乱した様子で
「じゃあ!、殴られたり蹴られたりボールを当てられたり水を掛けられたり、教科書やノートを捨てられたりしても平気だって言うのっ!!。」と目を見開き、全然納得がいかないと言わんばかりに捲し立てる様に私に質問してきた。
そんな気持ちとはまるで正反対の様に冷静で静かな口調で私が
「殴られたり蹴られたりすると痛いけどすぐに保健室で湿布や絆創膏が使えたり、水やボールで濡れたり汚れたりしても施設に帰れば洗濯したり着替えたり出来るし
教科書やノートを捨てられても教科書の内容や黒板に書いていた事は全部覚えているからあまり困らない…だから嫌な気持ちにはなった事が無い。」と素直に言ったら
先生は更に混乱した様子でクラス全員も同様に目を泳がして私が何を言っているのかわからない様子だった。
沈黙がしばらく続いていじめの事を先生に言ってくれた女子と仲の良い、おとなしい女子がおどおどとした少し小さめの声で
「…そしたらどんな事をされたら嫌なの?」と聞いてきた。小さい声だが静まり返った教室に響いた。私は少し考え、淡々とした口調で
「少し違うかもしれないけど…お腹が空いても食べられない事と横になって寝られない事。」とまるで授業をしている時、問題の答えを求められてそれに答える時の様に答えた。
耳が痛くなる程静まり返った教室の中、私を見ていた先生が何かに気付き、ピクンと体を動かし驚きと混乱が見える目がこれ以上ない位に見開いた。
先生の顔が見る見る内に青くなり片手で口を押えながら息が詰まるほどの静寂が続く教室のドアに急いで向かいドアを開けたまま教室の外に出た。
遠くの方から嗚咽をしている声が聞こえてきて暫くしてから先生が教室のドアから少し涙目になりながら入って来た。
少し弱々しそうに歩いて行き、教壇の机に少し体重を掛ける様に両手を添えクラス全員を見渡すように顔を上げた。
「今はなしている問題は後で先生とクラス全員に一人づつお話しをして解決したいと思いますので皆さん良いですか?。」と言う少し言葉に詰まりながらクラス全員に了承を得る様に言った。
「良いです。」と言う声がクラスの2、3人から挙がり、反対意見が出なかったので静かにホームルームは終了となった…。
その後、私に対するいじめがピタリと止み何事もなく小学校を卒業した。
私の中学時代は特待生として私立の中学校に入学したので小学校の友人や知り合いは殆どいなくなった。中学入学前に、
事前に私の【目】の事で問題を起こさないように普段から両目にカラーコンタクトをする様にしたが費用や出来るだけ目に負担を掛けないようにする為、よく見られると色が違う事が解ってしまう
程度のカラーコンタクトしか使用出来なくて問題が起こるかどうか気にはなったが取りあえず気付いたのは和真だけだったので私はその際に小学生の時、目の事で一時期虐められていた事を話した。
その後、和真以外は気付く人はいなかったので中学校を卒業するまで問題が起こらず過ごせる事が出来た。
それ以前に私が入学した中学校は県内でトップクラスの進学校の為、他人を気にしたりやっかみをしたりする余裕が回りにはなかった事の理由が大きかったみたいだった。
私は学校のトイレでカラーコンタクトを着けようと少し速足で学校に向かっていると
「ぷぷっ!!。」と横に一緒に歩いていた和真が突然笑い出した。
「どうかしたか?」と私が歩きながら突然笑い出した和真の方を向いて聞いてみた。
「ああ…お前と友達になった時の事を思い出して…な…。」と和真は笑みを堪えながら私の問に答えた。
「和真はその事を思い出すと必ず笑うからな…。」またか…と言う気分で私が呆れた口調で言った。
「だって…ぷっ!…お前…ぷぷっ!…マジで病院に行くか普通っ!!…ぷぷぷっ!!」と和真は腹を抱え笑い転げるのを必死で我慢して私の腕を掴み立ち止まった。
私は表情には出さないが、ヤレヤレ…と言う気持ちで掴まれている腕とは反対の腕を腰にあて友人の笑が治まるのを早朝の清々しい空を見上げながら待った…。
【 日嗣 和真(ヒツギ カズマ) 】と初めて出会ったのは中学一年の時、一学期期末テストの成績順位が張り出されている廊下の脇にあるトイレで和真が私に声をかけてきた。
県内でトップの進学校と言う事もあり頻繁に実力テストが行われていて中学一年生でも一学期の中頃になると成績の順位1位~3位迄はだいたい固定する様になっていた。
三階建ての校舎の一階には一年生のクラス、1-A組、1-B組、1-C組、1-D組の合計4クラスがあり両端2クラス別れて中央部分に階段が配置されている。
その中央階段の踊り場には学校側や生徒会、各クラブ活動に関するおしらせ等が掲示される普通の教室で使われるような黒板サイズの大きな掲示板があり
