天使と悪魔の異世界物語

@akiki

第1話

「・・・・・・・ねぇ!」



「・・・・・・・ってんじゃねぇ!」



「横になって寝てんじゃねぇって言ってんだろ!!」



父の拳が私に振り下ろされる瞬間の所で目が覚める。


六畳程の広さがあるワンルームマンションのリビングに敷いている布団から私は片腕を支えにして気怠そうにゆっくりと上半身を起こし、


布団の真横にある一人用の折り畳みちゃぶ台の上に置いている100均ショップで買った手のひらサイズの目覚まし時計に目を向ける。


「 5時か…。」一人しかいない自室で私は確かめるように言った。


何時もより30分早く目が覚めた私は目覚まし時計のアラームが鳴る前に止めようと腕を伸ばした時、太腿や脇腹、背中から少しきしむ様な痛みが走る。


「っ!。……少し寒くなると気になるんだよな…。」と私は痛みが気になる太腿をさすりながら自然と独り言をつぶやく。


体に少しきしむ様な痛みが走ると決って私は幼少の頃の事を夢で思い出してしまう。


目覚まし時計のアラームを止めてそのまま起きようと私は思ったのだが止めずに腕を布団から放り投げた状態で枕に頭を埋めてまた横になった。


「もう気にはしていないけどやっぱり目覚めが良くないな…。」私は布団に包まりながら天井を見上げ気怠そうに言った。


布団から放り投げた手の甲に冷たいフローリングの感触が伝わってくる。


もう10年程前になるにもかかわらず肌寒くなる頃に思い出させるようにきまって夢を見てしまう。



私は何時もより早く起きようとする気が失せてしまい起床時間まで布団にうずくまる事にした。



「・・・・・・・・・・」布団の心地よい暖かさが私の意識を鈍くさせ瞼が少しずつ重くなっていくのを感じた。



うとうとしているうちにまた幼少の頃の記憶がよみがえってくる。


古びた三階建てマンションの各階に幾つも同じ赤身かかったベージュ色の鋼製軽量ドアが並んでいる。


マンションの中央にある階段を上がり三階の突き当りにある一室…ドアを開ければ大人用の靴が乱雑に置いている半畳程の玄関。


その玄関のすぐ横に敷居も無く天井から太腿位まである丈の水色で花柄の薄いカーテンで仕切られた一畳半程の台所があり、


その台所にはガスコンロ、洗い場、小さい食器棚、冷蔵庫の順に置いてる。


その冷蔵庫と壁の間に約60cm程の隙間があり、その隙間が唯一、私がこの家に居ても良い空間だった…。


「何、そこから動いてんだてめぇ!!!!」


「お前の顔を見るだけでムカつくんだよ!!!」


物心が付く位からその場所から動くと父の拳が私に飛んでくる…。


当時、4才ぐらいの私は冷蔵庫と壁の隙間でジッと息を潜める事しかできなかった。


トイレは父がいない時や奥のリビングに居る時、又は寝てるとき寝静まるまで待って見つからないように外にある共同トイレで用を足す。


見つかれば動いて父の視界に入って来た理由で拳が飛んでくる…。


喉が渇けば水道水を寝静まってから飲み、お腹が空いて我慢出来ない時は殴られるのを覚悟で


冷蔵庫にある野菜や食器棚に置いているインスタントの麺をそのまま食べ、残ったら壁と背中の間に隠し、少しずつ食べた…。


台所とその奥にあるリビングの仕切りには上下2枚の磨りガラスがはめ込んである引戸が2枚、常に閉められていて奥のリビングに母と父が何時もその場所に居てる。


母は私の居てる台所には姿を見せることは無く、それどころか外出すらしている所を見たことが無い…。


何時からか分からないけど、家に知らない男の人が頻繁に来ていた。1日に3人~5人位、その度に父は


嬉しそうな顔でお金を握りしめ何処かに出かけていくのが何時もの風景だった…。




吐いた息がすぐに白くなるくらいの寒い日、私はお腹が空き過ぎて耐え切れず冷蔵庫を開けて食べ物を探そうとした。


幸いにも父はさっき外出したばかりだった。冷蔵庫にはビール等のアルコール類がほとんどだったが手前には数個の


コンビニのおにぎりが置いてあった。私は開け方がわからなかったので無造作に袋を破き、急いで口の中に流し込むように食べた。


手が震えるほど美味しかった…。しばらく夢中で食べていると突然、父が帰って来た。私は慌てておにぎりを後ろに隠したが父にばれてしまった。



「お前っ!!!何、勝手に食べてんだよっっ!!!!」



怒涛を発し、激昂した父が目を血走らせながら私の顔面に前蹴りを放った。


「う゛ぅっ!!」私は声に鳴らない呻き声を挙げて冷蔵庫にぶつかり反動で父の前に転がり倒れた。



「お゛前っ!、みたいっ!、なっ!、ゴミクズがっ!、何っ!、食ってんだよっ!!」と父が叫びながらうずくまっている自分の背中を蹴り続ける。



「う゛ぅっ!!、う゛ぅっ!!、う゛ぅっ!!、う゛ぅっ!!。」私は父からの蹴りが背中に当たる度に呻き声を出し、鼻から血を流して口の中は生暖かく少し苦い味が広がっていた…。


蹴られ続けていると激昂して怒号を言っていた父の声が少しづつ遠くから聞こえる様に父の声が小さくなってきた…。


痛みも少しづつ感じなくなって、息が白くなる程、寒い日なのに薄汚れてボロボロで4才ぐらいの子供が着るには小さめの半袖、


半ズボン姿でも寒く無くなってきた…。それに蹴られているのにもかかわらす凄く眠い…目が開けられなくなってきた…。


私の目が閉じようとした時、玄関のドアが勢いよく開く音がして、数人の知らない人の声が遠くから聞こえた気がした。



「止めろ!!!、直ちに確保っ!!!、緊急逮捕!!!……。」


「しっかりしろ!!、もう大丈夫だ!!、聞こえるか!!!」


知らない声がした…私に声を掛けているようだけど言葉がわからないので何を言っているのかわからない。


それに体の感覚がほとんどない…。



「 ひどい…なんて傷だ……急いで外で待機している救急隊員に連絡!!!、早く担架を!!!…… 」



私の周りで何か言っているような気かする…。


うずくまって何時もと違う場所で私が寝ようとしているから怒っているのかと思った。


何時もの場所…、冷蔵庫と壁の間まで私は行こうとしたが体が全く動かない…手足が無い様な感じで


感覚が無く、凄く眠たい…。既に目が閉じていて開こうとしても全然目が開けられない…。


早く何時もの様に冷蔵庫と壁の間で膝を抱えて座って寝ないとまた殴られる…………。




そして私は意識が無くなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る