第2話
目が覚めた時、全部が真っ白だった…いつの間にか私は上向きに寝ていた。そのままの状態で目を開け、
見えた風景が住んでいる古びたマンションではなく今まで見たことがない風景だった。
私の回り数メートル位先が真っ白い霧の様な物で覆われている。太陽の様な光ではなく全体が暖かな光を発しているみたいに回りは明るい。
視界に入るはずの私の体が見えない。寝ている背中の部分に当たる柔らかい芝生の様な感触があるから体が無いわけではないと思う。
私は体を起こすように意識すると視界もあわせて起きる。視線の足下にある芝生まで真っ白だ。
さっきまで声も出せないくらい体中が痛かったのに今は全然痛くない。
それどころかいままでに無いくらい体が軽くお腹もすいていない。
凄く気分が良い。私はしばらく辺りを見回していると静かで凄く透き通った優しい声が聞こえてきた。
「あなたを探していました」
声が聞こえてくる方に私は目を向けるとそこにはいつの間にか女の人らしき人物?、が立っていた。眩いばかりの銀色で背中まである
髪がシルクの様に滑らかでしなやかに下されている。西洋人の様に目ははっきりとした二重瞼で大きく瞳は
深くきらびやかなエメラルドグリーンで吸い込まれるような魅力を放ちながら優しい眼差しで私を見ている。
口元は少し笑みを浮かべながら閉じている。人形の様に整った顔立ち、そして透き通る様な肌と対照的に
首、胸、腕を守るように銀金色で傷一つない重厚な鎧を纏っている。鎧の所々に真紅の華や文様が刻まれていて、
体と鎧の間から鮮やかな草原を連想させる淡黄緑色で丈が足首まであるワンピースを着ている。そして一番目を引いたのは背中に16枚の白金の光を放つ
翼がそよ風が起こるかのように優しくゆっくりと雄々しく羽ばたいている。優しい眼差しのまま私を見つめ母親にあやされる幼児が
感じる安らぎを覚えるかのように語りかけてくる。
「私は幾つもの星の誕生から消滅の時を駆け、あらゆる世界を渡りそしてこの最果ての星でようやくあなたをみつけました。
本当はもう少しあなたが大きくなってから…光と闇が満ちる黄金の指輪の日に逢うはずだったのですが
失いかけているあなたの命を放っておくわけにはいきません。」
会話をした事がない私は目の前に佇む白銀の翼をもつ女性が聞き覚えのある言葉を使って語りかけているが
言葉を知らない私には何を言っているのか分からず、オロオロしていると白銀の翼をもつ女性が笑みを浮かべ、
優しくゆっくりとした口調で言葉を続けた。
「大丈夫です。言葉は分からなくても感じる事は出来ますから安心してください。
そして、今からとても大切な事を選んでもらいます。」
私は少し困った様な感情を表に出しているとゆっくりと、白銀の翼をもつ女性が大きな声ではないが心にまで響く声で言った。
「あなたは今、死の淵にいます。もし生きたいと願うなら我が主の力…〝 奇跡〝の名の下に命を賜る事が出来ます。
再び命を宿し生きる事を願いますか?。それともこのまま安らかな死を迎える事を願いますか?。」
白銀の翼をもつ女性が言っている言葉は難しすぎてわからないが不思議と理解できるように私の心の中に入ってくる…。
思考を巡らし私は必死に考えてみる…。
いろいろな事をやってみたい…お腹いっぱいに食べてみたい…いろいろな飲み物も飲んでみたい…あたたかい布団で眠ってみたい…
もっと自由に外に出てみたい…もっと話してみたい…いろいろ頭に浮かんでくる…そして私は強く願った。
……生きたいと……。
白銀の翼をもつ女性が私に近づいて腰をおろしその両腕とその白銀の翼で優しく包み込むように
自分自身では姿が見えないがしっかりと抱きかかえられる感触がした。
私は母に抱きかかえられた記憶が無いのにしっかりと母に抱きかかえられている安らぎと幸福を感じる。
白銀の翼をもつ女性の顔を見てみると大きく優しい瞳から頬を伝う様に涙を流していた。
「あなたが受け入れた〝 奇跡〝は、死ぬはずだった未来を変える力…変えたその先の未来は
あなたが作っていかなければなりません。作ったその先の未来に幸あらんことを…。」
白銀の翼をもつ女性が言い終わったあと光とともに私の体がはっきりと見えて何かが意識の中に入り込んできた…
私の意識と混ざり合い今までに感じたことのない不思議な力が中からあふれ出てくる感じがした。
それと同時に回りの景色が輝きだし優しく抱きかかえながら私の意識が遠のいていく…意識が消えかかったとき小さな声が聞こえた。
「感謝します。あなたとの出会いそして生への選択が私達にとっての〝 奇跡〝であり未来を変える〝 試練〝の始まりなのですから…。」
そして完全に私の意識は消えた…。
白銀の翼をもつ女性が姿がきえた幼き子を思い名残惜しそうに上を見上げていた。しばらくしていると
背後に突然、球体の下部が無い半球体の形をした一片の光すら通さない漆黒の闇がそこに浮かび上がる。
突如現れた半球体の闇の中から禍々しい手が出てきて半球体の端を掴むかの様に指が掛けられた。
漆黒の闇をくぐるかのように徐々にゆっくりと半球体の闇から全身が姿を現す。
白銀の翼をもつ女性より一回り大きく髪の毛は鮮血のように赤い。
太く赤色の眉毛はより彫の深い顔立ちを強調する。
眉間には深い皺があり愚直な意志を現すかのように真直ぐに通る鼻筋、瞳は金色に輝きながら圧倒的な力を宿している。
全身を漆黒の鎧が覆っているのにもかかわらず妖しく真紅に輝く光沢を放はなっている。
背中には白銀の翼と対照的に蝙蝠の様な黒い翼が生えている。
半球体に掛けられた手とは反対の手に身の丈3メートルほどあり人が数十人がかりでやっと持ち上げられそうな分厚い刀身で
今まで幾千幾万の戦いを潜り抜けてきたかの様な無数の傷が付いている剣を小枝でも持っているかの様に握りしめている。
「行ったか…。」
少し寂しそうな顔で鮮血のように赤い髪を持つ男性らしき人物が言った。
「ええ…。」
白銀の翼をもつ女性が言いながら寄り添うように鮮血のように赤い髪を持つ男性の横に歩み寄った。
「少し早いがあの子と出会えたことで〝 試練〝 への道が開いた。長い道のりだったな…。」
「ええ…。ようやく私達の未来…〝 運命〝 を変える事ができるわ。」
「ああ…だが、おそらく本来あの子と会うはずの日…黄金の指輪の日に〝 やつら〝 も何か仕掛けてくるだろう…〝 最後の試練〝として。」
「そうね…できるだけ巻き込まないようにしたいけど…。」
「それよりもあの子に会いたかった?」
「そうだな…。出来れば会いたかったがこの姿では怖がられるだろ?」
「ふふ…そうね…。」
「次に会うときは…黄金の指輪の日に一目会うだけで良い。」
「男親の矜持?」
「そんなわけ無いだろ。」
「ふふ…。」
「〝 奇跡〝を手にして俺達の未来をかえないとな。この先にあるあの子…俺達の大切な子供の未来の為にも…。」
「そうね…。私達で掴み取りましょう。」
「ああ…。」
白銀の翼をもつ女性と鮮血のように赤い髪を持つ男性がお互いの決意を覚悟に変え、見上げながら意識が戻っていった幼き子に思いを忍ばせた。
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