第40話 メイド・イン・ハウス
ヤバい。迷った。お姉さんに渡された地図を見ながら依頼人の家まで来たはずなのに、その家がどこにも見当たらない。俺たちの目の前にあるのは荒れた雑木林だけだ。
「キール邸……地図だとここらへんで合ってるんだけどなあ……」
エディカにならともかく、お姉さんが俺に嘘の地図を渡すことなんてないし。腐ってもプロだからな。仕事は真面目にこなしている。きっと、俺がどこかで地図を読み間違えたのだろう。
「ハルト、地図貸して」
「ああ」
地図を渡すと、セツナは食い入るようにそれを見る。俺はもうお手上げだ。だから頼むぞ。
「ハルト、ここで合ってるよ」
「いやいや、そんなわけないって!」
雑木林だぞ。仮にも貴族がこんなみすぼらしい所に住んでいるわけがない。
「いいから。中に入ろう」
「ええ……」
参ったな。俺今半袖だぞ。O型だから蚊に刺されやすいんだよなあ……。セツナに背中を押されながら渋々雑木林の中に入っていく。森ほどじゃないけど結構暗いな。
「お邪魔します……」
セツナの言うとおり私有地かもしれないから、一応形式上挨拶をする。誰もいないけど。虫に刺されないことを祈りながら雑木林をまっすぐ進んでいくと、すぐに明るくなった。見た目に反して以外と規模は小さいのか。まあ、虫に差されなかったから良かった。
「ほら見て! ボクが言った通りだ‼」
「言った通り……? うお!?」
なんなんだ‼ この豪華な建物は‼ なんだなんだ‼ あの綺麗な噴水はなんだ‼ なんだなんだ‼ すぐ近くの雑木林とは正反対の美しい花畑⁉
(アコーティンの宿がすごくしょぼく感じてきた。ここで暮らしたいなあ」
「ハルト、声に出てるよ?」
驚きの余り声に出てしまったか。一旦落ち着かないと。
誰か人はいないか? 屋敷の前に行って叫ぶ。
「すみませーん! 清掃の仕事に来た《エロイ》のハルトとセツナですけどー……誰か居ませんかー!」
……………………。
反応無し。
よし。
「出ようセツナ。やっぱり間違いのようだ」
「決断早くない⁉ こんなに広いから気づいてないだけかも知れないよ! もう少し粘ろうよ!」
「俺の中だと貴族の家ってのは常に使用人が外で二人は待機しているんだ! だからここは違う!」
「それは偏見だから!」
「だって……」
「もう! じゃあボクが中に入って直接確かめてくるからハルトはそこで待ってて!」
「任せた‼」
セツナが屋敷の門を開ける。厳重そうに見えるけどすんなり空くとは。貴族の割には無用心じゃないか? それともセツナが獣人だからか?
「ん?」
突然俺の足元が光り出す。足元の光は幾何学模様を描き、じわじわと人が姿を表す。この光……もしかして召喚⁉
「セツナ!戻ってこい!」
「どうしたの大声出して……!」
一体誰が? いや、似てるが若干違う!
光から姿を表したその人はザ・メイド……というかメイドさんその物だった。
その人はペコリと一礼すると、話し出した。
「ハルトさんとセツナさん……ですね。話は聞いています。私はマープル・ファイネ。この家の使用人兼専属魔術師をしております。お待ちしておりました」
「は、はあ……」
「二人とも、別の世界から来たと聞いています。仕事が終わったらお茶でも飲みながらそれぞれの世界の話を聞きたいものですね。それではこちらへ」
組合から貰ったプレートを渡し、屋敷に入る。流石貴族。高そうな物がたくさん置いてある。どれかひとつくらい持っててもばれないかな?
「今日清掃してもらいたいのは中庭です。二人は清掃は得意ですか?」
「ボクはちょっと……でも仕事だから頑張るよ!」
「俺はこの前の召喚で清掃のスキルを身に付けたんでまあ」
「召喚で?ああ、なるほど……」
マープルさんが俺を哀れむような顔で見る。受付のお姉さんといいそんな目で見るのやめて。なんか心にくるから。
ことあるごとに屋敷の部屋を説明されてたら、あっという間に中庭についた。
「こちらです。それではよろしくお願いします」
「一つ訊きたいんですけど」
「なんでしょう?」
「貴族なら清掃担当の使用人がいるはずですよね。なのになんで俺たちに、戦功者組合に依頼したんですか?」
マープルさんはそんなことかって顔して説明する。
「依頼主であるハイド様が戦功者からある情報が訊きたいからだそうです。どんなことを訊かれるかは私は知りませんが」
「そうですか。わかりました」
何を訊きたいかはどうでもいいけど、仕事が終わったらいくらでも話してやろうじゃないか。情報料は当然もらうけど。
さて、とっととやるとしますか!
「言い忘れてましたが」
「なんです?」
「中庭にはなぜか大量に発生したヴェノケンがいますのでそちらの駆除もお願いします。全て含めて清掃ですので」
……またお前らかよ‼
二ツ星剣士の召喚戦記《ガチャりれき》 法空絶汰 @HawkZetta
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