その掲示板にはもちろん毎回、実力テストや中間、期末テストの順位表が張り出される。
一学期期末テストが終了した今回も中央階段の踊り場にある大きな掲示板には成績順位表が張り出されそれを見に来ている生徒で踊り場はごった返している。
張り出されている成績順位表には。
【成績順位】一位…【 朝霧 勇輝 (アサギリ ユウキ) 】498点、二位…【 日嗣 和真(ヒツギ カズマ) 】481点、三位…【 宵闇 鏡花 (ヨイヤミ キョウカ) 】468点、四位…五位…六位………
「すげぇな…また一位だってよあいつ…」
「入学してからずっと一位って…化け物かよ…」
「ほぼ満点じゃねぇか…どんな頭してんだよ…」
所々から生徒のひそひそ話が聞こえてくる。
私は一番後ろから自分の順位を一瞬だけ確認して直ぐに掲示板がある中央の踊り場から向きを変え、トイレに向かい歩き出した。
私はトイレの洗面台で手を洗っているとスッと隣に現れた 日嗣 和真 が私に声を掛けてきた。
「ほぼ満点なんて凄いな、 朝霧 君は。」と隣で一緒に手を洗い出した 和真 が感心した顔で言った。
「ありがとう。」と短く感謝の言葉を私は言うと。
「今度…と言うか放課後、空いている時間ある?。期末テストも終わったから一緒に遊びに行かないか?、あっ俺は 日嗣 和真 って言うんだ!、よろしく!。」
日嗣 和真 がハンカチで拭き終えた手を私の前に差し出しながら言った。
私は頭の中で自分のスケジュールを確認する為に少し考えて「ああ…今日の放課後か明日の放課後、3~4時間程なら空いているけど 日嗣 君はどう?」
と言いながら 日嗣 和真 から私の前に出された手を握り、握手を交わした。
私は握手をしている手を何時離せばいいか少し考えていると 日嗣 和真 が私が少し戸惑っている事に気付いて握手している手を離した。
「あははっ!、ごめん、ごめん!、俺、小学校は海外の学校に行ってたからついつい…それと今日の放課後は空いてるから帰りにそっちのクラスに寄って一緒に行こうか。」
「あ、あと 和真 で良いよ。俺も 朝霧 君の事は下の名前で呼んでもいいかな?。」と 日嗣 和真 が少し照れくさそうに言った。
「ああ…両方とも問題ないよ 和真 、放課後教室で待ってるよ。」と早速、私が下の名前で呼んだ。
「あははっ!了解!それじゃあ 勇輝 、放課後にね!」と嬉しそうな顔で日嗣 和真 が答え私と一緒にトイレを出て別々の教室へと向かった。
放課後、私は教科書等を鞄に入れて帰り支度をしていると入口付近にいたクラスの女子生徒達が少し騒がしくなった。私は不意に入口付近に目を向けると
和真 が入口付近の女子生徒達と何か話しているのが見えた。私が 和真に気付くとほぼ同時に向こうも私に気付き、和真 が軽く挨拶する様に手を上げた。
私は帰り支度を整え 和真 いる入口付近に向かうと入口付近にいたクラスの女子生徒達が興味深々に声を掛けてきた。
「えっ!、なになに! 朝霧 君と 日嗣 君は友達なのっ!!」
「すっご~い!!、学年1位と2位が友達なんて!!」
「これから何処かに行くの?遊びにいくの?、良いな~!!」
「ねぇねぇっ!!、私達も一緒に行って良い?。」
マシンガンの様に凄い勢いで女子生徒達が話しかけに来た。
「あははっ!!、ごめんね~!。今日はみんなは遠慮してもらえるかな?。今度一緒に遊びに行こうね、お願い!。」 和真 が180cm程ある身長を少しかがんで
話しかけに来た女子生徒たちと同じ目線になり顔の前で手を合わせて満面の笑みを浮かべて言った。
近距離で 和真 にお願いされた女子生徒達はみるみる顔を真っ赤にして立ち竦んでいる隙に私と 和真 は教室を後にし
廊下伝いに正門付近にある中央ロビーの全校生徒が使う下駄箱に向かい上履きから靴に履き替えながら先ほどの 和真 の対応に感心した。
「いろいろと凄いな… 和真 は私には到底真似出来ない。」
「あははっ!、海外の学校に居るとこう言うスキルは大事だからね♪。」
「なるほど…。」私が海外で身につけたスキルに納得する様に言った。
靴を履き替え正門から下校する為、二人で歩いていると不意に 和真 が私の顔を覗き込むように見た。
「やっぱり…トイレで気になってたけど 勇輝 の目ってカラコン付けてるの?、それとも【オッドアイ】ってやつ?。」
少し回りを気にしながら私は少し立ち止まりカラーコンタクトを外した。
「両方とも正解。」と私は言って 和真 に深くきらびやかなエメラルドグリーンの瞳を見せた。
「うおっ!!、凄いな!海外の学校で一人だけ【オッドアイ】の友人が居てたけどここまでハッキリとした違いはなかった!
