第4話

私は施設を出て、進学する高校近くの市営ワンルームマンションを助けて頂いた時からずっとお世話になっている福祉課の職員さんに紹介していただき現在、入学してから住んでいる。


住む場所や環境が変わっても当時、受けていた暴行の傷は全て完治しているが時々、寒くなる頃にきしむ様な痛みが気になるとあの時の不思議な体験の夢を見る。


今でも鮮明に思い出す…すべてが真っ白な場所…翼のある女性…。あの不思議な体験は現実なのだろうか?…と、


私は上の空で朝食を食べている内にちゃぶ台の上にある時計を見ると学校に行く時間なので物思いにふけっていた思考を切り替えて急いで食べ終わり、立ち上がって朝食の片づけを始める。


食器やフライパンを洗い終わってリビングのベランダ側にある備え付けの観音開き型のクローゼットを開く。


一畳程の広さで中には高校生にはかなり少なめな洋服と学生服がハンガーに掛けられて並んでいた。私は敷いていた布団をたたみ、


開いているクローゼットのハンガーが並んでいる下に片づけてそのままパジャマ替わりの上下紺色のトレーナーを脱ぎ、一緒にクローゼットの中に入れる。


私はハンガーに掛けてある学生服を取り、着替えて部屋の隅に積み重ねている教科書とその上に置いている筆箱を鞄に入れて玄関に向かう。


台所横にある5cm程の段差で区切ってある半畳程の玄関に几帳面にそろえてある白色の運動靴を履き私は玄関脇に吊るしてある家の鍵を手に取りドアを開けて玄関を出た。


5階建の市営マンションの3階、中央の階段を隔てて片側7室の内の真ん中の部屋に私は住んでいる。東向きに玄関があり、その周りには田んぼと民家、マンションの西側には


土手を挟み少し大きめの川が流れている。見た目、住んでいる市営マンションより高い建造物はあまり建っていないので天気の良い日は朝の陽ざしがドアを開ければ


降り注いでくる。開けたドアから眩しい光が入り私は少し眉を潜めてドアに向き直り戸締りをして鍵を学生ズボンのポケットに入れた。市営マンションの端には非常階段があるが中央階段伝いに1階まで降りていく。


階段を下り終えた私の目の前に階段と同じ幅の道がある。その道を挟むように両方にマンションの横半分くらいの長さ程ある駐輪場が2列に並んでいる。


駐輪場を通り抜ける様に私は歩いていくとマンションと駐輪場を囲むように腰程ある剪定された緑葉の植木が並んでいて私が道なりに歩いていると道幅程、植木が分かれている所がありそこが出入り口になっている。


私は出入り口付近まで歩いていくとその前に2車線の道路があり、その手前にはマンションの出入り口と繋がっているゆったりと歩けるほど幅がある歩行者と自転車専用道路がある。


私は入口を出て右に曲り、歩行者と自転車専用道路を歩いていく。少し先に20人ほど並べるくらいの大きさがある赤茶色の屋根があるバス停の前を私は通り過ぎ片道20分程かかる距離にある学校へと向かう。


暫く歩いていると私と同じ学生服を着た人が少しづつ私と同じ方向に歩きながら多くなってきた。かなり時間に余裕をもっていつも登校しているがゆっくる歩いている学生や


少し速足で歩く学生、2~3人で話ながら歩く学生等、登校している学生が目立ってきている。


中学生の頃は私が登校する時間帯ではほとんど同じ学校の生徒が登校する姿を見かける事が無かったが高校生になればこれが普通かな?、と思いながら学校に向かう。


学校の壁が微かに見える距離まで来た時、私の少し前を歩いていた同じ学生服の女子が重そうに肩から交差するように掛けている鞄を少し跳ねるような仕草で掛けなおそうとした時、鞄から何か落ちた様な気がした。


私がその場所まで歩いていくと足元に白と赤の組みひもで編んで太く丈夫になっている紐に手にすっぽりと入る大きさで全体が深い紫色の織物で四角い形をしていて金色の糸で「安全祈願」と刺繍が入っているお守りが落ちていた。


そのお守りの組紐の先に鍵が付いていた。私は少し前を歩いていた同じ学生服の女子が落としたと思った。でも落とした本人は気づいていない様子だった。


私は落としたお守り付きの鍵を優しく拾い、落とした女子に追いつく様に少し速足で向かった。それ程私と距離が離れていたかったので直ぐに普段会話する声が届く距離まで追いつき声を掛けた。


「すみません。」


「ふぇっ!!。」と声を掛けた女子生徒は言いながら肩から掛けている重たそうな鞄を両手で握りすぐさま私の方に振り向こうとしたが鞄のせいで首だけ先に此方に向け、ワンテンポ


遅く全体が此方に向いた。170cm程ある私の背丈から肩位に女子生徒の頭があるので140~150cm程の身長、肩より少し長い黒髪を紺色のゴムの髪留めを使って首元あたりで一つに束ね、