勇輝 で二人目の【オッドアイ】の友人だ!!、凄い!凄い!!」とかなり興奮気味に 和真 は嬉しそうに言った。
「でも、ぷぷっ!、 勇輝 の成績が学年で他の追随を許さない1位というスペックでしかも片目は色違い…ぷぷっ!!
かなりの中二病っぷりだな!!!、ぷぷぷぷぷっ!!!!」嬉しそうにはしゃいでいたのが一転して必死で笑いを堪えながら 和真 は言った。
「チュウニ病?。聞いたことがない病気だな。どんな病気だ?、結構ヤバイのか?」と少し不安げに私が 和真 に聞いた。
「ヤバイって…言い方…ぷぷぷ!!、ああ…ある意味相当ヤバイ…な…っぷぷ!。命には関わらない?…か?ら?…大丈夫だ…ぷぷぷ!!」 和真 は俯き、小刻みに震えながら私の肩を叩き答えた。
「おいおい… 和真 …一番肝心な部分(命)が疑問形だったぞ…大丈夫か本当に?、それとどんな症状なんだ…そのチュウニ?病と言うのは。」
「そ、そうだな…ふふっ、主な症状はだな…まず普通の人には見えないオーラを纏っているように見えたり、片方の手が勝手に動きだす様に感じたりしてその際
【ぐあッ!し、ずまれ!俺の右手!】などといきなり叫びだしたり、最終的には指なしの革のグローブを常時、使用したり…とまぁ、一部の症状ではあるが
そんな感じだ…。」と口元をひくつかせながら 和真 が私に説明をしてくれた。
「幻覚症状による言動の混乱…指無しの革手袋は…分からないな。でも精神的な病気の様だな。でも私はそんな症状は出ていないはずだけど…」と私は
和真 に症状が出ていないので中二病とは違うと
言おうとしたが 和真 が足元にうずくまって震えているのが目に映った。
「大丈夫か?、どこか具合でも悪くなったのか?」とうずくまっている 和真 の体調を伺うように私はしゃがみ込んで言った。
「は~~、だ、大丈夫っ!大丈夫!。やっぱり 勇輝 は最高だよ!!」笑顔で少し涙目になりながら凄くスッキリとした表情で 和真 が私に言うと
立ち上がり、私もそれにつられて立ち上がった。
「そうだ!これからカラオケ行こうぜっ!なっ!良いだろ!!」
「ああ…まぁ… 和真 がいいならもちろん私も良いけど…制服のままで良いのか?」
「大丈夫、大丈夫、知り合いの所だから平気、平気!」
「 勇輝 がこんなに面白い奴とは思わなかったよ!」
「面白い奴と言うのは大いに疑問だが…私はカラオケは行ったことが無いから 和真 にまかせるけど大丈夫か?。」
「あははっ!OK~!OK~!、よしっ…行こうか!」
和真 が私の肩に腕を掛けながら少し強引に知り合いのカラオケボックスに二人で向かいそして二時間程カラオケを楽しんだ…。
「今日は面白かったよ!また行こうな!」
「ああ…私も初めて来たけど面白かったよ。」
「それじゃあ、学校でっ!」
「ああ…学校で。」
和真 とはこのカラオケボックスからは家がお互い逆方向なのでここで挨拶を交わして帰宅することにした。
私は今日の出来事を思い出しながらカラオケボックスからの新しい帰り道を歩いていた…。
施設に住んでいるせいか学校でも同じ年の子とは壁と言うかお互い距離を感じて友人と呼べる人がほとんど居なかったから
和真 の様に話しかけに来こられたのは初めての事だった…少し戸惑ったが新鮮で…何より楽しかった…
明日は私から声を掛けてみようと思いながら施設に向かう。少し足取りが軽やかに感じながら………。
………カラオケボックス後、 和真 とはスッカリ打ち解けて話せるようになった数日後、近くの精神科クリニックから私が出てくる所で偶然 和真 と会った。
その時 和真 は何処か具合が悪いのか?と心配してくれたのが嬉しかったが、私が中二病の件で診察をした帰りだと言った瞬間、 和真 がその場で
涙を流しながら笑い転げ、「もうお腹いっぱい」だの「勘弁してくれ」だの言った時、私は初めて友人と呼べる人に不愉快さを感じた瞬間だった……。
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