綺麗に整えられている眉毛の上で前髪が横一直線に整えられている。はっきりとした二重瞼で普通にしていても少し大きめの目がさらに驚きで見開いているので


より印象深くなっている。私がそこまで驚くの?、と言うほど女子生徒の動きがおどおどして身長も含め幼さの残る顔立ちが動きも相まってリスの様な小動物の可愛さが引き立っている。


「あの…。」


「ふぇっ!!。」


「これ…。」


「ふぇぇぇぇっ!!。」


「あなたの…。」


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!。」


どうしよう…会話ができない…。ひょっとして外国語?。「ふぇぇ。」と言うのは挨拶?みたいな冗談を私は考えていると、やっと私の手に持っている鍵付きお守りを見て落ち着いたようだ。


「すみません…その鍵…。」と少しづつ小さな声に成りながら落とし主と思われる女子生徒が言った。


私は落とし主と思われる女子生徒の目の前にそっと手のひらに置いていた鍵付きのお守りを差し出して、


「鞄から落ちた気がしたのでこちらは貴女の物でしょうか?。」と出来るだけ優しく質問すると、重たそうな鞄を肩から下し、少し慌てたように鞄についているポケットを探して目当ての物が無い事に気づいた。


「そうですぅ!、ありがとうございます!。家の鍵なのですごくたすかりましたぁ!!。」と言って女子生徒は凄く嬉しそうな表情の中、安堵している様子だった。


「よかったです。」と私は言って渡そうとしたが受け取る素振りが無い…。どうしたのだろう?と思い相手の顔を見てみると私の顔を見たまま動かないでいた。


私は不思議に思い、カメラで被写体を捉えたまま移動する様に上半身ごと顔を横に移動した。相手の女子生徒も目を見開いたまま私の目を見つめながら同じ様に顔を向けている。


「あの…。」と私の顔に何か付いているのかと思い訪ねようと声を掛けた。


「あっ…。」と少し小さい声がした瞬間、女子生徒はみるみる顔が赤くなり目が凄い勢いで泳ぎだした。


「ふぇぇぇっ!!!、すっ、すみません!!!すみません!!!。あっあの!!、か、鍵っ!!、あっ有難うございましたっ!!!!!」と女子生徒は言って凄く慌てているが


大事そうに受け取ってしっかりと鞄のポケットに入れ直し、凄く重たそうにしていた鞄を何も入っていないポーチを扱うように素早く、凄い勢いで肩に掛け走り去っていった。


私はなぜ慌てて去って行ったのか凄く気になる…顔に何か付いているのか?。と考えながら首を傾げ、顔に何か付いていたら取らないといけない。


どこか近くに鏡の様な物が無いか探そうと私はその場で立ち止まって考えていたら急に後ろから肩を叩かれた。


「よっ!、おはようっ!!、なに突っ立ってるんだ。さっき女の子がお前から凄い勢いで逃げていった様に見えた…け…ど…。」と私の肩を掴んだ彼が言っている途中で私が振り向くと


私の顔を見て逃げ去った原因を理解した。そして彼は〝 ヤレヤレ…〝 と言った表情を浮かべた。


「お前、カラコン(カラーコンタクト) するの忘れただろ…。」と彼は私が疑問に思っている事の的確な回答を言った。


「あっ!。」と私は少し小さい声が出て、本当に忘れていたという感情を出しながら数秒動かないでいると。


「普段は冷静沈着で完璧超人のお前だけどたまに抜けてる所があると人間だと思えるからホッとするよ。」とポンポンと彼は私の肩を叩きながら後光と共に爽やかな笑顔で


はにかんだ歯から深夜の道で車のハイビームライトを浴びせられたかの様な光が飛んでくるくらい眩しい笑顔を放つ人物がそこにいた。


彼は私と共に同じ高校に進学した中学からの数少ない友人の一人、【 日嗣 和真(ヒツギ カズマ) 】だ…。


彼の方こそ私から言わせれば完璧超人だ。容姿端麗、頭脳明晰、性格は明るく優しい、よく気が付き世話焼きだ。運動神経も良く、


努力家と言う欠点を見つけるのが難しい。リーダーとかヒーローのイメージが当てはまる人物を私は他に知らない。ちなみに私が幼少の頃、入院していた病院の息子だ。


「ここまで来たら学校のトイレでカラコンを付けた方が速そうだな。」と和真は言いながら私の横に並び、私に歩くのを促しながら歩き出した。


少し回りを気にして和真が私に聞こえる程度の声で「小学校の頃みたいに〝 その目〝の事で周りからどうこうされるとは思わないが…。」と私が和真に中学生の時に話した


小学生の時、【 目 】の事で私がいじめを受けていた事を気にして思い出し少し心配そうに言った。

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